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初めての放課後

「如月、行くわよ」

教室の後ろから、瀬戸世那の声がした。

俺は机の上に顔を伏せたまま答える。

「なんでだよ…」

放課後、帰宅の時間。

普通なら俺は友達と一緒に帰るか、まっすぐ家に帰る。

なのに、目の前にはいつも通りの笑顔と「命令口調」。

「友達なんだから、一緒に帰るの」

世那の目は真剣そのものだ。

まるでそれを断る選択肢は、最初から存在していないかのように。

「面倒くさい…」

心の中でつぶやいた。

けど口に出すわけにはいかない。

だって、クラス中がこの「友達チャレンジ」の存在を知っている。

一歩間違えれば、また冷やかされる。

俺はゆっくりと立ち上がり、仕方なく世那の横に並ぶ。

クラスメイトの男子が笑いながら言った。

「デートじゃん!」

「青春イベントだな!」

「マジ羨ましい!」

心の中で思った。

いや、デートじゃない。

完全に勘違いされてる。

俺はため息をついた。

でも、世那はそんなことお構いなしに、さっさと校門へ歩いていく。

後ろからついて行く俺。

夕焼けが校舎の窓に反射して、教室の影を長く引く。

沈黙が続く。

「……」

「……」

互いに何も言わない。

俺は心の中で呟いた。

「気まずい」

すると、世那が急に声を出した。

「なんか変」

「変って?」

「如月と二人で帰るの」

……正直、俺も変だと思っていた。

ずっと友達と一緒に帰ってきたのに。

今日だけ、隣にいるのは“特別な女”だ。

「悪くないかも」

世那は小さく笑った。

思わず心臓が跳ねる。

いや、違う。

錯覚だ。

絶対に錯覚だ。

「……」

「な、なんでもない」

何とか自分を落ち着かせようとする。

でも世那はそんな俺をチラッと見て、ニヤリと笑う。

「私、如月の顔色見るの上手いんだから」

「だから、変なこと考えないこと」

……完璧に読まれている。

俺は悔しさと動揺を同時に感じながら、黙って歩くしかなかった。

しばらく歩くと、住宅街の道に差し掛かる。

静かだ。

空気は夕焼け色に染まる。

「ねえ」

世那が突然、手を広げる。

「どっち手つなぐ?」

「え?」

俺は思わず立ち止まった。

「いや、だから……友達なんでしょ?」

世那は少し顔を赤らめながらも、腕を組み替えたりして挑発的に言う。

「いや、無理だろ」

俺はすぐに頭を振る。

「無理無理無理!」

世那は腕を組み直し、少しムッとした顔で言う。

「友達なんだから、ちょっとくらいいいでしょ?」

……いや、絶対ダメだ。

「……分かった」

俺は渋々手を出す。

世那は満面の笑みで手をつなぐ。

心臓が爆発するかと思った。

俺は一歩、また一歩と歩く。

手のぬくもりが、妙に温かい。

それでも心の中で言い聞かせる。

「錯覚だ。これは友情の範囲内だ」

でも、世那は楽しそうに笑いながら言った。

「ねえ、これって友情成立してるかな?」

俺は無言で頷くしかなかった。

そしてその瞬間、教室では味わえなかった不思議な空気が、二人の間に流れた。

友情チャレンジの放課後――

思っていたより、ずっと刺激的で面倒くさくて、そして――

楽しかった。

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