アカデミー 2
感想ください。
誤字脱字などがあれば教えて下さい。
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同日 二〇時一○分
サニーカーゴ営業所
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サニーカーゴの営業所の向かいにある建物。
全従業員の顔写真を撮影した後も監視は継続されていた。
一人だけではトイレの時や就寝時など監視の目が切れてしまう。何より暇すぎる。エリシーとキリエは、二交代制でサニーカーゴの営業所を監視していた。
現在監視を行っているのはキリエに、窓際に運んできた机にはイアースの顔写真が置かれていた。
仕事を終え営業所に帰って来るトラックに、トラックが帰ってくるたびに運転手の顔を確認しているとイアースとよく似た人物が帰って来た。写真と照らし合わせると一致している人物に、キリエは机に置いてあった携帯を手に取る。
サニーカーゴの営業所付近に待機するバン。
乗っているのは初に、リレア、シーナであり、鳴った電話に初は携帯を取った。
「ターゲットが帰って来た」
「了解。出てきたら教えてくれ」
「了解」
作戦はイアースを尾行し帰宅した所を確保するというもの。
キリエからの報告に初はそれだけを言うと電話を切る。
帰宅の時間帯。営業所に入っていく車はトラックであり、営業所から出ていく車は従業員の私有車だ。
門に入っていくトラックに、門から出ていく私有車。その私有車に交じって一台の小型トラックが営業所を出ようとしていた。
監視を行っていたキリエは、そのトラックを運転する人物に、一瞬腕時計に視線を落とすと急いで初に電話を掛ける。
「どうしたの?」
携帯を掴むと急いで番号を入力するキリエ。その慌てた様子に休憩をしていたエリシーは尋ねた。
「ターゲットがトラックに乗って出て来た」
キリエが時計に視線を落としたとき時刻は二〇時を回っており、サニーカーゴの営業終了時刻を過ぎていた。また、出て来たトラックには先ほど戻って来たばかりのイアースが乗っていた。
窓に駆け寄るとトラックがどちらに走っていたのかを見るエリシーに、キリエは繋がった電話に初に伝える。
「ターゲットがトラックに乗って出て来た」
作戦の内容や背景はエリシーとキリエも知っている。
状況を端的に説明したキリエに、受け取った初の頭に浮かぶのはゴーストガンの運搬だ。
「追う。二人とも今すぐバンに戻ってきてくれ」
初は、バンを急発進させるとエリシーとキリエの回収に向かう。
初の考えたことはエリシーとキリエの頭にも浮かんでいたのだろう。バンを二人が監視に使用していた建物の前に止めると、エリシーとキリエが飛び乗って来る。
「二人とも乗った」
「西に進んでいった。ナンバーは二七○五」
エリシーとキリエが乗ったことを確認すると初に報告するリレアに、乗り込んだエリシーはトラックが向かった方向とナンバープレートの番号を伝える。
「キリエ、ベルト!」
エリシーとキリエの装備はリレアとシーナによりバンに積み込まれていた。
助手席に座ったキリエに、リレアは式神が入っているキリエのガンベルトを渡す。
「ありがとう」
ベルトを受け取るとキリエは直ぐに式神の起動に取り掛かる。
初は、運転をしながら電話を掛けていた。
「どうした?」
電話を掛けた相手はセシルだ。
「ターゲットがトラックに乗って出て来た。銃の運搬の可能性があるため追跡している」
ワンコールで出たセシルに、初は状況を説明すると、追跡している旨を告げる。
聞いた状況に怪しいのは確定だが、それがNCIAの仕事ではなくKn00の仕事をしている可能性もある。
「分かった。もしそれがゴーストガンの取り引きだった場合相手も確保しろ。それと新たに何か分かれば直ぐに連絡してくれ」
「了解」
サニーカーゴのトラックはラッピングされている。目立つトラックに、直ぐにバンを発進させたこともあり発見したサニーカーゴのトラックに、ナンバーを確認するとエリシーが言ったナンバーと一致する。
「キリエ使えるか?」
「使えるよ」
左手で左目を覆うと右手で右耳を覆うキリエに、式神の起動は完了していた。
赤信号にトラックが停止する。
「今だ」
言った初に、キリエは式神を操作すると式神をトラックの車底に張り付けた。
青に変わった信号にトラックが発進する。
「どうだ?」
「ちゃんと機能している」
「よし」
式神から送られてくる位置情報は移動しており、それは追跡出来ていることを示していた。
