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丹羽。2

ひよひよちゃんを喫茶店に呼び出した。

コーヒーショップや流行の店には呼べない、人に聞かれたら困る話なのだ。

ひよひよちゃんとはあれから何度も一緒に過ごした。

黒河と俺とひよひよちゃんで何度もお茶をして、何度も会話を重ねた。

ひよひよちゃんと黒河がどういう関係なのかは良く分からない。

付き合ってるような違うような、親密だけどよそよそしい、不思議な感じ。

仲は良いみたいだし、俺は黒河にちゃんとした交友関係があることに安堵した。

しかし、だからこそ、ひよひよちゃんを呼び出したのだ。

「お話って何ですか?」

おおよそ警戒なんてものを知らないふうのひよひよちゃんは首をかしげて俺を見た。

どんぶりみたいな器にはあたたかなカフェオレがなみなみと入っている。

更には濃厚なチョコレートケーキも傍らにおいてある。

最初は遠慮していたひよひよちゃんに半ば無理やり注文させたもので、まだ手付かずだ。

そんなひよひよちゃんを前に、俺は一瞬躊躇した。

けれど聞かねばならない。

二人ってどういう関係なのかな、と。

三度深呼吸をして尋ねれば、ひよひよちゃんはすごく、すっごく悩んで、とりあえずカフェオレを飲んだ。

「…おともだち、の、様な?ご近所さんって言ったほうがしっくり来ますね」

ご近所さん。

その言葉を繰り返すと、はいそうです、と返ってきた。

きっとご近所さんの中でもとても仲の良い関係なんだろう、しかし所詮はご近所さん、友達ではない。

だから不思議と距離があるように見えたのか。

黒河との関係が特別だったら困る、そこが確認できてよかった。

俺はなんとなく理解をして、本題を切り出すことにした。

ひよひよちゃん、俺と付き合わない?

まっすぐ、前を見て。

きっと耳まで真っ赤だったと思う。

言葉は軽かったかもしれない、でも、本気。

ひよひよちゃんはきょとんとして、それから口を開いた。

「嫌です。」

あんまりにもばっさりと切り捨てられた。前世は名のある武将だったに違いないほどの切れ味。

でも俺だって引き下がれない。

付き合ってる人とか好きな人がいるのか聞くと首を振った。

じゃあ、と前のめりになれば、ひよひよちゃんはつまり、と言った。

「つまりあなたのことも好きではないと言うことですよ」

笑顔だった。

あんまりにも素直な笑顔だったので俺は思わず見とれた。

ひよひよちゃんは話が終わったと思ったらしくケーキを食べ始めた。

とてもおいしそうにそれを食べ、食べ終わると席を立った。

「話も終わったし、食事も終わったのでそろそろ行きましょう」

と言って。

喫茶店の前で俺達は別れた。

ひよひよちゃんは図書館に行くらしい。

「それじゃあ、また。総一さんのおうちで」

と言って。

お友達のままでいましょうね、って意味なのだろう。嗚呼傷心。

悲しい気持ちを引きずって、俺はそのまま街をぶらつく。

失恋したときの定番としてはカラオケだよなー、と適当に店を選んで入る。

フリードリンク付にしてフリータイムで夕方まで。

喉はがさがさに潰れたけどなんとなくすっきり。

後腐れなくが信条なのですっぱりと諦めた。

で、腹も思い切りすいたので黒河にメール。

今からごはん食べに行くから宜しく、と送ってスマホをバッグへ。

いつもならすぐさま折り返し何かしらの連絡がくるんだが今日に限っては来ない。

なんだなんだ寝てんのか、と思いながら黒河の家へ。

散歩がてら遠回りをして、子どもの頃遊んだ界隈を歩き回る。

遊具が撤去され、もはやベンチと鉄棒くらいしかない公園とか、今でもひっそりとやってる駄菓子屋とか。

鬼ごっこやかくれんぼをやった林にはあいも変わらずフェンスがぐるり。

ちょっと童心に戻って中も見てみようかな、と思い入り込んでみる。

フェンスの穴はどこだったかなと民家と林の間にある小道に入り込む。

穴は子どもの頃より小さくなっているように感じ、俺が成長したからだと自分に突っ込む。

穴に入ればもう懐かしい景色。

林の奥は木が鬱蒼と茂っていて、まるで現実じゃないみたいですごく気に入っていた。

今行ってもどうせそんなふうには見えないんだろうが、でも懐かしくてそこに行く。

だいぶ暗いのでスマホのライトを頼りに歩く。

最奥まで進み、ふと、上を見た。

相変わらず木が多い、空が僅かにしか見えない。

しかし、ただの林だ。秘密めいたものは無い。

今でも悪餓鬼どもが遊びまわっているらしく、踏み荒らしたあとはあったがそれだけ。

そう言えば昔、何か隠すならここにしようと黒河と話したことを思い出した。

けれど隠したいものは大して見つからず、結局何もせずにだらだらとここで過ごしたのだ。

俺達は正直だった。

恐ろしいほどに低い点数のテストとか、壊してはいけないと脅されまくったくせに壊してしまった食器とか、そういったものは全て正直に告白したし、きちんと怒られてきた。

隠したところで仕方が無いのだ。

きっとこれからもそうなんだろう。仕事でミスったりしても正直に言っちゃう社会人とかになっちゃうのだ。

俺は満足して林を出た。

フェンスの穴を出て道に戻ると、目の前に黒河がいた。

お前何してんの、と聞くと、がさりと買い物袋を持ち上げた。

「買い物行って帰ったとこ。お前がここ入ってくの見えたから待っててやったんだよ」

ぶっきらぼうにそういうとさっさと歩き出す。

成る程買い物中に俺のメールが届いたらしい。

黒河は俺の分の夕食まできっちり準備してくれたに違いない。

半分持つよと声をかけて荷物をひったくる。

「…お前、あそこで何やってたんだ」

礼の代わりに、だいぶ鋭い声でそう聞かれた。

童心に返ってた、と答えるとあ、そう、と返された。

あんまりにもそっけなかったので脅かしてやろうと思い、人骨が見つかったぜ、と言ってやったら目を丸くして俺を見た。

「…な、んだって」

黒河の顔が真っ青になって、動揺で目が泳いだ。

瞬間、俺は後悔した。

冗談だってと言いながら背中を思い切り叩いてやれば今度はそちらに驚いて小さく咳き込んだ。

そんなもんこんなとこで見つかるわけねーだろばっかじゃねぇのと大袈裟に笑う。

「…悪趣味な嘘ついてんじゃねぇよ」

そう言った黒河の声は、僅かに震えていた。

俺は黒河に土下座をしたくなった。

こいつは目の前で親を亡くしてたんだ、それなのにこんな下らない冗談を言うなんて。

原形のとどめていない両親の死体を目の前で、本当に目と鼻の先でこいつは見ている。

ごめんなともう一度謝って俺達は帰る。

「メシ、チャーハンでいいだろ」

すっかりいつもの調子に戻った黒河がそう呟いた。

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