10.風邪をひいてもⅡ
楽園の薔薇
10.風邪をひいても
<2>
「何だ?ここ…。」
レイアースは地下の大広間で呆然としていた。
ここは杖の間というらしい。(セイレーン情報)
「深緑ちゃーん!聞こえるー!?」
リカティアの声が斜め上から聞こえてきた。
驚いて顔を向けると、リカティアだけでなく、ユニゾン、セイレーンなどの顔がそろっている。
「ちょっと!聞いてんの!?」
「え、あぁ…はい!聞こえてます!」
「何ー?声小さくて聞こえないー!」
まったく、何の嫌がらせだ。
だが、逆に怒るともっと遊ばれるからほっとくしかない。
負けたようでイラつく。
「聞こえてますーっ!!」
「よぉし、分かった。じゃ、始めるよ。ユニゾン、マリーナは…んーっと、何て言ったっけ。」
リカティアが大声で話す。
ユニゾンは近くにいるんだから別に大声出さなくてもいいのに…。
と思って上を見上げると、いつの間にかユニゾンはリカティア達と反対の所にいた。
どうやら席があるらしい。
「彼女はステライトの人間だよ。イスフィールを主に選んだんだ。」
「じゃ、やる必要はないわね。というわけで深緑ちゃんだけか。」
何の話だかついていけない。
リカティアがレイアースの方を向き、ニヤリと笑った。
「これより、杖の儀式を始める。」
ユニゾンが、いつもと違う声で言った。
リカティアが笑いを消す。
「先代薔薇姫に選ばれし者、前に出よ!」
レイアースが驚いていると、誰かに背中を押された。
転びそうになりつつ振り向くと、そこにはセイレーンが。
何か言おうと口を開くと、一足先にリカティアが言う。
「彼はメイデン・レイアース、といったな?」
それに対し、訳が分からぬまま頷く。
「では、レイアース。質問に答えてもらうぞ。」
ますます訳が分からない。
だが、リカティアににらまれ、またも頷く。
「お前――薔薇姫を叱ったな?」
「え?」
レイアースは目をみはった。
セイレーンも慌てている気配がする。
「え、ではない。答えろ。」
リカティアの目は心を見透かしたように鋭い。
レイアースがうつむいていると、ラディアが言った。
「薔薇姫に対して無礼に当たる。」
「そ、それは…。」
いけないことをしたんだから、叱らなきゃだめだろ――。
その言葉はどうしても言えなかった。
確かに、俺とイスフィールは身分違いだ。
叱るのは俺じゃない。
シャン
レイアースが言えないでいると、後ろで鈴の音がした。
振り向いて、そこにいた人に絶句する。
「イスフィール、お前…。ちゃんと寝てろよ…!」
「仕方、ないじゃん。大事な部下を失うかも、って危険な時…。寝てられないし!」
そこには鈴がついた杖を持ったイスフィールが立っていた。
顔に得意げな笑みを浮かべて。