スタート
あたしと小林晴翔は
家が隣で保育園からずっと一緒。
幼馴染ってやつ。
親同士も仲良くて、
小さい頃は一緒に旅行に行ったりして、
本当に仲が良かった。
小学生までは、
あたしの方が背が高くて、
いつもあたしの後ろをにこにこ笑いながら
着いてきてた。
それがいつの間にか、
背は追い抜かれ、
小さな男の子だったのが、
男になってしまった。
でもあたしの後ろを着いてくるのは、
あの頃と変わらない。
ジリリリリッジリリリリッ
起床時間を知らせるアラームが鳴り響く。
目をこすり、手を上に伸ばして時計のスイッチを探る。
ポチっとボタンを押すと、やっと静かになった。
ねむーい…あと5分……
いつものことだ。
あたしはどうも朝が弱くて、
布団を出るのにかなりの時間がかかる。
………ん?
てかなんか足下に重みが……
違和感を感じ、起き上がる。
!?
「ちょ!!なんであんたがここにいるのよ!!」
あたしの足下で晴翔が座ったままベッドによりかかるようにして眠っていた。
重さの原因はこれだった。
「………ふぇっ!?」
あたしの声にびっくりして起きる晴翔。
「なに勝手にひとの部屋入って来てんのよ!!」
「あ〜…みゆちゃんおはよう〜」
「にこにこしてないで早く出てってよ!!」
晴翔の服を掴む。
小さい頃は引きずったりして、
あたしのほうが強かったのに、
今はビクともしない。
「ごめん〜」
目をこすりながら自分で部屋を出て行った。
全く、勝手に女の子の部屋に入るとか
ほんと信じらんない!!
しかも何故か寝てるし、いつから居たんだろう。
「みゆちゃんまだ〜?」
ドア越しに声をかけてきた。
「まだ〜?じゃないよ、下降りてて!!」
「…はぁい」
ストン、ストンと少し落ち込んだように階段を降りる足音が聞こえた。
あたしは急いで新しい制服に着替えた。
新品のスカートや、ジャケットがパリパリで
なんだか気分も引き締まる。
カバンに持ち物を詰めて、部屋を出た。
洗面所で顔を洗い、メイクを済ませる。
リビングに向かうと、
晴翔と3つ離れた弟の結城が並んで朝ごはんを食べていた。
「みゆちゃんおはよう♪♪」
晴翔が微笑む。
「あら美優制服可愛いじゃない♪♪
髪の毛はどうするの?」
お母さんがあたしの分の朝食を用意しながら言う。
「…晴翔、今日誠人さんいる?」
「兄ちゃんなら昼まで居るよ、
兄ちゃんに髪やってもらうの?」
「良かったぁ♪♪
だって誠人さん美容師さんだし♪♪」
うきうきでパンを頬張る。
「でもせめてその酷い寝癖くらい
直してから行きなよ」
最近やたら冷たい反抗期の弟は、
今日から中学生。
「美優、お母さん結城の入学式出るから、
はるくんのお母さんによろしく言っといてね」
「はーい」
ご飯を食べ終えて歯を磨く。
メイク大丈夫かな?
確かにこの寝癖は酷いかも。
制服似合ってるかな?
鏡とにらめっこしていると、
後ろでクスクス笑い声が聞こえる。
結城と晴翔だ。
「…なに?」
キレ気味で振り返る。
「べ、べつになんでもないよ?」
嘘がつけない晴翔。
「姉ちゃんいつまでも洗面所独占しないで」
弟め、小さい頃はあんなに可愛かったのに。
歯磨きを終え、晴翔と家を出て、
隣の晴翔の家にお邪魔する。
「あら、美優ちゃんいらっしゃい♪♪
制服似合ってるわ〜女の子ってほんと良いわねぇ♪♪」
晴翔のお母さんは女の子が欲しかったみたいで、あたしが産まれてからずっと、すごく可愛がってくれている。
「おばさんおはよう♪♪
誠人さんいる?」
「誠人なら二階にいるわよ♪♪」
晴翔が歯磨きしてる間に、
あたしは誠人さんの部屋に向かった。
「誠人さぁん、入ってもいいですかー?」
と、ノックをすると、
「んゥ…」
とだけ返事がきた。
「お、お邪魔します…」
中に入ると誠人さんはまだお布団の中だった。
相変わらずシンプルで整理整頓された部屋。
あたしが小さい頃プレゼントした似顔絵が
壁に貼ってあるのを見つけて微笑む。
ベッドの横に座り、寝顔を見つめる。
小林家の遺伝なのか、
晴翔も誠人さんもくりんとしたくせ毛だ。
まだ半寝状態の誠人さんのくせ毛を指でいじる。
可愛い。あたしより5つも年上なのに。
「誠人さん、今日入学式なので髪の毛やってもらえますか?」
ぱちっと目を開けて、起き上がる誠人さん。
数秒ぼ〜っとして、あたしを見た。
「くぅちゃん!!おめでとう!!」
ガバッと急に抱きついてくる。
予想困難な行動に、あたしはいつも誠人さんにドキドキさせられてしまう。
「あ…ありがとぅ……」
「もう高校生かぁ〜。あ、何時に出るの?」
誠人さんはドライヤーやらクシやらスプレーやらを準備している。
「8時には出るつもりなの…」
「あと15分か、よし、じゃあここ座って」
ベッドを背もたれにしてすわり、
その後ろに誠人さんが座る。
机に鏡をセットして準備完了。
「高校生だから、大人っぽく巻こうか♪♪」
「誠人さんがやってくれるなら何でも!!」
「懐かしいなぁ、くぅちゃんは俺のお客さん第一号だもんね」
「誠人さんが18の時だよね?
しかもあの日も、中学校の入学式でさ、
すっごく可愛いってみんなに評判だったんだよ♪♪」
「それは素材がいいからだよ〜」
髪を巻きながら誠人さんが言う。
あたしはこの人の一言一言に、
一喜一憂してしまう。
小さい頃から大好きで、
それが恋だと知ったのは12歳の時。
偶然家の前で見た誠人さんと当時の彼女が仲良く手を繋いで歩いているところ。
今思えば、誠人さんはすごくモテてて、
でも数ヶ月くらいで別れちゃって、
だからあたしにもいつかチャンスがあるって信じてきた。
でもきっと、弟の幼馴染、妹のような存在。
そう思われてるんだと思う。
「ほら、出来たよ♪♪」
ハッとして、鏡を見る。
鏡に映る自分はまるで別人みたい。
「すごい!!さすが誠人さん!!」
あたしは飛び上がって喜ぶ。
誠人さんはクスクス笑いながら、
「まだまだ若いねぇ〜」
と言った。
「晴翔も楽しみに待ってるんじゃない?
遅刻しないようにね」
「ありがとう♪♪行ってきます!!」
「うん、行ってらっしゃい♪♪」
誠人さんに手を振って部屋を出た。
玄関で晴翔が待っていた。
「わぁ!!みゆちゃん可愛い!!」
「ありがと♪♪」
あたしは自慢げに微笑んだ。
いつか誠人さんに見合うような女の子になったら、告白しよう。
だからそれまでどうか、神様あたしにチャンスを下さい。
「…なに拝んでるの?」
晴翔が不思議そうにあたしの顔を覗く。
「べっ、べつになんでもないよ!!
それにしても良い天気だねぇー!!
最高の入学式日和!!」
今日から新しい生活の始まりです。