式神を張り付けたことで可能となった位置情報による追跡に、これ以上トラックの視界内にとどまる必要はなく、初はハンドルを切るとトラックの視界からフェードアウトする。
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同日 二一時三○分
洞窟入り口
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町を離れ峠道を走るトラック。
峠道に入ってからというものキリエはずっと右手で右耳を覆っていた。
「どうしたんだ?」
うつむき音に集中するキリエ。
黙考しているキリエに初が尋ねると、キリエは気になっていることを口にした。
「ずっと音がしているんだよ」
町を走っているときは、トラックが直進しているのか、曲がったのか、停止したのか。直進であれば加速しているのか、減速しているのか。曲がったのであればその方角は。など伝えなければいけないことが多々あった。
伝えるべきことが多い町に対し、一本道の峠道では伝えることはほとんどない。
付かず離れずの距離で追跡する初に、伝えるべきことはトラックに近づきすぎているか、離れすぎているかといった車間距離ぐらいだ。
仕事が減ったキリエは、出来た余裕に右手で右耳を覆うと、トラックから聞こえる音の正体を探っていた。
「荷物の揺れの音とかじゃないの?」
「止まった時も聞こえていたから違うと思う」
話しを聞いていたリレアに、荷物の揺れ程度の音であればキリエは気にしない。
それに、その音は式神をトラックに張り付けた時からずっとエンジン音や走行音などに交じって聞こえていた。
もっと気になるような音。あと少しで解りそうな音の正体に、だが、そちらにばかり気を取られていたせいで反応が遅れるということはなかった。
「停車した」
停止した式神の位置情報にキリエが言うと、初はバンを止めるとライトを消す。
キリエとしてはエンジンを切ってくれれば分かりやすいのだが、聞こえてくるエンジン音にここが目的地なのかは分からない。
キリエは、気になっていた音について考えるのを辞めると、周囲の音から状況を読み取ろうとする。
ガチャと、車のドアが開いた音に、バタンと、車のドアが閉められた音。
キリエは、左目も覆うとトラックに張り付けた式神を操作する。
トラックの底から周囲の状況を確認すると、見えた二本の足に、イアースはトラックを降りていた。
キリエは、気付かれないように式神を空へと上昇させると、上空から偵察する。
山の中腹にあった開けた場所。ライトを付けたままポツンと停車するトラックに、ライトで照らされた先には洞窟の入り口があった。
洞窟の入り口の大きさは縦横三メートル程あり、入り口は鉄格子によって塞がれていた。
イアースは、腕時計で時間を確認するとポケットからタバコを取り出す。
ここが受け渡し場所なのか? と、思うキリエに、イアースの行動を見る限りここが受け渡し場所なのだろう。
「〈イグニッション〉」
タバコを咥えたイアースは、魔法を唱えると指先に灯った火をタバコに近づける。一服するイアースに、タバコが吸い終わる頃真っ暗な洞窟の奥に小さな光が見えた。
光は徐々に近づいてきており、入り口の所まで来た光に、入り口を施錠していた南京錠が開錠される。
洞窟の奥から現れたのは、黒のローブで身を包んだ集団。
魔法使いのような恰好をした彼らは五人おり、全員がフードで顔を隠していた。また、全身を覆うローブに体格から性別や体格などを判断することは困難だ。
現れた受け取り相手に、イアースはトラックの荷台へと歩くと荷台を開けた。
「降りて来い」
キリエは、音の正体について考えていた。あと少しで出て来そうだったが考えるのを中断した答えに、答えは向こうからやって来た。
震える足取りで降りて来た一人目に、それに続いて二人目、三人目が降りて来る。
全員が降りたのを確認すると荷台を閉めたイアースに、降りて来たのは一〇人の女性。年齢は皆若く最高でも二○代前半といったところで、全員が手錠を掛けられていた。
「人身売買みたい」
積まれていた若い女性達に、聞こえていたのは彼女達の恐怖の声だ。
「状況を説明してくれ」
呟いたキリエに、初は尋ねる。武器の輸送ではなかった。しかし、厄介ごとであることに変わりはない。
状況を説明するキリエに、初はセシルに電話を掛ける。
「ターゲットが取り引き場所に到着した」
「そうか。で、荷物は何だった?」
「若い女性だ」
「若い女性?」
「ああ、おそらく人身売買だ」
