1.二分咲きの薔薇Ⅰ
楽園の薔薇
1.二分咲きの薔薇
<1>
「……。朝…?」
少女は寝台の上で首を傾げた。
「今日の天気は…。」
少し右にずれ、天井に着いている窓を見上げる。
ややあって、嫌そうにつぶやいた。
「…晴れぇ~?」
実は晴れの日が大のきらい。
「雨でも降ってくれりゃいいものの…。明日は逆さのてるてる坊主でもやろうかな。」
そういいながら、机の上のペンダントを手に取った。
これは、ルビーの粉で作られた、真っ赤な薔薇の形をしている。
この楽園にたった1つのものだ。
その時、ドタドタッと、外でものすごい音がした。
少女は慣れているようにため息をつく。
そして、首にかけたペンダントを握りしめた。
これは、『薔薇』と呼ばれる者たちの特別な能力だ。
握りしめると同時に、少女の身体から、淡いピンク色のオーラが立ち上った。
しかし、少女は何かを思いついたようにペンダントから手を離す。
「やっぱ、無視した方が良いのか?」
と、つぶやいた。
その時、部屋についている最高級の扉がものすごい音を立てて開かれた。
「僕の薔薇姫!元気だったかい!?」
薔薇姫と呼ばれた少女は、額に青筋を浮かばせる。
扉を開けたのは、そこにいた少年だろう。
「セイレーン…。元気だった?ですってぇ~?昨日も来ていたじゃないの!」
少女は無視すると決め込んだはずなのに、耐えきれず文句を言う。
少年――セイレーンは、満面の笑みを浮かべた。
「やだなあ、薔薇姫。一日で熱が出るかもしれないんだよ?」
「うるさい。私は年中ずーっと元気です!」
少女の頭の中で、何かが切れる、ぶちっという音。
「だからあんたは~…薔薇姫って呼ぶなって言ってるでしょ~!!」
少女――イスフィールは大声で叫んだ。
* * * * *
エプスタイン家。
それは、この楽園にある珍しい一族だ。
その家で生まれる姫は、たった1つの薔薇のペンダントを身につけることが出来る。
身につけた者は『薔薇』と呼ばれ、楽園の闇――悪いことを封じなければならない。
そして、今回の『薔薇』は。
「あーもうっ!帰ってよ~、うっとうしいっ!」
エプスタイン・イスフィール。
「やだって僕も言ったでしょ~。」
イスフィールは、文句を言いつつ廊下を歩いていた。
遠い親戚で、許婚――婚約者のセイレーンと一緒に。
「なんで父様の所に行くのに、あんたもついてくんのよ~。」
イスフィールの周りに、どよ~んとした空気。
「いいんだってば。ユニゾンさんは僕のこと、いてもいいみたいだし。」
話しているうちにユニゾン(父)の部屋についた。
イスフィールは、セイレーンの言葉を無視して扉を開ける。
「父様!入ったから!」
普通は『入るよ』ぐらいなのだ。
けれど、イスフィールは『入ったから』。
「お、来たかイスフィール。セイレーン君も入っていいぞ。」
セイレーンはその言葉を聞き、ほらねと言うように目を細めた。
さっきのイライラが残っているせいか、イスフィールは見ないふりをして席に着いた。
セイレーンも同じように席に着く。――もちろん、イスフィールの隣。
その光景を目にしたユニゾンは、こらえきれずに吹き出した。
そのまま大笑いをする。
そんなユニゾンを、イスフィールはものすごい顔でにらんだ。
「ユニゾン、いいから話を続けろ。と言うか、話し始めろ。」
全然気付いていなかったが、ユニゾンの後ろに人がいた。