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ルーム6 2

感想ください。

誤字脱字などがあれば教えて下さい。



時間を少し遡る。


 ザックの車の十数メートル後ろを一台のバンが走っていた。

 バンを運転するのは高見初。バンには初の他に四人の少女が乗っていた。


助手席に座るキリエ・ノイアは、ポーチを開くと一枚の紙を取り出した。人型で手のひら程の大きさの紙に、キリエは次いでナイフを取り出す。


キリエが取り出した紙は式神であり、式神を使用するには起動をさせなくてはならない。

キリエは、取り出したナイフで自身の左手中指を切ると、出血した指を式神に押し当てた。


式神には予め術式が書かれている。

血を吸収した紙に赤く文字が浮かび上がる。起動中の式神に、起動が完了すると浮かび上がっていた文字は消え、代わりに起動したことを示す印が赤く浮かび上がった。


完了した式神の起動に、術者であるキリエは式神を操作することが出来る。だが、キリエは直ぐには式神を操作しようとはしない。


後部座席には、リレア・アレッド、エリシー・ケース、シーナ・プレンストの三人が座っていた。


「シーナ」


キリエは、後部座席に向くとその中で治癒魔法が使えるシーナに、治してと、指を見せる。

 二、三日もすれば治るような、治癒魔法を使うまでもない傷。子供がどんなに小さな怪我でも絆創膏を求めてくるように指を差し出したキリエに、だが、キリエがそのような行動をするのは切った場所が指だからであり、これから銃を撃つかもしれないからだ。


 指の怪我は他の部位の怪我と比べ気になりやすく、銃を撃つ者にとっては指の怪我は引き金を引かない指であっても射撃に重大な影響を及ぼす。


「〈ライトヒール〉」


 いつものことに、シーナはキリエの手に触れると治癒魔法を掛ける。治癒魔法を使うまでもない怪我はシーナが治癒魔法を掛けると一瞬にして治った。


「治りましたよ」

「ありがとう」


 街頭の明かりが差し込む車内。

 治ったことを伝えるシーナに、キリエは正面に向き直ると自身でも治っているかを確かめる。


治っていた指にキリエは式神の操作を始める。

 キリエが式神に上昇するように命令をだすと、キリエの手の上で寝ていた式神がふわりと浮き上がった。

手の上でホバリングする式神に、キリエが上昇に降下、右旋回に左旋回の命令を出すと、式神は上昇に降下、右旋回に左旋回を行う。

キリエが行っているのは操作確認であり、キリエは式神が命令通り動くことを確認すると次の確認作業に移る。


今回キリエが起動した式神にはカメラにマイク、そして位置情報の機能が備わってある。

キリエは、左手で左目を覆うと右手で右耳を覆う。それは外部からの刺激を遮断するためであり、そうすることで式神から送られてくる映像や音声をより鮮明に捉えることが出来るからだ。


 手で目を覆っているにもかかわらず左目に映る車内の映像に、それは式神が見えている光景であり、映像は正常に送られていた。


「テス、テス」


言ったキリエに、声は塞いだ耳からも聞こえて来る。ただ、その声は塞いでいない左耳から聞こえた声とは異なっていた。

普段聞いている自身の声と録音した自身の声は違う。

それは、式神の耳からの音声であり、音声も正常に送られていた。


 キリエは、自身の内側に意識を向けると位置情報が発信されているかの確認をする。自分が居てその直ぐ近くに反応がある。その反応は式神からの信号であり、位置情報も正確に発信されていた。


