5.イズライール、バレた!?Ⅴ
楽園の薔薇
5.イズライール、バレた!?
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近付いてくる足音に、イスフィールは顔を上げた。
「レイアース。」
「よぉ。おさまったか?」
来たのはレイアース1人。夕方の赤い空を背景に、こっちにやってきた。
「何で急に泣いたんだよ。」
イスフィールが座っていた塀の上にレイアースも座った。
10センチくらいの距離を開けて。
その距離がぴったりだった。
「…私が、役立たずだから。」
「ま、仕方ないじゃん。」
あっさりとレイアースは言った。
まるで、全てを知っているかのように。
「なんで、仕方ないの?」
「だってお前、行動に向いてるし。」
「はぁ?」
意味不明だ。
思わず大きい声で聞き返す。
「資料を集めてやるより、行動して調べる方がいいだろ?」
確かに。
情報が書いてある紙をたくさん集めたら、読む気がまったく無くなる。
逆に自分の身体で感じた方が早いとイスフィールは考えているからだ。
「でも、資料じゃなきゃ分からないこともあるからな。」
オマケとばかりにイスフィールはレイアースからデコピンされた。
思ったより痛くて、顔をしかめる。
「痛いじゃん!なにすんの!?」
「でもな、お前は1つ間違ってる。」
得意気にレイアースは笑った。
イスフィールの言葉など聞いてない様子で。
「役立たず、じゃないよな。」
「?」
「闇の人。会ったんだろ?」
「え?あ、うん!」
抜け出し1日目の夜だ。
確かにあの格好は『魔術師』。
「というわけだ。だから、お前は役立たずじゃねーよ。」
レイアースが優しく笑う。
イスフィールはレイアースの正面に回り、言った。
「ありがと、レイアース!」
「は?」
「なぐさめてくれて、ありがと。」
照れくさいから、イスフィールは回れ右をして駆け出す。
後ろでレイアースが何か叫んでいるが、気にしない。
遠くで見ていたセイレーンは思う。
これこそ、『ケンカするほど仲がいい』である。