森でポルカ
小さな影がひとつ、大きな袋を引きずって歩いている。
獣道すらない鬱蒼とした森の奥深く。下生えをかきわけながら、時々木と木の間に引っかかる荷物を引っ張り出しながらの、遅遅として進まない道行だった。
一見すると人間の男の子のようにも見えるその影は、よく見ると子供にしては頭が小さく、手足にはしっかりとした筋肉がついている。彼は『コビト族』という亜人種の、れっきとした大人だ。ふわふわの茶色の髪と同じ色の大きな目。典型的なコビト族の容姿を持つ、彼の名はポルカ=ポルカ。ある重大な使命を帯びて、この困難な道行を続けているのだった。
「はぁ…」
ポルカは、大きなため息をつくと、ついに、大きな木にもたれかかって座り込んでしまった。森の中をもう2日もさまよっている。疲労も、空腹も限界に達していた。こんな森の奥。しかも、化け物が出るという森の奥に入る人間は誰も居ないだろう。誰かが通りかかって助けてくれることは期待は出来ない。自力でここを突破するしかないのだ。
しばらくしてポルカは再び立ち上がり、歩き始めた。
また、あてもなく森の中を歩き回る。ざわざわと木々が揺れる音。鳥や獣の声。草や小枝を踏む自分の足音。聞き飽きた種々の音に混ざって、不意に、何かが聞こえた気がした。
立ち止まり、耳を澄ます。
あきらめて歩き出す。
再び立ち止まる。
何度か繰り返す中、ポルカは確信めいたものを抱いた。
誰か居る……!
切れ切れに聞こえてくるのは、確かに人の声だ。ポルカは、声に向かって迷わず歩き始めた。
そこは森の切れ間だった。奇跡のように、森が途絶えている。平坦で短い下生えだけが茂る狭い円形の空間に、木々の隙間から幾条もの光がやさしく降り注いでいて、その真ん中に火が焚かれている。
焚き火の周囲には、不規則に、さまざま物が置かれている。
変わった色の石、何かの動物の干乾し、根っこ、土の塊…その物と者の間を地面を引っかくようにして描かれた文様がつないでいて、これがただ無造作に置かれているだけではないことを表している。
その文様に沿うように、一つの影が歩き回っていた。
深緑色のローブのフードを目深にかぶり、人相は定かではないが、それは人間のようであった。両手で身長ほどもある木製の杖を捧げもち、足で複雑なステップを踏みながら、ローブの奥からは途切れることなく声が聞こえている。ポルカの知っているいかなる言語とも異なり意味はまったくわからない。声色はわざと変えてあるのか、性別を推し量ることも出来ない。
ポルカは、木の陰に隠れてこの光景を見つめながら、激しく逡巡していた。
声をかけていいものか、見なかったことにしたほうがいいものか。
結構な時間そうしていたが、その異様な儀式が終わる様子は無かった。
彼は心を決めた。これは最後のチャンスだ。この人に森の外まで連れて行ってもらおう。
下を向いて、深呼吸を一つ。
決意をこめてまっすぐ前を見る。
…こっちを、見ている。
いつの間にかローブの人物の動きも、謎の呪文の詠唱も止まっていた。
杖を高く捧げ持ったまま、右足を上げた格好でぴたりと静止し、その顔は確かにこちらに向けられている。体は向こうに向いているのに首だけあからさまにこちらを向いている。絶対こっちを見ている。
足が凍りついたように動かず、ポルカはその場にへたり込んだ。何か言い訳しようとしたそのとき、ローブの人物が動いた。あげられた足で地面を蹴り、一気に体の向きを変えて間をつめ、両手杖を振りかぶる。ポルカは覚悟した。彼は何か見てはいけないものを見てしまったのだ。やっぱり見ないふりをして立ち去るべきだった。
有機物がつぶれる嫌な音がした。
恐る恐る目を開けると、木製の両手杖が彼の真横に振り下ろされていた。その先端の下で、ポルカの顔ほどもある巨大なカエルがつぶれている。ローブの人物が、そのカエルの足を持って拾い上げた。
