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大輪の薔薇は茶色の物体を作る

バレンタインデーのお話です。

そして、ソフィアとユニゾンの時代(?)の話です。

とてつもなく長いのでご注意を;;

大輪の薔薇は茶色の物体を作る


エプスタイン家、書庫―――――

「…チョコレート?」

現薔薇姫、エプスタイン・ソフィアは思わず声を上げた。

今のところ平和な楽園を治めたまだ幼き14歳の薔薇姫。

もちろん、ソフィアのことである。

後に『大輪の薔薇』とまで呼ばれる美しき顔には、少し驚愕の色が混ざっていた。


エプスタイン・ソフィア、14歳の冬。


ちょっとした興味――そう、ただの興味。他意はない――で手に取った恋物語。

こう言った物語を読むのは初めてではないが、内容が内容だったために、特別恥ずかしくなりつつも読んでいた。

(だって、だって、神聖な職業に就く少女と?それを守る騎士?無理、絶対無理。私はこんな少女じゃないし――って、違う!別にこの騎士をあの人と重ねてるわけじゃなくてっ…!)

内心、変な言い訳を誰かにしつつ。

一巻を読み終わる頃には、恥ずかしすぎてもう読めない…そう思ったはずなのに。

実はこの物語、45巻まである大ベストセラーなのだ。

それを思い出した瞬間、ソフィアの手は自然に二巻に伸びていた。

最後が気になる。

でも、途中をとばしてなんて読めない。

そういう思いだった。

で、今は。

主人公である少女があるモノを騎士に渡して想いを伝えるシーン。

これまた恥ずかしくて仕方ないが、物語としては一番重要なところだ。

とばすなんて馬鹿のすること。

で、少女が渡したモノが、

「…チョコレート?」

なわけだ。

恥ずかしさも忘れてそのシーンを繰り返し読む。

何故チョコレート?

別にアメちゃんでもいいのでは?

別にチョコレートが嫌いなわけではないけれど――逆に大好きだ――、相手にあげるなんてもったいない――。

形のいい眉をひそめて何回も、何十回も読んだ。

改めて読んでわかったことだが、どうやらそのチョコレートは手作りらしい。

想いがこもっているチョコレートだからかよくわからない。

売っているものでもいいのでは?

そんな疑問を抱きつつソフィアは続きを読んだ。

騎士は少女の作ったチョコレートを喜び、自分の本当の気持ちを伝える。

チョコレートはあってもなくても変わらない話だ。

よくわからないなぁとソフィアはため息をついた。

「手作りということが重要なのかしら…?」

気になってことはわかるまで調べる。

それをモットーとしているソフィアは似たような恋物語を読みあさった。

しかし、どの本にもチョコレートの記述はない。

書庫の床に座り込み、考えた。

(この本ではチョコレートを使って告白し、見事に叶ったわけで…他の本にそのような記述はない。それじゃぁ有効的かどうかわからないわ。専門書にそんな乙女チックなものが書いてあるわけないし。)

専門書にそのようなことが書いてあるのを想像し、ないないと首を振る。

あり得なさすぎる。

(あぁ、もう。面倒だわ……)

ふと、そこでいい考えが浮かんだ。

(本番でやってみればいいのよ!)


ソフィアは、紛れもなくイスフィールの母であった。


* * *


(ソフィア、書庫でねる気かな……)

薔薇姫の騎士、カエリア・ユニゾンは書類にはしらせていたペンを止め、思い出したように首を傾げた。

(寒くないかねぇ…)

ひとしきり考え、書庫の暖房を入れるために機関室へ行こうと立ち上がる。

本人には聞かない。

読書の邪魔をしては悪いから。

というか、邪魔をすると無視されたりして精神的にキツイ。

もうそれはわかってなければいけないことだ。

一回やったことあるし。

と、厨房の前を通り過ぎたとき、知ってる人が信じられないことをしているのを見た。

「…ソフィア!?」

「へっ?」

呼びかけると肩を揺らして振り返る。

よほど驚いたのか、水色の瞳は大きく見開かれていた。

「ゆ、ゆゆゆユニゾン!?どーしたのっ?」

「ど、どうしたも何も…。」

互いに指を差し合って喋る。

ソフィアだけでなく、ユニゾンも十分も驚いていた。

というか、ソフィアはあり得ないくらい不器用だ。

指先が器用になるのは書物関係のときだけになっている。

そんなソフィアが、何故ここに。

「ソフィア、お前…」

「何?」

「ここで、何やってたん?」

ソフィアの顔が、何故か面白いほど引きつった。

「べ、別に!ユニゾンには関係ないことよっ!」

厨房には、甘いような焦げ臭いようなにおいが漂っている。

焦げ臭いのは不器用なせいだとすると、作っていたのはお菓子か。

自分で食べる場合はユニゾンが作るし、自分で作ろうとするなんて正直あり得ない。

ならば誰かにあげるわけで、でもリカティア達や親族、来訪者へむけての物も作るのはユニゾンだ。

とすると、残るのは一つ。

ユニゾンに言えない人にあげる。

それしか考えられない。

ユニゾンは顔をしかめた。


おもしろくない。


ユニゾンとてこの感情がなんなのか知らないわけではない。

ソフィアに抱く想いが最初会ったときと変わっていることだってもちろん知っている。

だからこそ、おもしろくないのだ。

「そっか。」

「ゆ、ユニゾン?」

勝手に一人で納得したユニゾンに、ソフィアが不思議そうな声を上げた。

それに対してにっこりと嘘くさい笑顔を浮かべ、背を向けた。

「ま、頑張れよ。」

そのまま厨房を出る。

他のことを言うと、八つ当たりになりそうだから。

八つ当たりはしない。

というか、

(大事なやつに、そんなことできるか。)

