12.イザベラ、初仕事!Ⅱ
楽園の薔薇
12.イザベラ、初仕事!
<2>
「北方に、闇?」
イスフィールは思わず問い返した。
マリーナがのんびりと頷く。
「そーなんです〜。北方だから大丈夫かもしれないんですけど、一応ってことで。」
マリーナのクッキーは一枚も減っていない。
マリーナ本人は、ユニゾンのクッキーしか食べないのだ。
「で、私にどうしろと?」
その様子に呆れつつイスフィールは聞いた。
マリーナはにっこり笑ってレイアースに黒クッキーの入ったかごを突き出す。
それをレイアースは元の位置に戻した。
マリーナがもう一度突き出してくるのを、レイアースは両手で押さえ、制している。
クッキー争いの沈黙は、呆れてため息をついたユニゾンによって破られた。
「こらこら。クッキーはいいから話の続きをしなさい。イスフィールが質問しただろう?」
「はぁい…。で、何ですかイスフィール様?」
「聞いてなかったの〜!?」
マリーナは可愛らしく首を傾げた。
イスフィールが机に突っ伏す。
「だぁかぁらぁ……私はどうすればいいの!?」
「あ、そういうことですか。じゃあ、何もしなくていいですよ?」
マリーナはのほほんと答える。
イスフィールはあっけにとられた。
「へ?どういうこと?」
レイアースがため息をついて解説(?)する。
「わざわざ北方に行かなくてもいいんだとさ。どうせ闇の奴なら薔薇姫をねらいに来るだろ?」
「あぁ、そうか…。」
「来るまで待てってこと。だろ?マリーナ。」
「はいぃ!さすがです深緑さん!」
レイアースがマリーナに確認すると、『深緑』というある人からつけられたあだ名(そのまんまでレイアース自身は気に入っていない)で返ってきた。
レイアースのこめかみに青筋が浮かぶ。
「レイアースだ!いい加減覚えろ赤茶!」
仕返しとばかりにレイアースはマリーナを髪の色で呼んだ。
「はいぃ!さすがですレイアースさん!」
本人はさっぱり気にしていない。
それどころか、言い直してなかったことのようにしてるし。
「―――というわけで。」
「ずいぶん強引ね、父様。」
とても強引なくくり方をするユニゾンに、イスフィールはしっかりツッコミを入れた。
苦笑したユニゾンは、さらにてきとーに終わらせた。
「じゃ、それだけだから!終わり!」
マリーナは、それを横目にセイレーンに声をかける。
「セイレーンさん、図書室ってどこですか?」
「…セイレーンは、ちゃんと名前なんだな。」
その様子をレイアースが恨めしげに睨み、イスフィールは必死に笑いをこらえていた。