科長室で電話をスピーカーにして聞くセシル。椅子に座るセシルに、その横にいるシェリーもそれを聞いていた。
「相手は?」
「相手は五人居て、全員が魔法使いが着ているような黒のローブで身を隠している」
セシルに尋ねられた内容に、初はそれをキリエに尋ねると帰って来た答えを伝える。
スピーカーで聞いていたシェリーは魔法使いという単語に心当たりがあった。
「その集団はアカデミーではないでしょうか?」
アカデミー。それは魔法の復興を目指すテロ組織だ。
昔は魔法全盛期の時代だった。戦争では絶えず魔法が飛び交い、魔法使いが戦局を大きく左右するそんな時代だった。
しかし、そんな時代は銃の到来によって消え去った。理由は単純で銃の方が強かったからだ。
軍からみるみる減っていく魔法使いの部隊に、その穴を埋めるかのように銃はどんどんと入って来た。
それに危機感を覚えた者達がアカデミーに居た。
アカデミーは、元々は帝国の魔法研究開発機関だった。
そこで働いていた研究者の中には、攻撃魔法こそが最強の力であると信じ、日々攻撃魔法の研究開発に心血を注いでいた者達が居た。
そんな彼らは銃の登場に攻撃魔法の方が優れていることを証明しようとより一層研究に邁進した。
そんな彼らに向けられたのは冷笑の視線。
石火矢や火縄銃ならいざ知らず、この世界の人々が最初に手にした銃はAR-15にAK-47なのだ。
曰く魔法が現代兵器に敵うわけがない。
その言葉を肯定するかのように戦場は鉄に支配されるようになった。しかし、だからといって戦場から魔法使いが消えたかというとそうではない。むしろ逆で、戦場では魔法使いの需要は高まっていた。
これまでの戦争とは比べものにならない異次元の火力に増え続ける負傷者、何処からともかく攻撃を仕掛け来る敵。
新しい戦争に、戦場から消えていったのは攻撃魔法だけであり、治癒魔法や、索敵魔法の需要はむしろ高まっていた。
アカデミーに求められるようになったのは治癒魔法や索敵魔法などの改良や開発。
治癒魔法や、索敵魔法はとても重要で、アカデミーで働いていた者の大半はその重要性を理解し承諾した。しかし、一部理解を示さなかった者達が居た。
それは、攻撃魔法こそが最強の力であると考えていた者達。
攻撃魔法の研究を中止するように言った政府に反発した彼らは攻撃魔法研究のためアカデミーを去った。
アカデミーを捨てた彼らだが、彼らの考えは違っていた。彼からすれば、帝国が攻撃魔法を研究していた自分達を捨てたのだ。
故にアカデミーを名乗り続けた彼らに、アカデミーの目的は戦場の主役を鉄から魔法に戻すこと。
目的を実現するためにアカデミーは攻撃魔法の開発を行うとそれをプレゼンテーションをした。
幾度となく市民に向けて放たれた攻撃魔法に、最大のものでは五○○ポンド(約二二七キログラム)爆弾程の威力があった。
斯くして市民に五○○ポンド爆弾程の威力がある魔法を放ったアカデミーは現在ではテロ組織と認定されている。
黒のローブが姿を隠すのに用いられていたのはまだ魔法が全盛期だった時代だった。時は流れ、今では姿を隠すのにその様な格好は用いられない。現代の服装からすればそのような格好は珍しさから逆に目立ってしまうからだ。
それにも拘わらずその様な格好をするのは何らかの意図がある。
例えば、自分達のアピールのため。
五○○ポンド爆弾程の爆発があった際、その時間の前後では黒のローブの集団が目撃されている。
イアースに代金を払うと女性達を受け取る黒のローブを着た五人。
古来より血は魔法に用いられてきた。なかでも女性の血というのは高位の魔法に用いられていた。
もし彼らがアカデミーであるならば女性達を買った理由は明白であり、彼女たちの血を用いて市民に攻撃魔法を発動することだろう。
本来ならイアースが帰宅した所を確保するつもりだったが、帰宅した所を確保しようが今確保しようが確保することに違いはない。
「作戦変更だ。ターゲット確保の後、女性達を救出しろ」
「了解」
切れた電話に初は作戦の変更を伝える。
「イアースがトラックに乗った」
洞窟へと連れて行かれる女性達に、イアースは黒のローブの一人から代金を受け取るとトラックに乗り込む。
トラックから初達が居る所までは僅かだが距離がある。
「先にターゲットを確保する。キリエはトラックの追跡を、リレアは確保を頼めるか?」
「了解」
「任せて」
上空から式神での監視を継続するキリエに、リレアはライフルのチャージングハンドルを引くとライフルに弾を装填する。
「行ってくる」
「気を付けて」
リレアは、バンを降りると坂道を上る。