全ての確認作業を終えたキリエは覆っていた手を離すと、初に向かって顔を上げる。


「OK。正常に動作している」

「分かった。いつも通り信号で止まった時張り付けてくれ」

「了解」


 尾行が気付かれないよう、ある程度距離をとって追跡していた初は、アクセルを踏み込むと式神を取り付ける為にザックの車に接近する。

 赤信号で止まったザックの車に、初は車を一台挟んでその後ろにバンをつけた。


 停止したバンにキリエは左目を覆うと式神の操作を開始する。

開けた窓から式神を車外にやると、直ぐさま急降下させて式神をバンの車体の下に潜り込ませた。

 相手がどれ程周囲の警戒をしていたとしても車体の下までは警戒することは出来ない。

 キリエは、車体の下を移動させるとザックの車の車底に式神を張り付けた。


「付いた」

「よし」


信号が青に変わり直進するザックの車に、初はウインカーを出すとザックの車から距離をとる。

位置情報機能の付いた式神はいわば発信機であり、それを取り付けた今目視での追跡という気付かれるリスクのある追跡を行う必要はない。

式神の位置情報を監視するキリエに、初はキリエからの報告をもとにザックの車の追跡を継続する。


「止まった」


 式神の位置情報が変化しなくなったことにキリエがそのことを伝えると、初もバンを止めた。

 バンが止まった場所は工業団地。

 キリエは、右手で右耳を覆うと式神からの音に集中する。

赤信号などによってザックの車が止まることはあった。そのたびにキリエは右耳を覆うと音を聞いていた。

聞こえる音にキリエは、その音がプツンと聞こえなくなったことを確認する。


「エンジンが切られた」


 キリエは、車が止まる度にエンジン音を聞いていた。

 車が止まったとしてもエンジン音がしていればまだ進むということであり、切られたエンジン音にそれはここが目的地だということを示していた。


 聞こえなくなったエンジン音に、ガチャッと、ドアが開く音がする。

 キリエは、左目も覆うと車底に隠していた式神を操作する。式神の頭だけを車体から覗かせ周囲の様子を確認すると、ブリーフケースを手に倉庫へと向かうザックの姿が見えた。


 ザックが倉庫に入る。キリエは周囲に誰もいないことを確認すると通気口から式神を倉庫に侵入させた。

 照明で照らされた倉庫内には、ザックの他に三名の人物が居た。


「ここみたいだね」


 言ったキリエにそれが合図だった。


「作戦開始だ」


 初達に与えられた任務は、ザックとスパイの確保。

 今居る場所は工業団地で、ザックの車が工業団地に入った時から全員がここだと思っていた。


「ここから南西に一〇〇メートル行った先にある倉庫」


キリエは、式神の位置情報を確認すると倉庫の場所を伝える。


 リレアとエリシーは銃を手にしていた。

 リレアは、手にしているライフルに視線を落とす。挿さっているマガジンに、チャージングハンドルを引いて弾を装填すると、セーフティを掛ける。

 ホルスターからハンドガンを抜くと、挿さっているマガジンに、スライドを引いて弾を装填すると、セーフティを掛け、ホルスターに戻す。


エリシーは、手にしていたスナイパーライフルのボルトを引くと押し戻して弾を装填する。

 ホルスターからハンドガンを抜くと、挿さっているマガジンに、スライドを引いて弾を装填すると、ホルスターに戻す。


「何が見える?」

「ザックの他に男が三人。三人は全員銃を持っている」


キリエは式神で中の様子を見ながら答える。

 キリエの見る式神からの映像に、敵のリーダーらしき男に歩み寄るとファイルを渡すザックの姿が映る。


「銃は何持っているの?」


尋ねたリレアに、キリエは式神を操作すると男達の銃に着目した。

 銃はT字でハンドガンのような見た目をしていた。その特徴的な形にそれはUZIサブマシンガンだ。

 UZIは折り畳み式のストックを備えており、コンパクトに銃を携帯することが出来る。