「獲ったどぉーーーーー!!!!」
高らかに宣言する声は、女性のものだ。近くで見ると、思ったよりもその体は小さかった。見上げると、フードの奥の顔が見えた。亜麻色の髪に縁取られた顔、大きな緑色の目。全体的に顔つきにはまだ幼さが残る。少女といっていい年齢だろう。
「あ、あの…」
ポルカが恐る恐る声をかけると、その少女は初めてポルカに気づいたようだった。
「…あんた誰?こんなとこでなにしてんの?」
それはこっちの台詞だと、その言葉をポルカは飲み込んだ。
「僕はポルカといいます」
「へえー。わたしアマンダ」
「いったい何をされているんですか?」
「≪使い魔招来≫につられてきた蛙をハンティングしたんだよ」
言いながらも、アマンダは焚き火のそばに戻り、懐から取り出した小刀で巨大蛙を解体し始めた。馴れた手つきだ。
「あの、僕、実は、森の中で道に迷ってしまって」
「奇遇だね。私もだよー」
あっという間に解体した蛙を木の枝に刺して、焚き火であぶりながら、アマンダがポルカにとっては衝撃的な一言を発した。
「先生に薬の材料採って来てって頼まれて森に入ったんだけど、出られなくなっちゃってさー。もう1週間だよ」
香ばしい匂いがあたりに漂う頃、ようやくポルカは気を取り直した。一つの可能性に思い至ったからだ。
「アマンダさん、魔法使いなんですね」
「うん。まだ見習いだけど」
「魔法で道とか調べられないんですか?」
アマンダが
あっ…
という顔をした。
「考えたことも無かった……」
呆然と、アマンダがつぶやいた。
「知ってるよ!≪方向感知≫、方向が分る魔法!」
「良かった…じゃあ、それで今すぐ出発しましょう!」
「いや、今すぐは…」
「どうしてですか!?」
ポルカの声が少し荒くなった。彼には急がなければならない理由があるからだ。
「さっきの≪使い魔招来≫で魔法打ち止めなんだ」
蛙肉をほおばりながら、一つポルカに差し出しながら、アマンダは悪びれもせずに笑った。ポルカは暗い目でそれを受け取ると、火のそばに座り、無言で食べ始めた。
◇
森に入って、ポルカにとっては、3回目の夜。
期待の後に突き落とされた衝撃からなかなか立ち直れなかったが、明日になればアマンダの魔力も少し回復し≪方向感知≫も使用可能になるという言葉に気を取り直した。
焚き火の炎は儀式用の魔法の火で番をする必要は無い、というアマンダの言葉を信じて、ポルカは眠りについた。どうせ体はくたくたで起きてはいられなかっただろう。アマンダも横たわってすぐに高いびきをかきはじめた。
しばらくして
ひそやかな気配に、ポルカは目を開けた。
火をはさむようにしてアマンダとポルカ。ポルカのそばに彼の大きな荷物。小さな空間を茂みが取り囲み、その向こうには真っ暗な森が広がっている。
茂みの向こうに、何かが居る。
アマンダのいびきは止み、魔法の炎は音を立てない。風もなく、獣の声もない。静まり返った中に、がさがさ茂みを掻き分け、ざくざくと草を踏みしめる音がする。横を向いて丸まるようにして眠っていたポルカの背後へ、そいつはゆっくりながらも確実に近づいて来ている。
その間、ポルカは疲れて泥のように眠っていたはずなのに気がついてしまった自分と焚き火の向こうで何も気づかず眠っている様子のアマンダを心の中で全力で罵っていた。近づいてくるモノが何か、考えるのも恐ろしい。どうにか今からすべて忘れて眠ることは出来ないだろうか。ぐるぐる考えているうちに、その気配はポルカのすぐそばまで来ていた。
静かな息遣いが聞こえ、獣のような匂いが鼻をついた。かすかに死臭のようなものも混ざる。そいつの体臭だろうか。ポルカは必死で心を無にした。
がさ。
そいつは、ポルカのそばに置いてある荷物に手をかけたようだ。
次の瞬間。
「おおおぉぉおお!!!」
はじかれたようにポルカが飛び起き、雄たけびをあげながら、背後の何者かに向かって飛び掛った。
