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休息と...

この物語はフィクションです


誰かを恨まずにはいられない

砂浜に立っていた

海からくる冷たい風と白い砂から伝わるくすぐったさ

どんよりと空を覆う黒い雲が既に夏も終わって肌寒い秋であることを示していた


『結生....』


誰かが自分を呼んだ

振り返るとそこに居たのは両親だった

厳しかった父と優しかった母

二人が自分を何処か悲しい目で見ていた

なに、おとうさん。

と、聞き返した気がする


『お前は...guiding);7,7』


視界にノイズが走った

頭痛がした

覚えてる筈なのに思い、出せない

思い出してはいけない気がした


『cjkg/結4(?,(&&ufdiが使役ugffy&,¥,.¥暴d)49?』


母の声もノイズでいっぱいだ

全く、内容が伝わらない

ノイズが酷くなる

頭が割れそうになる

視界が閉じていく

「...父さん」

何があったんだ、

聞かせて欲しい、教えて欲しい

「父さん...母さん...っ!」

そこで貴方は、一体


一体、何を望んだんですか


『...死ぬな』


最後の一言はクリアだった

突如、視界は光に包まれる

直後に起こる爆発音と衝撃が身体を吹き飛ばし、痛みが全身を貫いた




「がっああああああああああああっ!!」

「く、公暁くん大丈夫!?」


目が覚めた

いつも通り、ソファーの上

時刻は3時36分

嫌な汗が全身から溢れていた

「大丈夫...?随分、うなされてたけど...」

「あ、あぁ...大丈夫だよ」

何か悪い夢を見ていた気がする

思い出してはいけない、何か

「...公暁くん、公暁くんのご両親は...?」

「え?」

久遠が申し訳なさそうに聞いてきた

前回の数藤鷹彦との戦いで守ると言っておきながら公暁を守れなかった自分が恥ずかしいそうだ

昨日から顔を伏せてることが多い

「親なら死んだよ、10年前に」

「ご、ごめん...」

本当のことを言ったらさらに顔を伏せてしまった

少し言動に気をつけた方がいいかもしれない

「で、どうしたんだ?」

「ううん、うなされながらお父さんとお母さんの事呼んでたみたいだったから...」

今更、両親の事は記憶に薄い

叔母の家には写真が残っているらしい

そんなもの、覚えてなければ意味はないが

「同じだね、私のお母さんも10年前に死んじゃったの」

ほとんど覚えてないけどね、と苦笑いで言った

「...そ、そんな暗い話やめよっ!明日行くんでしょ?あの人のところに...」

首をブンブン振って話題を変えようとする久遠

こんな時間に暗い話題をしても何もならない


あの人とは誰か

勿論、前回の戦闘で病院に搬送された

数藤鷹彦、その人である



「よう、来ると思ったよ」

数藤鷹彦は病室のベッドの上でアダルト雑誌から視線を離さず似合ってもいない病院服を着ながら公暁達を出迎えた

公暁と久遠、篁の三人はこの破綻者(シカバネ)の一人である彼に聞くべきことが多々ある

「何だか甘い匂いがすると思ったが見たことねぇお嬢さんがいるじゃんか...例の久遠ちゃんかー?いいねぇ...顔も誠に宜しいね〜...服の上だと分かりにくいけど胸もあるんだろ?」

