表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

序曲の使役者

この物語は作者の知る中ではフィクションです

登場する地名、団体、人物名、宗教、その他は実際のものとは一切関係ありません

午前0時33分


ぽっかりと空いた車の一台も通らない道路

意味もなく点滅を繰り返す信号機だけがそこにあった

都会なら殺人的残業から解放された独身サラリーマンや、門限なんて忘れて遊んでいたがそろそろ帰らないといけない気がして嫌々帰路につく高校生がいるかもしれない

何にせよこのような時間にも誰かはいるはずだ

ここが首都からそこそこ離れた県の田舎に挟まれた地方都市となれば話は別だ

この地方都市「久遠市」には近くに殺人的残業をするような会社もなく、懸命な高校教師のお陰で変な時間まで遊ぶ高校生も居ない

ただの日本の一都市だった


そう、この時間は人が居ない

—居ては行けなかった



「...っ!...はっ!」

公暁(くぎょう)結生(ゆき)は暗い歩道を走っていた

暗闇に目が慣れるのにこれ程の時間がかかるとは思ってなかった

寮から高校までの道中、わずか3キロの道程で何回こけそうになったか分からない

これでも学校サボらず1年間通った道だが視覚はやはり重要なのだと理解していた


再びバランスを崩しそうになる

道中の電信柱に手をついて息をついた

とりあえず、深呼吸

冷たい空気が気管を通って肺を満たす

溢れ出した汗を袖口で拭きながら公暁は今まで走った道を振り返った

数十メートル程遠くにポツンと置いてある街灯しか見えない

車の一台も、通行人も自分しかいない

「...っ、...な、なんだよ...一体っ...」

公暁は寮の自室で翌日絶対提出の課題を学校に忘れ取りにくる最中だった

近道しようと大通りから外れ裏通りを小走りで進んでいた時にーー見てしまったのだ


「あ、あれって...死体...だよな...」

確か、倒産した工場の前を通った時に見てしまった

顔の左半分、右腕、腹部の至る所

左手の中指から小指まで、両足を骨だけ残して欠如していた

傷口から見るとまるで食べられた様な死体だった

大きな血溜まりを作って肉塊が転がっていた

ボロボロではあったが残っていた衣服から女性と分かった

頭が混乱してるのか、本来あるべき吐き気は全くしなかった

そんな事より、もっと気にすべき事がある


見てしまった

その死体の側に立っていた白髪の青年の姿を

後ろ姿しか見えなかったが間違いなく自分と同じぐらいの年齢の人物だと思う

その場からすぐに逃げ出したから他はよく分からなかった

ただ、自分が逃げ出す直前にその青年がこちらを向いた気がした

だから、ここまで逃げてきた

慣れない全力ダッシュでここまで来たが、振り返っても誰もいない

まだ不安はあったが少し安堵した

あと数百メートル、寮までくれば大丈夫だ

荒れていた呼吸もいつの間にか消えていた

さあ、踏み出そう

こんな事なら課題は諦めるしかない

そう思って一歩、踏み出した



ドッ!!と目の前の地面が陥没した

衝撃波がアスファルトを砕き地面をえぐり、埋まっていたパイプを掘り起こす

「なっ...!?」

あまりの衝撃に目をつぶって尻餅をついた

臀部の痛みよりも目の前の現象に意識が移った

夢ではない、見間違いでもない

「地下のガスが噴出した...とも考えられない...」

大穴は間違いなく上からの衝撃波だった

ここはこのタイミングで偶然にも崩れたとは考えにくい

「な、なんで...」

「おうおう、ちょこちょこ逃げちゃって...

手間取らせんなよ、オマエ」

答えは上から聞こえてきた

というか、降りてきた

殺人現場で見た、白髪の青年だった




「見ちゃった〜っ?見ちゃったよね〜っ!見たんだろ〜っ!?俺のお食事現場!」

トン、陥没した大穴を挟んだ向こう側に青年は降り立った青年は抑揚の激しい声で話しかけてきた

きっと冷静な人物なら、相手の特徴を記憶するだろう

顔の形や背丈など

しかし、今の公暁にそれは無理だった

目の前に殺人鬼(仮)の人間が立っている

お食事現場など、不穏な言葉を喋っている

逃げなきゃいけないという感情が思考を埋め尽くした

「う、うわあああああああっ!」

「俺のナマエは...お、おい!逃げてんじゃねーよ!!」

帰り道にはあの青年がいる

遠回りだが裏道を使う、その道を使えば寮の前にでる

全力で横道に走る

「(狭く入り組んだ道だ、分かれ道も多いここなら振り切れー...


