丹羽。1
貴様とうとう本物のロリコンに成り下がったか、と暴言を吐いてみたら
「今すぐ遺言を書け、三分程度なら待ってやる」
という返事が返ってきて
「えっ、総一さんって敬語以外も話せたんですか」
という感想も返ってきた。
何でこんなことになったかというと。
うららかな日曜日、雨上がりで空気は澄んでいて、気分がすごく良くなった。
よしじゃあ部屋の掃除だなと思い立ち、絶賛煮詰まり中の課題から逃避すべく掃除という名の断舎利を開始。
そしたら出るわ出るわ無用の長物。
ごみを分別していると本棚の奥からCDがごっそり出てきた。
こんなCD買ったか、と疑問に思い、まあ売ればいいやと思ったとたんに思い出した。
半年程前、課題に煮詰まった俺は気分を変えるために部屋のBGMを変える作戦に出た。
そして、普段聞かないような音楽をと思い同じ研究室にいる黒河からCDを借りたんだった。
貸してくれたのはジャズだった。
こんなん聞くの、って聞いたら、じーさんが仕事のときにかけてたやつって返ってきて納得。
そのCDを有難く借りたはいいが、聞くと眠くなってしまうからすぐさま止めてしまった。
そのうえ、やっぱり気分を上げるならロックだメタルだと思い自分の好きなバンドの昔のCDを引っ張り出して聞くことに。
その時に本棚の奥にしまいこみ、その存在ごと忘れてしまい今日に至る。
いやぁ、思わぬ所から出てきたなぁとしみじみ思い、そして思いついた。
ごみ捨てに外に出るんだから、ついでに返しに行ってやってもいい。
いや行ってやってもって俺から借してって言ったんだから返しに行くのは当然なんだろうけど。
今から家に行くね、とメールを送り、返信なんて気にせず家を出た。
恐ろしい重量になったごみをアパートのごみ捨て場に捨て、一路彼の家を目指す。
途中何度か着信があったが、歩きスマホは迷惑行為だぞと都合よく考えて無視をする。
黒河の家は深緑のお化け屋敷。いや俺が勝手に呼んでるだけだけど。
呼び鈴も鳴らさずドアを開けて大声で来てやったぞ、と叫んでみた。
そのままリビングまで勝手に行く。勝手知ったる他人の家ばんざい。
リビングのドアを開けたら、黒河とロリータ少女がサンドウィッチを食べていた。
で、さっきの暴言にいたるわけだ。
「ほら水道水くらいなら飲ませてやるから、飲んだらすぐさま帰れいっそ飲みながら帰れむしろ土に還れ」
いやーんそーちゃん可愛いお顔がだいなしー、と茶化すと膝に蹴りが入った。痛い。
でも黒河は基本優しいので、俺の分のサンドウィッチと水道水を用意してくれる。
一緒にいるロリータ少女はおいしそうな紅茶を飲んでいたけど、ここはまあ黒河の冗談として受け取る。
この部屋にはソファと机があって、一人掛けが向かい合わせに置いてある。
さらに長いすも置いてあって、ちょうどコの字型になってるってわけ。
俺はあいている長いすに座り、えらそうにふんぞり返った。
黒河は俺の前にサンドウィッチを置いてくれて、しかもそれはチーズとレタスと目玉焼き。
「お前加工肉駄目だったよな」
そういいながら黒河はまたひとり掛けのソファに座ってサンドウィッチを食べだした。
俺から見たらまずそうなハムだかベーコンがべろっとはみ出している。うわぁ悪趣味。
でも黒河はおいしそうにそれを食べる。そこにいた少女も俺をちらちら見ながら食べだす。
「気にしないでください、俺が貸していたCDを返しに来た村人Aですから」
と少女に俺を紹介。…いや村人Aって。
ちがいますー、イケメン美大生の丹羽ですー、と自己紹介。
「にわさん」
と、少女はとてもかわいらしい声で俺の名前を呼んだ。
緩やかにウェーブがかった髪をふわふわと揺らして首をかしげる。可愛い。
うんうん、ロリコン野郎のお眼鏡にかなっただけあるわ。
「丹羽さんは、何を作ってる人なんですか?」
紅茶を飲みつつ少女はにこやかに聞いてきた。
でもその前に名前教えてー、と笑うと、あ、と声を出した。
「ひよこちゃんだよひよこちゃん。それ以上何も聞くなひよこちゃんが汚れる」
ひっでぇ、と言いながら俺は俺のサンドウィッチを食べる。
目玉焼きの半熟加減が素晴らしく俺好み。結婚して黒河。
まあ同性婚なんて出来ないからいいけど。
俺は気を取り直してひよひよちゃん(勝手に決めた)に話しかける。
俺は彫刻をメインにしていて、材料は木。
今は手のひら大の動物がメインで、目下取り掛かっているのはウサギ。それも親子。
「…ピーターラビットを作ってるんですか?」
とひよひよちゃんは言ってきた。
いやいや、ピーターラビットほど愛嬌は無いよ、むしろ野生的でさー、とかなんとか説明。
ひよひよちゃんは興味深そうに聞いてくれた。
「総一さんの女の子に丹羽さんのウサギさんを抱っこしてもらったら可愛いかなぁ」
なんていってくれる。
嫌だよこんなロリコン野郎とコラボなんて、と言ったら足を思いっきり踏まれた。
あんだけ幼女人形作ってるやつがロリコンじゃないわけ無いだろっ。自分を認めろっ。
そう言えばぎろりとにらまれる。可愛い顔が台無しですよー。
ひよひよちゃんはそんなやり取りを見つつサンドウィッチを食べている。
食欲旺盛だね、と声をかけるとひよひよちゃんは微笑んだ。
「このベーコン、おいしいですよ。」
…なんだか、吐き気がした。
それからひよひよちゃんとはなんだかんだ会話が続いた。
思春期少女は人見知りで愛想がよくないってのが俺の中の常識だったけど、そんなことはまったく無い。
むしろひよひよちゃんはものすごく愛想が良くて可愛かった。
どこの中学なの、と聞くと俺も通っていた近くの中学を挙げた。
俺らの後輩じゃん!と黒河に言うもただ頷かれただけだった。
まあめっちゃもぐもぐしてたからしょうがないんだけど。
高校はどこ受けるの?と聞くとひよひよちゃんはなんだかすごく、驚いていた。
目をまん丸にして、それから、悲しげな顔になる。
「…もう高校生です」
…謝った。ひたすら謝った。ていうか中学生だと本当に思ったしだから黒河にロリコンって言ったわけで。
めっちゃ謝ったら許してくれたけど、もう居た堪れない。
今度ケーキ買ってくるね!と約束して
「それ俺んちに持ってくる気だろ」
うんそうだね。
だからゆるして!というとひよひよちゃんは笑ってくれた。
「じゃあ、ケーキが来たら、総一さんは私にメールをください。」
三人でお茶でも飲みましょう、と、とても大人ぶってそう言った。




