丹羽と黒河。
どうやら、俺があの林に入り込んだのがいけなかったらしい。
俺があの林から出て黒河と合流したのを警察が目撃、林に入り込む道が見つかったという。
そこを掘り返して大量の人骨、ほとんどは頭蓋骨だったらしいが、それを発見して、聞き込み調査をしていたという。
「いやぁ、夜分遅くにすみませんでした。まさか貴方があの林に入った人だとはおもわなくて」
心の中で白々しいと思いながら、俺はイヤー偶然ッすねー、まさか犯人だなんて思ってますー、と茶化しながら聞いた。
黒河は俺の隣で真っ青になっている。
あまりにチャイムが煩いから、俺は警察だという男二人を招き入れた。
黒河はすぐさま食堂を綺麗に片付けて紅茶を入れなおし、薄く切ったレモンまで別の皿にのせて出していた。
黒河は終始黙ったままだ。
「黒河さん、大丈夫ですか」
と親父のほうが黒河の顔を覗き込んできた。
若いのはすげぇ黒河を睨んでる。
「…大丈夫、です。少し気分が悪くて、…大丈夫です」
ぼそぼそとそう言う黒河はぜんぜん大丈夫じゃあない。
若いのが殊更に睨みつける。
俺はなんだかむかついた。
むかついたついでに当り散らすことにした。
あんたら、両親が目の前で死んだことある?血まみれで目の前で、潰れて死んだことが。
そう、笑いながら言った。
「何のつもりだ」
若いのはすぐさま反応した。親父はゆっくり首を振った。
「そんな経験は無いですねぇ」
とねっとりとした声音で返す。
なんだかむかついた。
じゃあ、黒河がこんなに怯えている理由なんて判りっこないですよね、もう帰ってくれませんか。
どうして笑い続けられるのか俺も不思議だった、でも笑顔は絶やさなかった。
若いのはきょとんとして、親父は訳知り顔で頷いた。
「…嗚呼そうか、あのときの子どもがきみかぁ。大きくなったねぇ」
親父は心底嬉しそうに言うと席を立った。
軽く挨拶をして家を出て行く。
もう二度とくんなばーか、と心の中で毒づいて、俺は警察を追い返す。
それから食堂から微動だにしない黒河の代わりにティーセットを片付ける。
この家の台所はなんていうか、ムーミン谷のようだ。
ついさっきまでムーミンママがそこで料理をしていたんだと言われたら信じてしまいそうな見た目をしているし、それにとても居心地がいい。
食器を洗って片付ける。勝手知ったるなんとやら。
ついでに黒河気に入りのカップを取って、冷蔵庫から牛乳を取り出す。
あーもーまたあいつは肉ばっかり食いやがって、野菜食え野菜。
鍋で牛乳を沸かして、カップに注いだら蜂蜜と一緒に黒河のもとへ。
あいつはいすの上で膝を抱えていた。
お前野菜食べろよ、冷蔵庫肉ばっかじゃねえかと苦言を呈すると小さく頷いた。
それからカップを目の前に置くとすごくゆっくりとした動きでそれを手に取る。
蜂蜜は、と聞けばラム酒もほしいと小声で返ってきた。
嗚呼、相当参ってる。
「…どうして」
そう呟いて、黒河は喋らなくなった。
丹羽は俺がトラウマを思い出してしまったと思い込んでくれた。
実際は違う、嗚呼もう死刑確定だ、と落ち込んでいたのだ。
ひよこちゃんにはなんて言おう。
俺が捕まる時は、俺を悪者にしなさいと言い渡してあった。
いったい何人食べたんだろう。
すべて美味しかった。
丹羽が帰った後に冷蔵庫を開ける。
綺麗に捌かれラップやタッパーにつめられた少女達はぱっと見ただの食肉。
その中から一番古い肉を取り出して調理を始めた。
筋ばかりのその肉を切って炒めて野菜も入れて。
スパイスも入れて煮込んでシチューを作る。
柔らかい肉を取り出してスパイス揉みこむ。
後はフライパンで香ばしく焼き色を付け、オーヴンでじっくりと焼いて、ロースト…レディ?
油の少ない肉はしょうがやねぎを入れたお湯でゆっくり煮込んで、そのお湯に漬けたまま冷ます。
スライスしてサラダの上に散らし、醤油ベースのたれを回しかける。
ソーセージやベーコンも焼いたり煮たり。
餃子、小籠包、つみれ、肉巻きおにぎり、本当に大量の料理を下ごしらえ。
真夜中だというのに、ひよこちゃんにメールをした。
明日朝から来てください。満漢全席ですよ、と送ればすぐさま返事。
おなかをすかせて参ります、と来たもんだ。
多分ひよこちゃんも知っているのだ、もうすぐ俺が捕まってしまうことを。
きっとひよこちゃんは明日朝早くにやってくる。
出来立てを提供できるように俺はひたすら台所で働き続けた。
俺は寝ずに作って寝ずに食べて、満腹になれれば、もう、死刑台にあがっても構わない。
さあ、明日の料理を、たくさん。
最後の、食事を。




