4.レイアースの「瞳」Ⅰ
楽園の薔薇
4.レイアースの「瞳」
<1>
そのころのレイアース達はというと。
「こっちじゃなかったか?」
と、さっきの叫び声を頼りに闇の人物(かもしれない)を探していた。
「確かに現場はここだ。…でも、逃げたな、この様子だと。」
イスフィールの代わりに調査を長年やってきたセイレーンは、区別するのにも慣れているようだ。
「あー、ここにイスフィールがいるという考えはだめだったか。」
レイアースが今日何度目か分からないため息をつく。
イスフィールが『薔薇』としているかもしれないという、小さな希望を頼りに来たというのに。
と、その時。
レイアースの目に痛みが走る。
思わず押さえるが、さらに痛みが強くなるばかりだ。
「なんだよっ、これ…!」
そう呟くレイアースの様子に気付いたのか、セイレーンが振り向く。
「レイアース?どうしたんだよ。」
「急に…目が…。」
セイレーンの黒い目が大きく見開かれた。
「…この手のものなら、ユニゾンさんが知ってるはずだ。」
そう言うと、痛みにしゃがみこんでしまったレイアースの手を引く。
レイアースの意識は遠くなっていった。
* * *
次に目を開けたところは、エプスタイン家にある自分の部屋だった。
「俺は…。」
今はもう朝になっている。
出かけたのは確か夜で、目が痛くなって。
あれ、何しに出かけたんだっけ?
そこまで考えて、ぼやけていた意識がはっきりとする。
「そうだ、イスフィール!」
やっと思い出した。
そしてくらくらする頭を押さえながら、ユニゾンの私室に入った。
「お、レイアース君。もう目は平気か?」
「はい。おかげさまで…。」
ユニゾンの能天気な声がレイアースを迎える。
倒れない程度に、レイアースはその場で脱力した。
どうして大事な娘がいないっていうのに平和なんだろうか。
「ところでレイアース君。今まで見えなかったものが、見えてはいないか?」
ユニゾンもこの間のセイレーンのように表情をころっと変える人だ。
レイアースは頭を押さえていた手を離し、辺りを見渡してみた。
「…特に、何も見えませんけど。」
素っ気なくレイアースが答えると、ユニゾンはふむ、と考え込んだ。
「レイアースの瞳が発動されないとしたら…」
とか、わけの分からない言葉を呟いている。
ふと、その隣ですねたようにハーブティーを飲んでいたセイレーンの小指に目が止まった。
「緑の糸…?」
そう呟くと同時にはっきりとそれが見えてくる。
「どうした?僕の小指が何かしたか?」
同じ小指をセイレーンが見ても、何もないようだ。
しかし、レイアースには確かに見えている。
誰かに繋がっている、数本の緑の糸が。
そして、その1本は―――
「俺の小指…。」