 リーダーらしき男はストックを折り畳んだままにしているのに対し、あとの二人は銃のストックを展開するといつでも戦闘が行える体制を取っていた。


「三人ともUZI。リーダーは携帯しているだけだけどあとの二人はストックを展開していつでも撃てるようにしている」

「了解、ありがとう」


 リレアは、それを確認するとバンのバックドアを開いた。


「行ってくる」

「私も」


 先にバンを降りたリレアに、エリシーもバンから降りる。


「二人人とも位置に着いたら教えて」

「「了解」」


 式神から意識を逸らすと後ろを向いたキリエ。

閉めたバックドアに、リレアはエリシーと別れると倉庫を目指す。

 リレアは、アサルトであり、リレアがキリエに敵の持っている銃について尋ねたのはリレアが突入を担当するからだ。

光を避け目的地の倉庫へと向かっているとリレアに無線が入った。


『リレア、止まって』


 無線を送ったのはエリシーだ。


『どうしたの?』

『……』


 物陰に隠れると尋ねたリレアに、だが、応答はない。

 再度尋ねようとしたリレアは無線機のボタンに手を掛ける。その時だ。


パン。


 リレアの耳は何かが弾けるような音を捉えた。直後エリシーから無線が入る。


 エリシーは、スナイパーであり、一足先に位置に着いたエリシーは周囲の警戒を行っていた。

 建物の屋上そこから見える倉庫に、エリシーはその建物の屋上まで上がると腰ほどある高さの壁にスナイパーライフルを依託すると構える。

 暗い夜の工業団地。警戒しようにも周囲を見通すことのできない闇にエリシーは魔法を発動した。


「〈ビジョンパルス〉」


 目を閉じ魔法を発動すると目を開く。目を閉じるまではカラーに見えていた視界、それが、目を開くとモノクロに映る。

 エリシーは、モノクロになった視界で周囲を見渡す。と、灰色の世界に一つ白い点があった。

 エリシーが発動したのは索敵魔法。それはサーマルに似ており、モノクロに映る視界には生物だけが白く強調される。


 道を挟んで倉庫の向かいにある建物の屋上。ピングはそこから周囲の警戒を行っていた。

 ピングは、男の本名ではなくコードネームだ。

ザック倉庫の扉をノックした時、扉は何の確認もなく開かれた。通常であれば相手が本人であるか確認してから開かれる。しかし、何の確認もなく開かれたのは、ピングが本人であるかを確認し電話で中に居るルータにザックが来たことを伝えていたからだ。


 ピングが手にしている銃はM1ガーランド。スコープを載せていない銃に、レンズの反射による位置バレの心配はなく、闇に溶け込んだピングは誰にも気づかれることなく周囲の警戒を行っていた。


「ターゲット1発見」


 誰もいないように見えた視界に、魔法を発動することで映った白い点。等倍で見るとただの点なそれに、スコープを通して見るとそれが人型であることが分かる。

 魔法を発動していなければ見落としていたかもしれない。だが、魔法を発動したことでエリシーはそれを容易に発見した。


『リレア、止まって』


発見した白い人影に、エリシーはリレアに止まるように告げる。発見した時点で照準は終わっている。しかし、まだ撃つことはしない。


「ターゲット2は……なし」


エリシーは、白い人影を狙うのをやめると他にも敵が潜んでいないかを確認する。しかし、他に人影は確認できなかった。

敵は一人だけだと判断したエリシーは、発見した白い人影に照準を合わせると、セーフティを解除し、引き金に指を掛ける。

スコープの中央に映る白い人影。エリシーは、白い人影の頭に照準を合わせると、引き金を落とす。


パシューン。


 エリシーの銃にはサプレッサーがついている。

 サプレッサーはつけたとして銃声が完全に消えるわけではない。サプレッサーが消してくれるのは発砲であり、銃弾が音速を超えた際に起こるソニックブームや、銃の動作音、そして着弾音などは消えない。


