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黒河。2

丹羽の冗談に心底肝を冷やして一週間。

あいつの冗談は本当に笑えないから嫌いだと思うのに、友情は続いているから不思議だ。

「それは災難でしたね」

と、ラム酒を混ぜて作ったアイスクリームを食べながらひよこちゃんはため息をついた。

死体の隠し場所を変えようかと思いました、と言えばひよこちゃんは首を振る。

今更新しい隠し場所を探そうにもそれだけで不審だ、このままのほうがいい。

現状維持が一番だ。

ひよこちゃんとの関係は、全く維持ではないけれど。

あんなことがあったのに、ひよこちゃんはよそよそしくなったりはしなかった。

俺は欲求に全く抗えない体質らしく、食欲が湧けば人を食べ、そういう欲求が湧けば、まあ、なんていうか。

ひよこちゃんはそれを柔軟に受け入れ、あまつさえ要求する。

一番ぎょっとしたのは、あ、いや、思い出したくない気がする。

けれど多分、今もそれは続いている。

「今日はセックスは無しでいいんですか?」

むせた。

食べてるアイスクリームが思いっきり気管に入ってしまい、滅茶苦茶むせた。

ひよこちゃんは慌てて俺の背中を撫で落ち着かせてくれたけど口元が笑っていた。

「総一さんってば本当に免疫が無いんですね、なんだか可愛い」

今時の子がませすぎてるんです、と言えば更に笑われた。

意外と生意気なところがある、と思えばやはり欲求は一瞬にして湧き上がってしまう。

黙らせますよ、と手首を掴んで押し倒してしまえばやっぱり鞄から避妊具を取り出してきた。

さすがに慣れたけれど、初めてそれを出されたとき、まあ二度目の行為のとき、俺は慌てふためいてしまい笑われたのだった。

男の人なのになんでそんなに慌てるんですか、と笑われたのを覚えている。

まあそんなわけで、そんな関係を続けていて。

今日も今日とて、我慢が出来なくなってしまった。

嗚呼どうしよう。

人を食べはじめて二年、ひよこちゃんと出会って一年ちょっと。

高校二年の三学期、ひよこちゃんにとってはこれから進路を決める大切な時期。

そんな中食欲と、その、まあ、欲望の日々を送るというのはさすがに良くないだろう。

しばらく狩をしても連絡するのは止した方がいいだろう、と思ったのだ。

とりあえず今日は家に帰し、それから連絡を間遠にしないといけないな。

「そう言えば今日のは姫初め、って言うんでしょうかね」

とあどけなく笑う彼女に、また俺は紅くなってしまう。

日課のように彼女を家の近所まで送り届けて俺はついでに買い物をする。

なじみの肉屋で鶏が安かったのでそれを買った。

鶏でつくるすき焼きは好物なので今日はそれにしよう。

野菜も買って家に帰ると丹羽がそこに立っていた。

メールもなしに来るなんて珍しいと思い声を掛けたら、

「腹がすきすぎてメールすんの忘れた」

と返ってきた。

一発蹴りを入れて家に入れてやる。

食堂に卓上のコンロと鉄鍋を出し、ガスをセットする。

それから丹羽に水道水を出して夕食の準備。

丹羽は昔から水道水か沸かした茶しか飲まない。

ペットボトル飲料は苦手なのだ。

だから炭酸水もジュースも飲まない。

ペットボトルに付着している消毒液が怖いという。

コンビニ弁当とかも恐ろしくて食べれないそうで、だから自炊能力は高い。

調味料のボトルはいいのかと聞けば量り売りのところに自分で洗ったビンを持って行ったりしているそうだ。

エンゲル係数高そうだが食材は安いところで買ってるから、と言う。

その店に一度行ったがあれは戦場だ、スーパーじゃない。

そんな丹羽に水を与えて鶏すきの準備。

野菜やら肉やら切ってご飯も炊いて。

材料を運んで丹羽の前に置けば後は丹羽が作る。幼馴染ゆえの阿吽の呼吸。

本来なら俺がやるんだけれど、丹羽はもう家族に近いので任せてしまう。

「ゆうちゃんはお料理が上手ね、将来は奥さんに作ってあげるのかしら」

とおばあちゃんがよく言っていた。(丹羽の名前は勇司という)

てきぱきと肉を焼き割り下を入れ野菜を入れ。

丹羽が頷いた時にはうまそうなとりすきが出来ていた。

後はお互い無言で食べる。

時折丹羽がほおばりすぎて熱さに悶絶するくらいで、後は静かな食卓だった。

粗方おかずを食べつくしたら割り下に鶏の出汁を足して水で洗ったごはんを投入。

卵でとじて雑炊にしてまた食べる。

嗚呼食べた、とため息をついたら丹羽も頷いた。

「だいぶ食べたなー、もう動けない」

はいはいと笑いながら食器をかたして、熱いお茶を出した。

チャイムが鳴ったのはそのときだった。

なんだよ、と舌打ちして玄関まで行く間に二回チャイムを鳴らされる。

五月蝿い遠いんだよ。

はい、と玄関を開けるとスーツ姿の男がいた。

外の暗さと玄関の明るさの差に目が痛んだのか、僅かに細める。

若い男と中年、何だセールスならお断りだぞと身構えると、中年の男が笑顔で手帳を出した。

警察手帳。

「黒河総一さんですね、少しお話を聞きたいのですが、宜しいですか?」

宜しくないですとドアを閉めようとしたらなれた動きでドアの隙間に身体をねじ込んできた。

俺は自称刑事を睨み付ける。

台所には洗物が散乱しているし、丹羽とは言え客がいる。

今日は人が来ているので明日改めてくれと言うと刑事は首を振った。

「いえね、ちょっと急ぎなんですよ。そこの林で人骨が出てきちゃいましてね」

知りません、と言って俺は刑事を押しのけてドアを閉める。

本当に腹立たしく眉間にしわを寄せ丹羽のところに戻る。

その間にもチャイムが何度も鳴ったがもう無視だ。

丹羽の前に座って茶をすすり、今の状況を説明した。

お前の下らない冗談が本当になった、どうしてくれる、と言うと、やっと現状を理解した。

林?人骨?…え、刑事?

「黒河?大丈夫か?顔真っ青だぞ」

チャイムの音と丹羽の声が、遠くに聞こえた。

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