仮にも16歳の、男女
——「イレオン!お前をパン泥棒の容疑で逮捕する!判決は死刑!」「レオ!なんてことをしたの!」
そうして牢に入れられたレオはなんと火を吹くドラゴンになって街を暴れ回りパン屋以外の全てを破壊し尽くし、王子とその護衛に討伐され…………
「駄目ーー!!!」
ルミエラは勢いよく飛び上がった。
「あれ…パン屋さんは……?」
目を擦ると、そこは破壊された街……ではなくの可愛らしいレースの天蓋が目に飛び込む。
ここは、ルミエラの部屋。いつの間にかベッドに寝かされていたようだった。
「パン屋……?魘されてたぞ。大丈夫か?」
この空間にはあり得ない低い声に、まさかと思い頭を素早く向ける。
そこにはベッドの隣で片手に本を持ち、長い足を組みながら椅子に腰掛けているイレオンの姿があった。
「レ、レオ……!?ここ、私の部屋!というか、女性専用の宿舎!!なんでいるの!?!?」
ルミエラは驚きのあまり勢いよく飛び上がって、ベッドの端の方へ座る。
「ルミエラが突然倒れたからそのまま家まで運んだら、管理人のばあさんに普通に通された」
「は、え!?」
ここを管理している白髪のかわいらしいお婆さんを頭に浮かべる。
たしかに、あの人なら「ああ、いつも迎えにきてる君ね!オッケー⭐︎」なんて言っていそうだ。
「仮にも貴族の宿舎なのに……」
ルミエラがぶつぶつ文句を垂れていると、イレオンがすっと立ち上がる。
そして、近づいてきたかと思えば、突然額にヒヤリと冷たい感触が当たった。
「熱はないみたいだな」
「ん……。ていうか、そもそも私が気を失ったのは、レオのせいよ。アラン王子にあんなことするなんて。
お陰で私は夢でレオがパン泥棒になってドラゴンになって殺される夢まで見たんだから」
「はあ?パンが好きで盗むなら、それはどっちかというとお前だろ」
そういうことじゃない、とルミエラは顔を顰める。
イレオンは少し黙り込み、そして目線を外しながら、ルミエラの額に当てていた手を頭にするりと移動させる
「悪かったよ。心配させて」
「いつもそれくらい素直に謝って」
イレオンはふっと笑い、立ち上がって扉の方へ向かう。
「もう帰るの?」
「お前も元気そうだし」
「そう、ゆっくりしていけばいいのに」
ルミエラはただ、友人同士で話すかのようにふと声を掛けた。その言葉を聞いたイレオンは、誰にも聞こえないほど小さく唸り、そして振り向いた。
「仮にも16歳同士の、男女だぞ。お前も危機感持て」
「な……!」
無愛想に答えるイレオンの言葉を聞いて、ルミエラの顔に熱が集まるのがわかる。
「別にレオと一緒にいたって何もないでしょ!変態!」
咄嗟に枕元に飾られたくまのぬいぐるみを投げつけつける。わざわざ子爵邸から持って来たお気に入りなのに。
イレオンは、「あぶね、」と言いながらそのクマを上手に掴み取って、ベッドに座るルミエラの膝元に優しく置いた。
「ゆっくり休めよ」
「……」
何が16歳男女だ。どうせまた、揶揄っているだけだ。顔色ひとつ変えず、余裕のありそうなイレオンを見て無性に腹がたった。動揺しているのは自分だけのように思えた。
——まあ、それでも。
扉に手をかけて、外に出ようとするレオに声をかけた。
「運んでくれて……、起きるまで待っててくれて、ありがとね」
白金の髪がさらりと揺れ、ルミエラを振り返る。
柄に合わず、小さく口角を上げてふわりと微笑んだイレオンの姿に、視線を奪われ小さく胸が鳴った。
——…….
ルミエラが気を失ってしまい、焦って部屋まで運んだ。
すぐに穏やかな寝息に変わったことで、ほっと胸を撫で下ろすも束の間、
「レオ……」と確かに自分の名前を呼ばれ、視界がぐらりと揺れた。
淡いブラウンの長い髪が、枕の上で柔らかく広がっていて、いつもは蜂蜜を溶かしたような金色の大きな瞳が、今日は形よく閉じられていて、長いまつ毛が影を落としている。
起きている時は怒ったり、笑ったり、表情を忙しいほどコロコロと変えるのに、寝ている時こんなにも無防備なのか。血色のいい頬、ふっくらとした唇……触れてしまいたくなる衝動をどうにか抑えて、汗が滲む手で適当に本を取りくだらない物語を読んだ。
「レオ……パン屋だけは…壊さないで……」
むにゃむにゃと言葉を発するルミエラの意味不明な寝言に、つい笑ってしまった。
本を閉じ、寝台に手をかけ、寝返りを打つルミエラに毛布を掛け直す。
ふと、長い髪が手に触れて、さらりと掬う。
少しの罪悪感と、理性の隙間からこぼれる熱をたしかに抱きながら……冬の空気に当てられた冷たい髪に、キスを落とした。
冷たい空気が肌を刺す薄暗い帰り道。イレオンは、ルミエラの赤らめた顔を思い浮かべ、ぐう、と唸る。
「よく我慢したな、俺……」