ちらりと久遠を見て何やら嬉しそうにそう言った

破綻者(シカバネ)の目的はなんですか」

数藤のいやらしい言葉も無表情で一蹴する

その手堅い反応にますます興味を募らせてアダルト雑誌を閉じて三人の方を向いた

「んー...言わば私怨?中には暴れてぇだけのクズもいるけど...あ、俺後者ね」

腕を組んで首を傾げて数藤は言う

「誰へのですか...?」

久遠は少し唇を噛みしめて言った

恨まれる思いなどした記憶は思いつかないが、無いとも言えない

全員が少なからず緊張した面持ちで聞いてると

「お前だよ、公暁」



一瞬、意味がよく分からなかった

数藤はその指を指して続ける

「ウチの雨宮さんは、お前をムチャクチャ殺したがってる」


「な、なんで...」

「理由は知らねぇ、ただお前が全てを潰したって...心当たりがあるんじゃねぇか?公暁」

ニヤリと笑う数藤

某然とした公暁

そんな心当たり、あるわけない

人に殺される程恨まれる事ない


病室を出たのはその20分後だった

良い情報は得られなかったのが結論だった

分かったのは破綻者(シカバネ)のリーダーの雨宮という男は公暁に対し、異常なまでの憎悪を抱いていること

雨宮の側近も同じく公暁に恨みを抱いていること

だが、大多数が暴れたいだけのチンピラ

数藤鷹彦や安羅河凍夜もその部類らしい

人数も規模も不明、しかし警察でさえ捕まえれていないとなると巨大な組織が裏にある可能性がある

全員が使役者使いだ

この程度しか集まらず、結局は諦めた




病室の扉が開く

公暁達がおらず、いい加減アダルト雑誌にも飽きた様子の数藤の元に一人の少年がやってきた

年端もいかぬ子ども

おそらく小学校3、4年生ぐらいだろう

数藤はその子が入るのを見て驚く事もせず少し嬉しそうな顔をする

まるで待ち望んだような

「よう祐太、どうしたんだこんな所に」

「雨宮さんが心配してたよー、数藤にいちゃん荒いからいつも怪我してるって」

祐太と呼ばれた少年はベッドのすぐ近くの椅子に座って屈託ない顔でそう言った

「あ、これ雨宮さんから預かり物だよー」

渡されたのは一つの便箋だった

それを受け取って数藤は苦笑いする

「雨宮さんって機械が苦手って...メッセージの一つや二つ携帯メール使えばいいのによ...なになに...?」

笑いながら受け取りそれを開く

内容は特に目立った所はない

体調を心配してる文章や仲間の皆が心配してるなど、といった平凡な内容

むしろ、不良集団の手紙にしては随分丁寧で違和感しかないかもしれない

「雨宮さんらしいな...ん?」

最後の一文に辿り着くと奇妙な文があった

『PS.祐太ちゃんから僕からの個人的なプレゼントがあるから受け取ってね』

「なぁ、雨宮さんから他に何か受け取ってないか?」

個人的なプレゼントという何とも気の惹かれる文章が気になり手紙から目を離さず祐太に聞いた


これが間違いだった

この時視線を離して祐太を見ていれば、彼の人生は僅か23年で終わることも、組織への忠義も中途半端に終わることも無かっただろう

祐太と呼ばれた少年が使役者(ファミリア)を出していたのに気付かなかった

少年の使役者(ファミリア)から放たれた二つの球体

それが異常な破壊力を持って衝撃波と炎を放たれたその瞬間まで



「けーっきょく不明っと、どうするよ久遠さん」

後ろで腕を組みながら篁が呟いた

病院のロビーを高校生の男子二人に女子一人というシチュエーションが少々目立つが三人とも気にしてない様子だ

「私、気になることがあるの...先に帰ってて?」

久遠は前髪を触りながらそう言った

何か調べ物があるのだろうか

心配しないで、と笑顔で言った

「ん?...そっか、じゃあ公暁は俺の引越し手伝ってよ」

「そうだな、先に帰ってるよ」

篁は以前まで安いアパートの一室を借りての生活だったが公暁達に協力する以上離れての生活はいざという時に危ない