ゴッ!と空気の壁が公暁の体を吹き飛ばした

「ぐ...はっ...!」

不意な衝撃に受け身が取れない、公暁は思い切り汚れた地面を転がった

「人の自己紹介中に逃げてんじゃねーよ、常識ねーのかテメー」

青年はゆっくりした声がする

すぐ、裏道の入り口の辺りだ

「(お、おかしい...!さっきから起こるこの現象!陥没するアスファルトに吹っ飛ぶ俺!一体...!)」

思考を巡らせても繋がらない、痛みが遅れて襲ってきたせいでまともに立つこともできない

向かってくる声の主を視界にいれた時、異様な物が視界に映った


潰された目、犬のように身を屈め姿勢を低くし、荒々しい牙を剥き出しにした口、ボロボロの灰色の体のシルエット

生き物と言えるか分からない存在が、青年のすぐ前にいた

「そ、それは...!?」

「ん〜?あぁ〜、オマエ見えるの?俺の使役者(ファミリア)が?く、くくっ...はっはっはっはっ!!傑作だ!マジかよ!」

どうやらあの青年は頭ネジの2、3本は欠如しているようだ

目を丸くしてこちらを見たあと大きく高笑いを始めた

隙がある今のうちに、考えなければならない

どうやってこの状況から逃げ出すか

おそらく、あの青年は自分を口封じするだろうと公暁は考えながらポケットを探る

何か使えるものを持ってないか見つけるのだ

「んーんーんー、こいつまた腹ヘリタイムだぜー?さっき食った女だけじゃ満腹じゃないらしいんだよね〜...ケケッ」

青年は不気味に微笑んだ

嫌な汗が全身から溢れ出す

これはマズイと

これは死んでしまうと

直感が公暁の頭をよぎった

「(逃げなきゃ...何してでも...絶対!)」

公暁はゴクリと唾を飲み込んでポケットの中にあったスマートフォンを青年に向けた

青年は一瞬拍子抜けしたような顔をしたが次の瞬間思い切り目をつぶった

白色の光が青年の視界を埋め尽くした


「クッ!...フラッシュ...じゃない!ライト機能かよ!」

この時間で暗さに目が慣れてしまっているだろう

そこに急な明かりが視界に入れば本能的に目を閉じようとするだろうと公暁は踏んだ

だがこれだけで逃げ切れるわけじゃないだろう

本当は避けたかったが仕方ない

「クッ...!」

足元に転がっていた一本の鉄パイプ

それを握りしめて思い切り振りかざす

正当防衛、仕方ない

そう念じて振り下ろした


「んっんー、いい手だけどマダマダだなーっ?そんなんで俺を出し抜けれると思ってんのー?」

「っ...!」

使役者(ファミリア)と呼ばれていた灰色のシルエットが動き出した

シンプルに四足状態から立ち上がり

その右腕を公暁の鉄パイプに向けて振り上げた

たったそれだけ

タメ時間もない、わずか1秒程の行動で形勢は逆転した

吹き飛ばされた

鉄パイプだけでなく、公暁の身体も

周囲の壁と足元のアスファルトを砕き

公暁は5メートルは後方に吹き飛ばされた

「クッ....ハァッ!」

体が地面に叩きつけられる

肺から空気がすべて吐き出されるようだ

「こっちくるのは分かってんだし、てきとーにウデ振り上げたら当たるに決まってんだろ〜?お前の身体にゃ当たらなかったがよ」

ブンブンとその腕を振りながら青年は言う

そして、一歩ずつ近付いてくる

公暁はまだ動けない

全身の痛みが身体の動きを阻害する

青年の灰色のシルエットが腕を振り上げる

その手には鋭い爪が

何人もの人間を引き裂いた様な血がこびりついている

「(...嘘...だろ...)」

青年は笑う

「(い、嫌だ....)」

灰色は牙を剥き出し今にも食い殺すように大きく口を開ける

「死にたくないっ!!」

公暁は目をつぶって叫ぶ

ドン、と鈍い音が周囲に響いた



「.....?」

痛みが、ない

「あ、あれ....?」

痛みが脳に伝わる前に死んでしまったのか

となればここは死後の世界か

恐る恐る目を開けると先程と同じ裏道で自分も同じ位置に倒れこんだままだった

違うのは目の前の青年

「くっ...ここで会うなんて奇遇ダナ、お嬢さん...」

痛みに耐えるように腕を押さえ込んでいる

灰色のシルエットも青年の腕と同じ位置に穴が空いていた

穴からわずかに漏れる煙

まるで銃に撃たれたような

「この街は私の庭よ、勝手に荒らさないでもらえる?」

後ろから声がもう一つ

公暁が慌てて振り返ると一人の少女が立っていた

銀色の髪の白い肌、赤い瞳の少女と

その後ろに立つ人型の銀色に輝くシルエットが

「(あの変なシルエットが...二つ!?)」


第一話、完

これは、狂心者とその使役者の物語



皆さん、誰しも「僕にこんなチカラがあればなー」とか「私も魔法を使って使ってみたーい!」と思った事があると思います

私自身、現在進行形でそう思っています

自分にそんな力がなくとも、世界にはあると信じてます

そんな思いを小説の彼らに託しました

受け取ってくれるのを信じてます


先に言っておきます

作中に登場する「使役者」または「◯色のシルエット」と表現されるそれは皆さん知ってる「ジョジョの奇妙な冒険」に登場する「スタンド」または「ペルソナ」に登場する「ペルソナ」を参考にさせて頂いています

「スタンド」と「ペルソナ」の真似事と思ってください

本質はまるで違うかもしれませんが


第2話「藍色の使役者」、お楽しみください

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