「それにぃぃぃぃ!!!さぁぁぁわぁぁぁるぅぅなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
相手はよけることも出来ず、ポルカともつれ合ったまま転がる。
「待って、待って……ごめんなさい……降参……こうさぁ~ん」
馬乗りになってめちゃくちゃに振り下ろされる拳から、必死に顔面と頭を守りながら、そいつは情けない声を上げた。その声を聞いて、血の上ったポルカの頭は幾分か冷静になった。組み敷いた相手を見下ろす。
そいつは、頭を抱えた腕の隙間から、恐怖に見開いた目をポルカに向けていた。ボロボロに破れ、泥で汚れたローブのような服、いつ洗ったのかわからない、汚れた肌。ぼさぼさの長い髪で顔は半ば隠れているが、どうやら男、若い男のようだ。
「浮浪者?」
「違いますぅ」
ポルカはとりあえず立ち上がると、荷物を引きずって男から離れ、自分の背後に隠すように置いた。
「山賊?泥棒?」
護身用に身に着けているナイフを、腰のベルトから抜いて構えた。
「違いますよぅ」
男は、ナイフを見ていっそう恐怖を募らせたようだ。腰を抜かしたようにへたり込んだまま、ずりずり後ろへ下がっていく。
「あひゃあ!!」
不意に、背後で甲高い悲鳴が響いた。驚いてポルカが振りむくと同時に、男がはいずりながら茂みに飛び込んだ。
いつの間にか起きていたアマンダが、ポルカの荷物を勝手に開けて中身を覗き込んだ姿勢のまま、凍りついている。
「し、死体が…」
アマンダの手から、袋の端が落ちた。その拍子に、「中身」の一部が袋の外へ出る。それは、腕だった。人間の腕。腕の先にはおそらく人間の体がつながっている。おそらく、袋の中身は、人間だ。
「それは…」
「人殺し!!人殺し!!ギャー!!!!殺人鬼!鬼!!あくま!!!!!!」
アマンダが、杖を振り回してポルカに襲い掛かる。
儀式用の樫の杖だが、その長さはアマンダの身長ほどもあり、一撃で巨大蛙を葬り去る威力がある。逃げ惑うポルカ。男は、じっと茂みの隙間から恐る恐るポルカ達のほうをうかがっている
どれくらいそうしていただろうか。
やがて、疲れ果てた2人は、焚き火を挟むようにして座り込んだ。
「あ、あのですね」
苦しい息の下からポルカが言う
「あれはですね」
「ききたくない…凄惨な殺しの手段なんて…」
「だから…違うんです。あれは、あの方は、僕の主人なんです」
「主人殺し…」
「ちーがーうー!!!!」
ふと気づくと、ポルカの荷物が無くなっている。
「!!!」
辺りを見回すが、見当たらない。ただ、森の方から、足音と、重たいものを引きずる音だけが聞こえてくる。
「あいつめー」
「大事な証拠が!!」
2人が後を追って森の中へと飛び込んだ。
数分後。
焚き火の横に、ロープで縛り上げられた男が転がされている。その脇にロープの端を握ったポルカ。焚き火をはさんでアマンダ。
3人とも、疲れた顔で炎を見つめている。
「だから、この死体は、僕のご主人様なんです」
「……で?」
すっかり疲れ果て、死体騒ぎにも泥棒騒ぎにも飽きてきたアマンダが、ぞんざいに相槌を打った。気分を害する様子も無く、ポルカが口を開いた。
「なんと!僕のご主人様は!!」
立ち上がり、得意げな表情でアマンダと男を見回す。十分に間を取った後
「……聖騎士なんです!!」
言って、再び2人を順番に見る。しかし、反応は予想と違っていた。男はただ横たわり、もはや相槌を打つこともやめてしまったアマンダが、目だけでうなずく。
「ちょっとぉー、聖騎士ですよ?聖騎士」
「今はただの死体でしょ」
「……この森の奥で、化け物が出るって言う話を聞いて、退治しに来たんです」
「返り討ち?」
「違います!化け物ってのはドラゴンの幼生で、それはご主人様が颯爽と退治なさったんです!!でも、その後で」
ポルカが下を向く
