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蒼銀の光  作者: 糸冬すいか
第二章
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06:ぬくもりの笑顔

「ま、マライアさん……その」

 鼓動の音が耳の奥で響く。アルゼンタムは頬を薄く染め、恐る恐ると言った様子で言葉を続けた。

「さ、触ってみて、いいですか……?」

「……えぇ、いいですよ」

 虚をつかれたようにマライアは困惑を見せたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべて頷いた。アルゼンタムはゆっくりと歩み寄り、そっとそのふくらみに手を当てた。

「っ、わ……」

「どうですか?」

「なんていうか……意外と弾力があるというか、しっかりしてるというか」

 言葉に迷いながら、その温かみに手を這わせる。丸みを持ったその形をしげしげと眺め、確かめるように撫でて言葉を続けた。

「思っていたより、大きいですし」

「たぶん、もう少し大きくなりますよ」

 アルゼンタムはその言葉に思わず手を引っ込めた。これほど大きければ重たく、動きづらそうなものなのに、さらに大きくなると言うのか。まじまじと眺めるアルゼンタムに、マライアは笑みを深くした。

「なんだか、意外です。てっきり見たことくらいあるかと」

「そうですか? 今まで機会がなかったので、初めてですよ」

「でも、小さい子の扱いとか慣れている感じがしたので……そんなに珍しいですか? 妊婦って」

 マライアの言葉に、アルゼンタムは深く頷いた。グローリーのこともあって子供の扱いには慣れているが、今まで身近に妊婦がいた経験はない。マライアの大きく膨らんだ腹部を不思議そうに眺めながら、疑問を口にする。

「何ヶ月、でしたっけ」

「そろそろ6ヶ月目になります。予定としては冬に出産ですね」

「店に出て大丈夫なんですか?」

「このくらいになると、流れる心配はかなり少なくなりますから。少しは身体動かさないとなまってしまいます」

 苦笑しながらも、その表情に苦々しい感情はかけらも無い。腹部に手を添えて笑む姿は穏やかで、そこにある命を愛しむ気持ちが溢れていた。その笑顔に、何故か酷く戸惑う。

「笑顔、増えましたね」

「え?」

 出会ったころはもっと連れなく、凛としていた。誰の手も借りることなく生き抜いていけるような、したたかな空気だった。気付けば、そんな雰囲気は霧散してしまったようだ。

「以前より表情が柔らかくなって、いっそう魅力的ですよ」

「……アルゼンタムさんは相変わらずですね」

「はい?」

 困惑を顔に浮かべるアルゼンタムに、マライアは目を逸らしため息をついた。わざとやっているのなら怒ることもできるのだが、悪気なく言っているので余計にたちが悪い。いえ、なんでも、と濁すマライアに、アルゼンタムは内心で首をかしげた。

「なんでもないって……悪いところがあれば、はっきりと言ってくれて良いんですよ?」

 以前ならば、もっと遠慮なくアルゼンタムを叱咤していたような気がする。世話焼きな性格なのだろう、と好意的に受けとめていたが、なくなると少し寂しい。

 別に叱られるのが楽しいわけではない。断じて。ただ世話を焼かれた経験が少ないため、そういうのに憧れを抱いているだけである。

「私を何だと思っているんですか……」

「いや、その、頼りになるというか。甘えてしまうんですかね」

 幼いころを思い出せば、年上の女性にばかり遊んでもらっていた気がする。というか同年代が周りにいなかった結果なのだが、やはり子供心に大人な女性が魅力的に思えたのだ。

「マライアさん、お姉さんっぽい雰囲気でしょう? 俺、年上の方が好きですし、つい」

「年上好きなんですか? てっきり年下好きかと」

「え?」

 マライアの驚いた様子に、アルゼンタムも疑問の声を上げる。そんなに思い込まれるような言動をしていただろうか。怪訝な様子のアルゼンタムに、マライアは首を傾げて言った。

「だって、よく子供向けの髪飾りとか買っているでしょう? アルゼンタムさんは年下……幼女趣味なのかと」

「断じて違います! っていうか何で言い直したんですか!?」

 酷い誤解だった。

 『心眼』にもシグレにも年下好きと思われていたが、この勘違いは一番酷い。まさか街全体に広まっているのではないだろうか。マライアの口ぶりから言って可能性は高いように思われた。髪飾りや装飾品を買う店にも噂好きの女の子はいる。

「違ったんですか……」

「なんでそうなるんですか! 俺はただ、似合うものを選ぼうと思って……!」

「かなり小さい子向けのものばかり選びますし……私に下着やらをくれとか言い出しますし、特殊な性癖をお持ちなのかと」

「言わないで下さい恥ずかしいんですから!!」

 グローリーのために、と必死になった結果だった。

 もちろんマライアのものを譲り受けるわけではなく、年頃の少女に必要なものを代わりに買ってきてもらうのだが。

 屋敷は隠されているため、届けてもらうことができない。サイズの変更や頻繁に必要になるものもあるので、スカイ本家に注文すると言うこともできない。

 結果、アルゼンタムが買いに行くしかないのだ。だがアルゼンタムも健全な、年頃の青年である。ただでさえ人目を集めるのに、女性用下着など買いに行けるわけが無い。

「俺……いつの間にか凄い誤解をされていたんですね……」

「年端も行かない少女を監禁でもしているのかと思いました」

「人聞き悪いこと言わないで下さいよ!?」

 若干、当たっている節はあるのだが。監禁というより隔離であり、アルゼンタムではなくスカイ家がやっていることだ。

 ため息をつき、アルゼンタムは唇を尖らせてマライアに視線を向けた。堪え切れなかったように浮かべる笑みに、思わず恥ずかしさと不満が顔に出る。完全にからかわれたようだ。普段は真面目に話しているのだが。

「もちろん、そんなことは無いと思っていますよ。アルゼンタムさんはそんな事するように思えませんから」

「信用をありがとうございます。できれば、誤解もしないで欲しかったですが」

「それはあの、自分の胸に聞いてください」

「俺はそんなにも罪深いことをしていましたか!?」

 意外とお茶目な人だった。

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