6.心の闇、浄化します!Ⅰ
楽園の薔薇
6.心の闇、浄化します!
<1>
また会った。
誰にって、闇の人―――ステライト・マリーナに。
前と同じような茶色のローブを身につけている。
「マリーナ…。」
イスフィールが呼んだその名に、その人はこっちを見た。
「だれ?…もしや、この人の知り合い?」
この人、とマリーナが指したのは自分の体。
綺麗な細い指がローブからのぞいた。
「今の私はマリーナじゃないよ?」
「今の…私?どういうこと?」
セイレーンが聞くと、その人はくすくす笑った。
これ以上おかしいことなどないように。
「薔薇の護衛なのに、知らないんだぁ。いいよ、教えてあげる。」
あ、と気付いたように、その人は付け加えた。
「でもね。この人の中にある闇を浄化してみせてよ。」
マリーナ(?)はその場に倒れ込む。
まるで捨てられた操り人形のように不気味だ。
「マリーナ?」
呼びかけると、ゆっくり立ち上がった。
『憎い…。』
「え?」
「あの人達が、憎い…!』
「イスフィール!」
離れろ、とレイアースが呼びかける。
セイレーンとの練習によって手に入れた素早さで、2mほど離れた。
『自分勝手で、あんなの人の心を持ってない!』
ローブの内ポケットから出てきたのはタロットカード。
『皆、負の感情に彩られろ!』
空中で混ぜられたカードは1枚を残してスッと消える。
その1枚のカードは『月』。
『効果は…迷い、など。絵のザリガニは迫り来る危険!』
カードから出てきた黒いもや。
よけたイスフィール達には当たらず、地面にしみこんだ。
『よけない方がよかったんだぞ?』
マリーナは笑いながら言う。
『このカードの術は、負の感情を増やして人を危険に追い込むというものだ。地面にしみこめば、各地に広がって、どこに向かうか私でも分からないよ。』
マリーナはローブを脱ぎ捨てた。
赤みがかった茶の髪と星のような金色の目があらわになった。
『人の心を持たない者など、消えればいい!』
再びタロットが混ぜられる。
「マリーナ、あなたは間違ってる!」
凛とした声が、商店街の隅で響いた。