「苔むした岩に足をとられて転んで頭を打って亡くなられてしまったんです……」
「……」
「……」
「ご愁傷様です」
縛り上げられた男がぽつりと発した言葉に、アマンダが吹き出した。ポルカが睨み付けたが、男は、気にしている様子はなく、言葉を続ける。
「それで、死体はどうするつもりなんですか?埋葬するなら、首だけとかでいいんじゃないかなぁ。全部持って帰るのは大変ですよぉ~」
「だよね。腐っちゃう」
「だから、腐る前に連れて帰らないと駄目なんです」
「首だけ?」
「五体満足で!!」
「死体のこと五体満足って言うのかな」
「……死者蘇生の儀式の為に、ご主人様のご遺体を腐りはてるまえに全パーツきっちり王都に運ばなければならないんです!」
「死者蘇生……!?」
アマンダの表情が一気に生気を取り戻した。
「すごい!!めっちゃ金持ちなんだ!!!!」
「そうですよ!やっとわかりましたか!!聖騎士ですから!!すごいんです!!!」
「え~、生き返らせちゃうんですかぁ。もったいないなあ」
「……あなたさっきから普通に会話に混ざってますけど、なんなんです?」
「あ、私は」
「あんた死霊術士でしょ?」
アマンダの言葉に、男の表情が輝いた。
「わかりますぅ?」
「わたし召還術士だから。雰囲気でなんとなく」
「そうでしたかぁ~召還術……若いのに珍しいですね」
「死霊術士に言われたくないよ。こんな森の中で何してたの?」
「ご存知の通り、死霊術を使うのに死体は必須なんですがぁ~、墓場とか、病院とか、楽して死体をたくさん得ることが出来る場所はすでに先輩魔法使いの縄張りで、私のような若輩者は手を出せないんですよねぇ~」
「猫みたい」
「ですから、行き倒れを探して森へと踏み込み、道に迷っていた、と、言うわけですぅ」
「……結局、迷子なんだ」
この騒ぎの結果わかった事は、迷子が3人に増えたという事だけだった。
全員が深い深い疲労を覚え、とにかく寝ようという結論に達した。
◆
木々の間から太陽の光が漏れ落ち、苔むした地面や下生えに不規則な模様を描いている。そよ風がさわさわと木々を揺らし、たくさんの鳥の声がこだまする。
森の中に満ちている心地よい音を、無数の足音がかき消していく。下生えを踏みしめ、道なき道を進んでいるのは、2つ足で歩く生き物だ。大きさは人間の子供ほど、青緑色の肌、湾曲した背骨、木や動物の皮で出来た粗末な鎧を身につけ、体に比して長い手には石と棒を組み合わせただけの斧や、木を削って作った棍棒が握られている。彼らはゴブリンと呼ばれる亜人種だ。知性はあるが、邪悪で、人間とは概ね敵対関係にある。
彼らはやがて、木々の途切れる円形の広場に出た。いつもの偵察コースで、何事も無ければすぐに通り過ぎてしまう場所だ。しかし、広場の中央に焚き火の跡が残っている。それを見て、ゴブリン達が口々に何かを話し始めた。彼らには「相談」という文化は無く、言いたい事を叫びあっているだけだが、やがて10体ほどいたゴブリン達の半分ほどが、ちりじりになって何かを探すような素振りで森の中に消えていった。
ポルカ、アマンダ、そして死霊術士の男は、広場の傍らにある大きな倒木の影から、それを見つめていた。大勢の生き物が近づいてくる気配を感じてとっさに隠れたのだが、どうやら最悪の事態に陥りつつあるようだった。
「わぁ、ゴブリンだね~。いっぱい居るなぁ~」
「魔法で何か出来ないんですか?」
「そう言われても、わたしが使えるのは≪方向感知≫と≪使い魔招来≫と……あとは≪アナグマ招来≫くらいしか……」
「≪アナグマ招来≫……?」
「その辺に居るアナグマを呼び寄せる魔法だよ」
「……」
「私はさ迷う邪霊を呼び寄せ……」
「あなたは黙ってて下さい」
「死体に憑依させて操るくらいしかぁ~」
沈黙。
3人の頭に、一つの考えが浮かびつつあった。
「だ、駄目で……」