相手がどう想っていようが、自分の気持ちは変わったりしない。

でも、だからこそ、つらい。

まぁとにかく、複雑だった。


* * *


(あぁ、馬鹿、私の馬鹿―――――!!!!)

一方ソフィアは、厨房にへたり込んで自己嫌悪に陥っていた。

(もうちょっと言い方があったのに!関係ないとか言わなくても良かったのに!)

「―――あだっ」

床に転がって暴れていたものだから、床においてある瓶に頭をぶつけた。

痛みにうめき、身体の力を抜く。

ため息が出た。

「……どうしよ」

今まで結構わがままを聞いてもらったのだ。

こんな勝手なことをして、嫌われてしまったかもしれない。

机の上のチョコレートを見る。

穴が開くほどじぃっと見て考え、ソフィアは心を決めた。

「謝りに行こう。それで、今までずっとありがとうって言って、…これからもよろしくって、言えば…大丈夫だよね?」

(勘違いされないし)

言う練習(?)をして、よし、と一人で頷く。

「渡すことに意義がある!」

本当かどうかわからないことを呟き、ソフィアはチョコレートを持って厨房を出た。


向かうのは、ユニゾンの部屋。


そぉっと扉を開ける。

さっきの出来事のせいか、少しためらってしまった。

「ユニゾン、いる…?」

思ったより、声が小さくなった。

返答はなし。

しかし、机の椅子には誰かが座っている。

見間違えることはない、ユニゾンだ。

(返事くらいしてくれればいいのに…。まさか、ものすごい怒ってる、とか…。)

ソフィアは青くなった。

謝って許してくれるだろうか。

「あの、ユニゾン?」

返答はやっぱりなし。

顔を覗き込み、ソフィアはため息をついた。

寝ている。

瞬間、ソフィアは自分の心臓の動悸を感じ、焦った。

(わ、私は今、好きな人の寝顔を見ているの!?)

自覚し、うろたえ、頬が熱くなる。

以前言っていたことと矛盾しているが、今はそれどころではない。

「…ん…。…?」

「っ!?」

側でうろたえていると、ユニゾンが目を開けた。

覗き込んでいる状態のソフィアの顔は、数?しか離れていない。

ユニゾンの茶色の瞳が見開かれ、ソフィアの頬がさらに赤く染まる。

どれくらいその状態で固まっていただろうか。

「わぁぁぁ!違うのよユニゾン!」

「違うって何が!?俺はまだ何も言ってない!」

ソフィアは混乱し、意味不明なことを叫んだ。

つられたようにユニゾンも混乱する。

「ごめんなさいぃぃぃぃぃぃ!邪魔よね、仕事の邪魔よね!私は行くわ、ごゆっくりどうぞー!」

「落ち着けソフィア!言っていることが少し変だぞ!」

―――数分後。

「ご、ごめんなさい。仕事の邪魔だったでしょう?」

落ち着いたソフィアは、真っ赤になりつつもそう聞いた。

ユニゾンはさらに腹を立てたかもしれない。

「や、別に大丈夫だけど……。どうしたんだ?」

「なんでもな……。…!」

だめだ。

今なんでもないと答えると、さっきのリプレイになってしまう。

何度か口を開閉し、ソフィアは消え入りそうな声で言った。

「…その、…ユニゾン、疲れている…わよね?」

「は?…まぁ。」

「…だから、その…ね?」

「いや、ね?と言われても困る。」

ソフィアはうぅーとうなり、半分ヤケで睨むように言った。

「さっき作ってたやつ、あげるっ!」

箱に入れたチョコレートを投げるように渡す。

「は?」

ユニゾンが目を丸くし、何か聞こうとした。

が。

「やめてぇぇぇぇ!何も聞かないで言わないで!珍しく成功した物なんだから!」

理由になっていない。

そう知っていても、ユニゾンは笑って箱を開けてくれた。

中身はもちろんチョコレート。


ユニゾンは知っていた。

雪が三日三晩降り続けた後の一週間後、東のリリアナでは好きな人にチョコレートを送る風習があると。

ソフィアはそれを知ってやってくれたんだろうか。

知らなくても言い。

ユニゾンは嬉しかった。

だから、あまり人に見せない笑みを送った。

ソフィアに、心からの笑みを。


「ありがとう、ソフィア。」


言おうと思っていたことは、言えなかった。

言えなかったけれど、ユニゾンはそう言って笑ってくれた。

だからソフィアも笑って、こう返すのだ。


「どういたしまして、ユニゾン。」



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