10.風邪をひいてもⅢ
楽園の薔薇
10.風邪をひいても
<3>
「こら,イスフィール!ちゃんと寝てなさいって言ったでしょー!?」
上からラウディーの声が聞こえる。
リカティアのかわりだろう。
リカティアは水の守護神。
水は幽霊とシンクロすることが出来るらしい。
だから、儀式では先祖の幽霊とシンクロしてなんたらかんたら――。
というのを聞いたことがある。
「私がいないのに始めようとするのが悪いんです!さぁ、続き!」
少し頭に響くが、話をするために大声を出した。
リカティアinご先祖様が笑う。
「おもしろいねぇ。いいだろう。悪化しても責任は取らないよ?」
「いいです。父様、始めよう。」
「え、あぁ〜うん。」
イスフィールは席に着いた。
相変わらずボケッとしているレイアースを見て、少しため息をつく。
「レイアース!再開するよ!」
「へ?」
何がどうなったのか分かっていない様子。
「…いいわ。なんでもない…。」
「では、イスフィール。そなたがレイアースの弁護をするのか?」
「まあ、私から見た感じだけどね。」
再びリカティアinご先祖様が笑った。
つられてイスフィールも笑う。
「彼が私を叱った理由は私にあります。勝手に家を抜け出した私を注意しただけのことです。」
始まった。
口論対決によって、部下(?)の処遇が決まるのである。
「でも、そばにはセイレーンがいたのでしょう?なら彼に頼んで叱ってもらえばいいじゃない。」
「そういう話になります?レイアースは要点をまとめて叱ってくれました。セイレーンはそういうタイプじゃないんで、それは無理です。」
「うぅ…そう思ってたんだ…。」
広間のはじっこで嘆いているセイレーンはちょっと放っておくとして。
2人の口論はヒートアップしていく。
「彼には諭すという方法もあったはずよ。わざわざ叱った意味は何?」
「私はもとから諭されることが嫌いです。それをレイアースは理解してくれてるんです!」
ソフィアが選んだからとか、深緑の目だから、なんていうのはこの際関係ない。
「私のことを数日で理解してくれた数少ない人です。理解者は追い出しません!」
風邪のことなど忘れてイスフィールは叫んだ。
今まで来た使用人達は誰も理解してくれなかった。
理解する気がない人だって。
でも―レイアースは違う。
進んで話しかけ,身分のことなんて捨てている。
そして、誰よりも早くイスフィールのことを理解してくれた。
「だから、うちの使用人――いや、初期通り薔薇の護衛にしたいんです。」
素直にイスフィールはそう言った。
心からそう思って。
「いいだろう。期待しているぞ、薔薇姫。」
ご先祖様はリカティアの体から出た。
ホッと息をつく。
次の瞬間、イスフィールの体は床に転がっていた。
(そういえば私、熱出してたんだっけ――。)