ポルカが言い終わるのを待たず、残り2人が襲い掛かった。
ゴブリン達は怒っていた。昔からこの森にはドラゴンの幼生が棲み、人間を初めとする知的生命体は足を踏み入れない。何処か遠くから流れ着いた彼らは、食べ物を定期的に捧げ敬う事で、ドラゴンと共生し、この森を縄張りにする事に成功していた。その縄張りを侵されている。広場に残ったゴブリン達は、周囲を警戒しながらも、口々に、自分達がどれだけ怒っているか、侵略者を捕まえた後どう痛めつけるかを叫んでいた。不意に、その声が一斉に止んだ。何者かが近づいてくる気配に、ゴブリンたちの意識が集中した。
ほどなくして、茂みからゆらりと一人の人間が現れた。
ゴブリンと比べればもちろんだが、人間の中でも背が高い方だろう。土に汚れた平衣姿。土気色の肌、右手には長い木の杖を持っている。
全てのゴブリンが殺気立ち、武器を構える。先陣をきり、声を上げながら襲い掛かった一匹のゴブリンが吹っ飛んで、倒れた。頭が大きくへこんでいる。男が、振りぬいた木の杖を構えなおす。残りのゴブリン達が威嚇の雄たけびを上げたが、男は動じる様子もない。
ポルカ、アマンダ、死霊術士の男は、その様子を近くの茂みの中から見つめていた。
「ああああ、ご主人様……」
「聖騎士すごい。めっちゃつよい」
「元の肉体が強いと全然違うなぁ」
ポルカが真っ青な顔で主人の肉体が大暴れするのを見つめている。ポルカの服は所々破れ、顔には痣がついていた。傍らで感心した顔で壮絶な戦いを眺めるアマンダと死霊術士の男も無傷ではなかった。ポルカの抵抗は激しいものだったが、結局多勢に無勢で、彼は主人の遺体を奪われてしまったのだった。
激闘は続く。周囲に散ったゴブリンたちも戻ってきたが、数で圧倒的に劣っているのに男の戦いっぷりにはまったく危なげがない。やがて、周囲に頭をカチ割られたゴブリンの死体がいくつか転がり、生き残ったのがほうほうのていで逃げ出した。
広場の真ん中、蹴散らされた焚き火の跡の上で、男の動きが止まった。それを見て飛び出そうとしたポルカの襟首を死霊術士の男が掴んだ。
「向かってくるものをぶん殴るようにコマンドしてあるから、危ないですよぉ」
「早く、早く元に戻してくださいよ!!」
「このまま貰って帰ってい~い?」
「だ、め、で、す!!!主家が許しませんから!全力で追手かけられますよ」
「君が喋らなければ」
「喋らないと思いますか?」
「喋れなくすれば……」
男を睨むポルカの目に陰惨な光が宿る。男の脳裏にさっきのポルカの抵抗っぷりが浮かんだ。今度はアマンダの助力もないだろう。それなら……
「まあいいかぁ、ゴブリンの死体がたくさん手に入ったしぃ~」
頭を切り替え、男は軽やかな足取りで死体の転がる広場へと歩いていった。
ところで、途中で観戦に飽きたアマンダは、2人の背後で儀式用の石やら草を並べて図形を描いていた。複雑に組み合わせられた図形は、昨日とは違うものだ。その周りを複雑なステップでまわり、呪文を唱える。それは、激戦の裏で、ひっそりと行われていた。
異音に気づいたポルカが振り向くと、アマンダが笑顔でアナグマを抱えていた。
「朝から散々だね。おなか減っちゃったー」
「あの、それは」
「≪アナグマ招来≫だよ。男の人が1人増えたから、カエルじゃ足りないでしょ。血がいっぱい出るし毛皮の処理が面倒だけど、アナグマのほうが食べでがあるよ。今さばくから待ってて」
「あの、≪方向感知≫は……」
アマンダが
あっ…
という顔をした。
「忘れてた……」
呆然とした表情でつぶやく。
「ごめーん。また明日にして」
アマンダが朗らかに笑い、ポルカは、その場に崩れ落ちた。
書いているときのタイトルは「アマンダポルカ」だったのですが
完成してみるとアマンダがほとんど何もしていなかったので
ポルカだけにしました。次書くことがあれば「街でポルカ」です。