11.側仕えの少女Ⅰ
楽園の薔薇
11.側仕えの少女
<1>
「イザベラー、そこの柱磨いといて!」
「あ、はいっ!」
イザベラと呼ばれた少女は、手早く側にあったぞうきんを絞った。
そして、懸命に伸びをして柱を磨く。
焦げ茶色の長い髪がさらさらと流れた。
ちょうど柱磨きが終わった、その時。
「イザベラっ!早く、人手不足なの〜!こっち来てくれる?」
黒い短髪の少女が来て、イザベラに言う。
返事も聞かずにイザベラの手を取ると、走ってどこかへ。
「待って、サラティ!どこ行くの?」
イザベラが少女に聞く。
さっきの少女は、サラティという名前だ。
サラティが話し始める。
「えっとね、そこで工事してて、いろんな人が働いてるでしょ?」
「うん、知ってる。」
実はサラティ、せっかちだけど急いでる時の説明は省略しない、という変わった個性の持ち主である。
「それで、ご飯作ってあげてるんだって。」
「うん、それも聞いた。」
「そのご飯をできるだけ早く運ぶ仕事をするの。」
「あ、そういうこと。じゃ、早くしないと!行こ、サラティ。」
イザベラは用件が分かったとたんに駆けだした。
しばらく走っていたけれど、急にサラティが立ち止まる。
「イザベラ、お客さんみたいだけど。」
「え、誰?この忙しい時に。」
「…レイアース様だわ…。」
ひょいっと玄関の方をのぞくと、そこには1人の少年が立っていた。
サラティよりもつややかな黒髪に、深緑の目。
「よぉ、イザベラ、サラティ。調子はどうだ?」
イザベラは、群青色の瞳を見開いた。