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SS2 薔薇の静寂

再びアノ人目線で。

「薔薇の~」って書いているものはアノ人目線だと思います。

これからも。

SS3『薔薇の静寂』


今日は、笑ってくれるかな。

いつも本読んでるのに、ちゃんと僕の話を聞いてくれてた。

特に何も話してくれなくて、静かだけど。

僕はその静けさが好き。

でも――いつか話したい。

笑いあってみたい。

会いに行くたび、そう思うようになった。


* * *


「薔薇姫様。いるの?」

僕が呼びかけると、かすかに動く気配がする。

最初のころはどうすればいいか戸惑ったけど、それは入っていいという合図だ。

「元気?」

「えぇ…あと、薔薇姫って呼ばないで。」

「う…ごめん…。」

きれいな澄んだ声。

目の前にいる同い年の少女は、本から目を離さずに言った。

こげ茶色の髪は部屋に窓がないせいで黒っぽく見える。

「相変わらず、窓ないんだね。」

残念だった。

僕は母に何度か言っているのに。

少女の部屋には窓どころか日の光が差し込むところがない。

「そうね。私は、人形じゃないのに。」

「薔薇姫様…。」

思わずそう言うと、少女は僕をにらみつけた。

「薔薇姫って呼ばないで!」

「ごめん。じゃ、何て呼べばいいの?」

「いつも言ってるじゃない。イスフィールでいいって。」

「でも…。」

「でも、じゃない!身分なんてどうだっていいしっ!」

驚いた。

この少女がこんなに話したのは初めてかもしてない。

「じゃ…イスフィール、様…?」

「様はいらない。」

「えっ、でも、そしたら…。」

呼び捨てになっちゃう、と言いかけて口をつぐむ。

少女がまたにらんでいた。

「イスフィール…?」

「何?…それでいいの。」

何か恥ずかしい。

少女はまた本に目を戻してしまった。

静寂が2人の間にやってくる。

時折本のページをめくる音がするけど、その本を照らすのは蛍光灯だ。

ちがう、と僕は思った。

まだ外は明るくて、日の光が野原に降り注いでいる。

この少女は、その優しい光さえも知らないんだ。

「ねえ、イスフィール。」

気付けば、しゃべり始めていた。

「いつか、いつか一緒に外へ行こう。太陽の下に行こうよ。日の光がどんなに優しいか、見に行こう。みんなで、一緒に。」

少女が目を見はる。

群青色が、だんだん輝いて。

「うん。その時は、よろしくね。セイレーン。」

少女は微笑んだ。

初めて、少女の笑顔を見た。

綺麗で、無邪気で。

まるで――いや、心からの笑顔。

僕も笑った。

一緒に外へ行ける日なんて、いつになるか分からない。

でも、信じていれば、きっと。


イスフィールの笑顔の先に。

小さくて優しい日だまりがあるはずだから。



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