part.2
「久しぶり、菖蒲ちゃん」
リビングの中央に、死んだはずの親友 百合が立っていた。思わず手に持っていたトートバッグを落としてしまった。
「どうして…」
カーテンの間から漏れた月明かりが彼女を照らしていた。
チョコレートのような色のボブヘアに、純白のワンピース。
まるで天使が降り立ったようだった。
しかし、その姿は透けて見え、数センチほど宙に浮いており、幽霊だと気づくのに時間はかからなかった。
「びっくりしちゃったよね。ごめんね、菖蒲ちゃん」
百合は申し訳なさそうに微笑んだ。
「どうして、百合がここに?」
私は混乱し、声を震わせながら尋ねた。
「わたしね、実は未練があって…そのせいで成仏できないの」
「未練…?」
私は彼女の言葉を繰り返した。
「うん。生前、どうしても行きたかった場所があったの」
「それってどこなの?」
百合は少し間を空けてから答えた。
「ウユニ塩湖。おじいちゃんとおばあちゃんが旅行で行ったことがあって、写真を見せてもらったり話を聞かせてくれたりして、ずっと行きたいなって思ってたの」
彼女の声には、懐かしさと切なさが交じっていた。
「でも、ウユニ塩湖があるボリビアはすごく遠いでしょ?学生のわたしにはとても行ける場所じゃないから、社会人になったら行けるように、勉強とかバイトとかすごく頑張ったの」
百合は遠くを見るような目をした。
「でも、結局事故で死んじゃったから、全部無駄だったのかも…」
俯いた百合の姿に胸が締めつけられた。ウユニ塩湖に行くことは厳しいが、何か代わりにできないかと思った。
「少し、考えさせてくれない?何か良い案がないか考えてみるから」
百合の表情は少し明るくなった。
「ありがとう、菖蒲ちゃん」
翌朝、百合は再び私の前に現れた。
「菖蒲ちゃん、ウユニ塩湖はやっぱり無理だよね。ごめんね、無茶なお願いをして」
「諦めるのはまだ早いわ。実は、日本にもウユニ塩湖に似た場所があるのよ。香川県にある父母ヶ浜ってところなんだけど、どう?」
スマホで父母ヶ浜の写真を見せると、百合は驚いたように目を見開いた後に目を輝かせる。
「ウユニ塩湖にそっくりでとっても綺麗!わたしのために探してくれたの?」
「ええ、百合のためだから」と答えると
「ありがとう、菖蒲ちゃん!一緒に行けるなら、十分だよ!」
ぎゅっと抱きしめられた。
「もう、百合ったら…」
でも、「ウユニ塩湖に似た場所で納得してもらえてよかった」とホッとした。
私は父母ヶ浜への旅行の準備を整え、大学の友人やバイト先に百合のことは隠して事情を話した。
翌日の朝、香川県へ向かった。