 スコープに白い人影が倒れるのが映る。少し観察するが倒れた白い人影に動く気配はない。


「ワンダウン。クリア」


エリシーは、敵を排除すると無線を送る。


『スナイパーが居たから排除した』


 言ったエリシーに、リレアが先ほど耳にした音の正体を知る。それは、銃弾が人間の頭部を破壊した音だ。


『了解、ありがとう。敵は一人だけだった?』

『スナイパーは一人だけだった』

『了解』


敵を排除してくれたエリシーに、リレアはお礼を言うと確保された安全に再び目的地へと進みだす。


 どこにでもあるような普通の倉庫に、その近くに止まったザックの車。

 倉庫は遮光されており遠目からでは真っ暗だが、近づくと薄っすらとだが光が漏れているのが見える。

 見えて目的地に、リレアは目的地に到着すると無線を送る。


『こちらリレア、位置に着いた』

『了解。こっちも準備する』


 式神で倉庫内を監視していたキリエはブレーカーを探していた。

 発見したブレーカーに、キリエは、リレアからの報告を受けると式神を操作する。発見されないように移動させると式神をブレーカーレバーに巻き付けた。


『準備完了。そっちは?』


 準備が完了したキリエに、リレアの準備も完了していた。

リレアは、ライフルのセレクターをフルオートに入れると、ライフルから手を放すと左手にフラッシュバンを握る。


『こっちも準備完了!』

『了解。スリーカウントでいくよ』

『了解!』


レンガ造りの壁。

無線機から手を放したリレアは、壁の真正面に立つと放した右手を壁に着いた。


『スリー、ツー、ワン、ゼロ』


 キリエが、式神をブレーカーレバーに巻き付けたのは、式神でブレーカーを操作するためだ。

カウントを行っていたキリエは、ゼロ、と言うと同時に式神を一気に降下させた。

急降下した式神によってブレーカーのレバーが下げられ、オフになった電源に、それまで明るかった倉庫の中は一瞬にして何も見えなくなる。


 左目に伝送されていた映像がブラックアウトする。

 式神を通して確認したブレーカーが落ちた事に、次の瞬間倉庫内に爆煙が立ち込めた。


ゼロ。キリエのその言葉に壁に手を着いていたリレアは魔法を発動した。


「〈ヒートチャージ〉」


 リレアが発動したのは爆裂魔法。それは、ブリーチング魔法とも呼ばれる魔法だ。


ドーン。


爆発音に、壁がぶち破られ、爆破され壁の破片が指向性散弾の様に倉庫内に飛散する。

壁にはC-4を起爆したかのような大穴が開いており、リレアは、左手に握っていたフラッシュバンの安全ピンを抜くとそれを倉庫に投げ入れた。

 リレアは、すかさず壁に隠れると壁に背を向ける。


バーン。


 視力を奪う閃光に、聴覚を奪う爆音が炸裂する。

 リレアが壁に背を向けたのはフラッシュバンの閃光から目と耳を保護するためだ。そして、爆発したフラッシュバンに、リレアはその爆発音を合図とばかりに突入する。


 暗転に爆発で起こった土煙が漂う倉庫内。

サブマシンガンを持った二人の敵に、視界の隅にファイルを手にした敵が逃げるのが映る。


パパパーン。パパパーン。


 敵は、壁が爆破されたことに反射的に目を閉じてしまった。だが、瞬時に交戦の構えを取ろうとした敵は目を開こうとする。

そして、敵が目を開いた瞬間、それを見計らったように投げ込まれたフラッシュバンが起爆した。

無い敵の攻撃に、敵はフラッシュバンの直撃を受けていた。

 目を保護することが出来ず、閃光を直視した二人の敵に、リレアは、一人の敵にフルオートで三発撃つと、続けてもう一人の敵も三発撃つ。


 ファイルを手に逃げる敵。

 リレアは、瞬時に二人の敵を倒すと逃げる敵に銃口を向けた。


パパーン。パパーン。


 撃ったリレアに、だが、弾は当たらない。

 壁の向こうへと逃げた敵に、リレアは逃げた敵を追いかけようとする。

 敵は銃を持っており、逃げたと見せかけてと言うのもある。いつ飛び出して来ても撃てるよう警戒しながら進んだリレアに、だが、それは敵に逃げる時間を与えるだけだった。


「逃がした」


 壁の向こうのその先、開いた扉に敵は倉庫の外に逃げていた。


『こちらリレア、敵一人逃げられた』


 直ぐに無線を入れたリレアに、返事は直ぐに合った。


『発見した。撃って止める』


 応答したのはエリシーだった。

 エリシーからの無線の内容に、リレアは倉庫内に向き直る。


「うっ、う〈リ、ジェ、……」


倉庫内をクリアしようとしたリレアに、苦痛にうめく声がした。