公暁の住む寮で暮らした方が良いと

久遠の家が家賃を全て出して公暁の隣の部屋に引っ越すのだ




ところ変わってここは久遠由莉奈の視点

「お帰りなさいませ、由莉奈様」

そこは豪邸だった

豪華なシャンデリアと広い玄関に出迎えられたが、なんら久遠は思うことはない

何せ自宅なのだから

とても機械的には聞こえない丁寧な声で数名のメイドがお辞儀をしながら出迎えられた

「今日は帰るんじゃなくてちょっと調べ物、図書室使える?」

「鍵を開けてまいります、お嬢様はお先に行かれて下さい」

メイドの中で最も貫禄のあるメイドがそう言って部屋の鍵を鍵を取りに行った


「...あった」

久遠は少々埃っぽい図書室の中心にある丸テーブルで幾つかの資料を見ていた

資料の名前は『久遠市連続怪死事件』と書かれていた


『久遠市同時連続怪死事件』とは10年前に起きた原因不明の死亡事例が続いた謎の事件である

久遠の母親もこの事件で帰らぬ人となった

久遠市で起きた事件で736人もの人が死亡した

10年前に久遠市で亡くなった人は約9割がこの事件で亡くなっている

現在、その死亡者名簿を見ていた

「く」のページを探してお目当ての名前はすぐ見つかる

久遠(くおん)由梨葉(ゆりは)、久遠由莉奈の母の名前

感傷的になる気持ちを抑えてそのページのもう少し下の段

公暁(くぎょう)結月(ゆづき)公暁(くぎょう)結香(ゆか)

公暁結生の両親である


「どっこいしょっと...これで最後か?」

「終わったー!」

公暁と篁は明らかにゲーム機の割合が多い段ボール箱の中身を運び終えてひと段落してるところだ

「...お前随分ゲームあるんだな、金ないんじゃなかったけ?」

「趣味に金を惜しむような真似はしたくねぇからよ!」

「...ドヤ顔で言われても趣味が趣味だけにカッコ良くねぇ」

友人の顔だ

使役者(ファミリア)とか破綻者(シカバネ)とかそんな事はない

普段通りの二人だった

「でもよー、公暁...お前久遠さんと同棲してるんだよな?」

「唐突だなオイ」

古臭いゲーム機を弄りながら聞かれ思わず身体が固まる

別に局所的な変な意味でなく

そして篁が急に声を小さくして聞いてきた

「...ヤったのか?押し倒したか?」

「...」

否定するにしてもこんな質問に返答するのに口の筋肉を動かすのが面倒なので取り敢えず蹴った

自分の脚でなく使役者(ファミリア)を使って

ズシンと嫌な音が部屋に響いた

「ご注文は剣の方か?」

「じょ、冗談冗談!お前みたいな優男&童貞が俺より先に卒業する筈が...!」

直後に振り下ろされる剣を除けば、彼らの日常は変わらないのだった



『久遠市同時連続怪死事件』では主に二つの地点を中心に怪死現象が発生している

一つ目は『久遠市海浜公園』

10年前に起きた怪死現象の発生源であり死傷者の7割がこの付近に居た住民である

二つ目は一回目の現象から約30秒後に『久遠アスレチックパーク』で発生した

残りの3割がこの周辺で死亡している

由莉奈は各死亡者がどの地点で亡くなったか

正確には公暁結月と公暁結香が何処で亡くなったかである

「『久遠市海浜公園』....」

最初の現象が発生した場所であった

しかも遺体の位置からほぼ間違いなく現象の中心に最も近い位置に居た人物らしい

しかし現象の中心にいたにも関わらず死亡せず、かろうじて生き残っている人物も多々いる

『公暁結生』

現象の中心点にいた当時小学2年生の少年だった


「由莉奈...!」

背後から聞こえた声に思わず資料を閉じて振り返る

そこにはどこか痩せ細り杖をついている初老の男性が立っていた

「お父様、ご挨拶が遅れて申し訳ありません」

「愛娘が帰ったというから急いで来たんじゃ...まだ家には帰れぬのか?」

「はい、すみません」

久遠家の家長久遠(くおん)由紀也(ゆきなり)

