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保留
入ってきたのは、偽矢鱈だった。
「私かぁ」
「そうだよ」
楽しげに言う偽矢鱈に対して、本物の矢鱈はちょっと残念そうな感じだった。
「どうしたの」
僕が聞くと、矢鱈はすぐに小声で返してくる。
「だって、なにか私が勝負しないといけないんでしょ」
「…でも、勝負って何するの」
偽矢鱈が聞いてくる。
「私に聞かないでよ。私にも分からないんだから」
「そうは言ってもねぇ…」
僕をチラチラと二人とも見てくるが、僕にも決めようがない。
「そのまま保留にすればいいんじゃないかな」
生き残ることが前提条件であるため、闘わなければ死ぬことはない。
そう考えた結論だ。
とはいっても、保留にしても必ずどこかで戦う必要はある。
だから、問題を先送りにしただけともいえるだろう。
なにはともあれ、別の誰かがドアを音も立てずに開けた。