リレアが声のした方向に視線を向けると、敵は瀕死の重傷を負いながらもまだ生きていた。

銃に手を伸ばしながら魔法を唱えようとする敵。リレアは、そんな敵の頭部に銃口を向けると引き金を引いた。


パパーン。


 フルオートになっていた銃に一度引き金を引くと二発の弾が放たれた。

 頭を撃たれ完全に動かなくなった敵。


パパーン。


 リレアは、もう一人の敵も死亡確認で撃つ。

 地面には二人の敵の他にもう一人倒れていた。

 倒れていたザックにリレアが銃口を向けると、それまで動く気配のなかったザックが急に喋りだした。


「撃たないでくれ!」


 ザックは、向けられた銃口にやめてくれとばかりに手を突き出した。

 瞬間、リレアは臨戦態勢に入る。しっかりと据銃した銃に、即死さすためにザックの頭部に照準を合わせる。


「手を下せ!」


 魔法が存在するこの世界。手を突き出すという行為は銃を構えたも同然だ。


「分かった。だから撃たないでくれ」


 それに気が付いたザックは慌てて手を地面に着けた。


「うつ伏せになって両手は頭の後ろ」

「わ、分かった」


 拘束は一番危険な行為の内の一つだ。

 ザックは、うつ伏せになると両手を頭の後ろで組む。

 いつでも撃てるように銃口をザックに指向したままを近づいたリレアは、ライフルから手を放すと、手錠を取り出した。

 相手の手がこちらに届く距離に、この瞬間が一番危ない。

 リレアが取り出した手錠はアンチマジックカフと呼ばれるもので、掛けると相手の魔法発動を出来なくするという物だ。


 リレアは、ザックに取り付くと直ぐに手錠を掛けてザックを拘束する。

 手錠がしっかりと掛かっていることを確認すると、死亡確認も行ったことにリレアは無線を入れた。


『こちらリレア、ルームクリア。ザックも確保。エリシー、そっちはどう?』


 あれから何の報告もなかった。報告を行うと尋ねたリレアに、またしても返事は直ぐに帰って来た。


『逃げた敵は撃って止めている』

『了解。今から確保に向かうね』

『了解。気を付けてね』


 エリシーは、警戒を継続していた。

始まった戦闘に、リレアから無線が送られて来る。


『こちらリレア、敵一人逃げられた』


 無線の内容に、それまでスコープ越しに警戒を行っていたエリシーは、銃から顔を上げると目を皿にして索敵する。

 モノクロに映った視界に白い人影を捉えるのは一瞬だった。


「見つけた」


エリシーは、直ぐに顔を銃に戻すとスコープを覗き込む。

 その白い人影は銃を持っており、何度も後ろを振り返りながら逃げていた。


『発見した。撃って止める』


 足を狙おうにも走っている人間の足に当てるというのは難しい。かといって、胸部などを撃っては殺してしまう。

エリシーは、足の少し上、白い人影の腹部に照準を合わせると、白い人影が走る速度に合わせて銃を動かす。そうしてタイミングを合わせると、合ったタイミングに引き金を落とした。


パシューン。


「ヒット」


 撃ったエリシーに、スコープに白い人影が倒れるのが映る。

エリシーの撃った弾は白い人影の下腹部に命中していた。


 電気が消えた瞬間からのルータの行動は早かった。

 このような状況を想定しルータは予め逃走経路を用意していた。

電気が消えた瞬間それを兆候ととらえたルータは、踵を返すと、次の瞬間には走り始めていた。フラッシュバンを受け視界が歪んだが、それでも逃げることが出来たのは予め逃走経路を用意していたおかげだ。


 脱出することの出来た倉庫に、だが、逃走は直ぐに終わりを迎えた。

走っていたルータの体をずしんと重い衝撃が突き抜けた。瞬間硬直した体に、踏み出した足は地面を捉えることはなく、ルータの体は地面に落下する。


 倒れたがまだ生きているルータに、だが、二発目は飛んでくることはなかった。

もし相手に殺すつもりがあれば頭を撃つなり、胴体に二、三発叩き込むなりをして止めを刺してくる。

だが、飛んでこない二発目にそれは相手に殺す意思がないということだ。


 ルータは、右手に意識を向ける。だが、無い感触に次いで辺りを見回した。

前方に転がっていたそれを発見すると、ルータはそれを掴もうと手を伸ばす。

右手に握っていた銃は撃たれた衝撃で前方に投げ出されていた。


 相手はスナイパーであり、撃たれた状況。相手はこちらを捉えているのに対し、こちらは相手がどこから撃って来たのかさえ分からない。こんな状況では、銃を手に出来た所でどうにもならない。