久遠由莉奈の父である

10年前の『久遠市同時連続怪死事件』で重傷を負い傷は治っても妻を無くしたショックで寝ている事が多くなった人である

残った娘に最大の愛を捧げようとしているらしく実のところ公暁達も知らず知らずの内にお世話になっている

「お前がその不思議な力に目覚め、守るべき尊いものを見つけたのなら、尽力しなさい...私はこの家でお前の帰りを待っているよ...」

「ありがとうございます」

深々と頭を下げて答える久遠

そして、資料をすぐに片付けた

この資料を父に見られると嫌なことを思い出し、体調を崩されるからだ

持ち出しも禁じられている、今日はこの辺りで良いだろう

「そろそろ帰らねばなりません、未熟な人を二人置いてきているので」

「そうか、なら心配される前に行っておいで」

久遠は正門から帰路につこうとする

「...由莉奈」

最後に、由紀也が口を開いた

「...帰るのを待っておるよ」

笑顔での愛のこもった挨拶だった

気恥ずかしい、顔が赤くなりそうなのを抑えて久遠も答える

「行ってまいります、お父様」

また帰るその日まで

ただいまの挨拶は取っておこう




「たーだいまー!」

幼さが残るというより幼さしかないような少年は扉を開けながら元気に部屋の中に入る

場所はお洒落なバーだった

古めかしいクラシック音楽が流れる古風な店内には既に何人かの客がいた

しかし、その誰もがその少年と釣り合わない

屈強な大男や懐に刃物を仕込んでいる人物

派手な刺青を施してる様な人間まで

少々危ない大人の溜まり場だった


しかし少年もその大人達も一切それを気にしてる様子はない

少年の声に反応したのか奥のテーブルにいた青年が手をあげて声をあげた

「あ、祐太ちゃ〜ん!こっちこっち!」

随分間の抜けた声だった

それこそ、その祐太と呼ばれた少年と並ぶくらい周りとは釣り合わない

「雨宮さん!僕ちゃんとやりましたよ!」

「そっかえらいえらい、ほらチョコレート」

とても優しい声だった

声だけでなく、容姿も

学校の制服を一切乱さず、折り目をきちんと付けて校則に一切引っかからない服

ワックスなんて生まれてこの方つけたことはありませんと言わんばかりの自然体の髪

身体から滲み出る優しさが逆に恐怖するぐらいの青年がバーの特等席、ソファーの真ん中に座っていた

「あのねあのね!数藤さん殺してきたんだ!だんまつまも聞こえないくらいに!」

「へー、それは見てみたかったなー」

「うん!凄かったんだよ!数藤さんの身体が一瞬でバラバラになって内臓とかぜーんぶ飛び出してた!」

笑顔で語り合っている

それが当たり前のように

“10歳程の幼い小学生と優等生のような高校生が先程殺した死体について楽しく話している”

異常、常軌を逸している

殺した死体の踏んだ感触や食べてみた死体の味、死体を見た発見者の表情

死体の構図から飛び散った血液の量まで

何もかも、だ

それを周りにいた男女が楽しそうに聞いていた

他でもない、雨宮という青年をリーダーとする集団破綻者(シカバネ)である


「雨宮さん、次はどうするんですか?」

1人の男性が呟いた

色黒の肌にアロハシャツ、最初に安羅河凍夜を回収した大男が雨宮を向いてそう言った

「うーん...宣戦布告するのもまだ早いし...皆結構自由にしてていいよ?時間が経てばこっちから潰すし」

ニッコリ笑って言う

不気味な笑み


「あ、でも公暁結生は俺の獲物で内臓引き摺り出して五臓六腑グチャグチャにした後磔にするから勝手に殺さないでね?」


雨宮は“笑顔”で言った

あくまで笑顔だった、殺されそうな程まっすぐな笑みで

「なら...ちょっとお出かけしてくるわ」

ソファーに座って話を聞いていた妖艶な女性が呟いた

胸を大きく開けた紅いドレスに身を包み、胸から首にかけて大きく蛇がとぐろを巻くような刺青の入った女性

「ん?岬さん行くの?」

雨宮はイチゴミルクをストローで飲みながら言った

そして彼女の刺青を見て

「あー、そう言えば岬さん“狂痕”随分出てきたし、そろそろ浄化しないと危ないよね」

「そーなのよ、可愛い女の子で浄化してくるわ」

わざと胸元を見せるように首筋の狂痕と呼ばれた刺青を見せる

岬と呼ばれた女性は店から出て歩き出した

そして、ふと自分と似合わぬ青い空を見ながら


「...あの久遠ちゃんって子...美味しそうよね」


舌舐めずりと恍惚に満ちた顔はゆっくりと牙を剥き、歩き出す

その獲物を捉えるために



第五話、完

さてはて、速攻で終わっちゃった休憩パートですがいかがでしょうか!


いろいろ新しいキャラが出てきてそろそろ作者の頭が暴発しそうですが、まだもうちょっと終わりません!


謎もちょいちょい解明しながら、物語は進んでいきますよ!


では次回「狂痕」お楽しみに

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