「ここかな」
ある程度進む見えなくなったバンにと、リレアはこの辺りでいいかなと、場所の選定を行うと背後を振り返った。
リレアの背後にあるのは角度のきつい曲道であり、距離の微調整を行うと、フラッシュライトを取り出す。
『こちらリレア、位置に着いた。今から場所を送る』
フラッシュライトを上空に向けるとパッパッ、パッパッと、短い間隔で二度照射するのを二回行う。
キリエは、上空から式神で山全体を俯瞰するように監視していた。
トラックのヘッドライトの光以外は何も見えない真っ暗な山。そこに単間隔の光の点灯が二回行われる。
『確認した』
『ここで攻撃する。トラックとの距離はどれぐらい』
点灯した光にそれはリレアの自己位置であり、トラックは停止やUターンすることなく真っすぐ峠道を下って来ていた。
『このスピードなら多分一分もしない内にコンタクトすると思う』
『了解』
道の真ん中に立ったリレア。
聞こえて来たエンジン音に、曲がって来るトラックのヘッドライトの明かりが見える。
「ヘイ!」
見えたトラックに、リレアは左手でグッドサインを作るとまるでヒッチハイクを頼むかのように腕を突き出した。
深夜の峠道に現れたヒッチハイクを求める少女。
突然の出来事にあっけにとられたイアースに、目が合ったことにリレアはライフルを構えた。
向けられた銃口がイアースを現実に引き戻しとっさに隠れたイアースに、リレアはイアースが隠れたのを確認すると引き金を引いた。
パパパパパパパパパパパパパーン。
当たらないように更に身を縮こませたイアースに、アクセルが踏み込まれトラックは一気に加速する。
エンジンをうならせると闘牛の様に突っ込んでくるトラックに、リレアは接触する寸での所で横に避けると衝突を回避した。
止んだ銃弾にイアースは伏せていた顔を上げる。
撃ちまくられ孔だらけになったフロントガラスに、運転席は弾痕だらけになっていた。だが、イアースには一発も当たっていないことに、それは、リレアが当たらないように撃っていたからだ。
リレアが当てないように撃っていたのは、ここが峠道だからであり当てなくても止めることが出来たからだ。
前方を見たイアースに、ヘッドライトに照らされていたのは急カーブであり、このままではカーブが曲がれずその奥の茂みに突っ込んでいってしまうことに慌てて急ブレーキを踏む。
しかし、スピードの出過ぎていたトラックは止まることが出来ず茂み突っ込むと木に衝突したことで停止した。
『こちらリレア、トラックは停止させた。今から確保する』
撃ったマガジンに、リレアはライフルをリロードするとハンドガンに持ち替える。
トラックに近づくと、ハンドガンを片手に運転席側のドアを開ける。開けたドアにハンドガンを構えるとイアースはハンドルにもたれ掛かるようにして倒れていた。
イアースは銃を所持していた。引っ張り下ろすと落ちてきた銃にリレアは銃を蹴り飛ばすと手錠を掛ける。
『こちらリレア、ターゲットを確保した』
道路上へと運んだイアースに、ライトで照らすとイアースは頭から出血していた。
「見せてください」
動かないイアースにシーナが観察を行う。
感じられた脈と呼吸に、脈と呼吸は正常であり、頭からの出血は衝突した際頭を強く打ち付けたことによるものだった。
「どこも被弾していませんし気を失っているだけです」
「当たらないように撃ったからね」
安堵するリレアに、シーナは全身の観察を終えると立ち上がる。
「リーダー、はい」
シーナが観察をしている間、キリエはトラックの中を捜索していた。
キリエは、トラックから降りると中で見つけた物を初に渡す。
「あったのはこれとお金、あとは飲み物ぐらいでアカデミーについての情報は無かった」
トラックの中にはほとんど物がなく。あった金は黒のローブの集団から代金として受け取ったもので、トラックの中に黒のローブの集団をアカデミーと確定づける情報は無かった。
初は、携帯を取り出すとセシルに電話を掛ける。
キリエが初に渡したのは地図であり、開くと二重丸で配達先が明記された地図に、これでアカデミーの拠点と思われる場所の正確な住所が分かる。
「ターゲットについては確保した。それとアカデミーの拠点と思われる場所の住所が分かった」
初が住所を伝えると、電話の向こうでメモを取るような音がする。
「分かった。救急などはこちらで手配しておく」
「助かる」
「乗車完了」
電話を切るとバンに乗った初に、リレア達もバンに乗り込む。
後部座席から聞こえた声に、初は全員が乗ったことを確認すると少女達を救出に向かう。