射程もサブマシンガンとスナイパーライフルでは相手の方が有利だ。それでもルータが銃を掴もうとするのは何も一矢報いる為ではない。


 それは自決の為だ。

 殺す気のない、こちらを確保しようとしている相手に、ルータは銃を掴むとそれで自身の頭を撃ち抜こうとする。


 あと一メートル。もう少しで届きそうな銃に、ルータは手を伸ばすと掴もうとした。その時だ。ルータの眼前で掴もうとしていた銃が破壊された。


パシューン。


 白い人影を監視していたエリシーは、地面を這うと、何かを掴もうと必死に手を伸ばす白い人影に、その手を伸ばした先に銃があるのを発見すると、発見した銃を撃った。

銃の基部に命中した弾に、部品やマガジン内の弾がはじけ飛び、銃は完全に撃てない状態になる。


 先程まで動いていた白い人影の動きがまるで希望を失ったかのように止まる。


『こちらリレア、ルームクリア。ザックも確保。エリシー、そっちはどう?』


 リレアからの無線が入る。


『逃げた敵は撃って止めている』


 スコープの先、動かない白い人影にエリシーは報告する。


 エリシーからの報告に、リレアはライフルをリロードすると逃げた敵の確保に向かう。

 気を付けてね、と言い無線を切ったエリシー。

 何に気を付けるのか、と思考向かったリレアは、到着すると、撃たれた逃げた敵を見てエリシーが言った意味を理解した。


 倒れ動かない敵に、その先にある破壊された銃。

 自決が出来なかった敵に、自決する方法はなにも自分の手でだけとは限らない。抵抗して相手に殺してもらえば良いのだ。


 襲われても距離があれば素手での制圧も可能だが、距離がなければ銃に頼らざるを得ない。

 敵からまるでタイミングを計っているような嫌なものを感じたリレアは、その感覚に無線

を入れた。


『シーナこの敵の足撃ってもいい?』


 リレアは、敵に聞こえないよう声を抑えて話す。


『ターゲットは持ちそうですか?』

『拳銃一発ぐらいなら大丈夫だと思う』


 シーナの問いに、エリシーがスコープで白い人影を監視しながら答える。


『分かりました。撃つのはいいですが、ライフルではなく拳銃で、足も大腿部は撃たないでくださいね』

『了解』


 リレアがシーナに許可を求めたのは、リレアが撃ったとして、その治療をするのはシーナだからだ。


 こちらに足を向けるとうつ伏せで倒れている敵。

 リレアは、敵にゆっくりと近づくと、ライフルから手を放すと、ホルスターからハンドガンを抜いた。

掛かっていたセーフティに、リレアはセーフティを解除すると敵の下腿部に銃口を向ける。


パン。


「ぐあぁぁぁ!」


 引き金を引いたリレアに、ルータは声にもならない悲鳴を漏らすと撃たれた下腿部を両手で押さえた。

 新たな痛みに悶絶するルータ。そのすきに駆け寄ったリレアは手錠を取り出すと、傷口を押さえるルータの手を引きはがすと後ろ手に手を拘束する。


『ターゲット確保』


 リレアが無線で報告すると、到着したバン中からシーナが降りて来る。


「また随分と派手にやりましたね」


 下腹部と下腿部に空いた孔に大雨の日の水たまりのような血だまり。


「撃ったからね。でもまだ生きているよ」


エリシーやリレアは、ルータを何の躊躇いもなく撃った。それは、生きてさえいれば傷は治癒魔法で治すことが出来るからだ。

 シーナは、直ぐに治癒魔法を発動する。


「〈リジェネラティブ〉」


 治癒魔法を行使したシーナに、ルータの傷が塞がっていく。

やがて完治したルータの傷に、しかし、反応がない。


「生きている?」

「はい。気を失っているだけです」


覗き込んだリレアに、シーナはルータの手首に触れると脈をとる。

弱いが感じられる脈に、口元に手をやると吐き出した息が手に当たり呼吸も感じられる。

治癒魔法で治せるのは傷だけであり失った血までもは元には戻らない。

ルータは、出血により意識を失っていた。


 ルータをバンに積み込むと、リレアとシーナもバンに乗り込む。

乗り込んだのを確認するとバンを発進させた初に、ザックの回収に向かった初は倉庫の前まで向かうとバンを停車させた。


「式神はまだ倉庫にいるよね?」

「いるよ」

「クリア?」

「クリア」

「了解」


 倉庫内にはスパイの銃が落ちている。

式神が倉庫に居ることを確認すると、次いで倉庫内の安全を尋ねたリレア。

キリエからの答えに、リレアはバンから降りると倉庫内に向かう。

 中に入ると居たザックに、ザックは落ちている銃を拾うことも、誰もいない隙に逃げることもしていなかった。

それは、ザックの真横で浮遊する式神に常に監視されていたからだ。

麻袋を手にしたリレアはそれをザック頭部にかぶせると腕を掴んで立ち上がらせる。


「ほら歩いて」


 前が見えずゆっくりと歩くザックに、リレアはザックを押すとバンに向かわせる。


 連れてこられたザックに、キリエは式神を操作すると自身の手のひらに降下させた。

 任務が終わり不要になった式神に、式神とのリンクを切断するとそれまで自立していた式神はバランスを失ったかのように手のひらに倒れる。


「〈イグナイト〉」


 キリエが魔法を発動すると、キリエの指先にライター程の小さな火が灯る。

 キリエは、右手で持った式神に指先に灯った火を近づけると、役目を終えた式神を焚き上げる。


 狙撃位置からエリシーが帰って来る。

初は全員が乗ったのを確認するとバンを発進させた。

 工業団地を後にするバンに、キリエは、置いてあった携帯を手に取ると電話を掛ける。


「はい」


 渡された携帯に、初が携帯を受け取った時には電話は繋がっていた。


『こちら初、任務完了今から帰還する』

『了解。お疲れ様』


 携帯から聞こえた女性の声に、初は電話を切ると携帯をキリエに渡した。


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