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本当に目が合っていた

季節は冬に差し掛かり、冷たい風がルミエラを包む。

空は高く、天気も良い。澄んだ空気が漂う、そんな朝。

学園に向かう途中、花と木が並ぶ道端に、倒れて弱る小鳥を見つけた。


「まあ、小鳥さん!弱ってる」


思わず駆け寄ると、その白い小鳥は、ピィピィと弱々しい声をあげて震えていた。

鞄の中からポーチを取り出し、かちゃかちゃと中をあさる。


「うーん、人間の救急箱じゃ、小鳥さんに使えるものはなさそう」

「やめとけやめとけ。残念だが、これも自然の摂理だな」

ルミエラは冷たい言葉を放つイレオンをきっと睨み、「でも、確かに」と呟いて持っていたハンカチを優しく掛けた。


「せめて寒くない様にする……ごめんなさいね。これだけしかしてあげられなくて」


ルミエラの憧れているお姫様は皆動物に好かれ、お話をしたり一緒に歌う。そんなシーンに憧れて、幼い頃から動物を慈しむ心を徹底してきた。

ハンカチごと優しくそっと持ち上げ、誰にも踏まれない様に花の近くに移動させる。

 

これで良し、と息をついて立ち上がり、歩き始めようとしたが、何故かイレオンが動かない。

やがて、黙っていたイレオンは、やがて木になっていた赤い実を2、3粒小鳥の近くに投げた。


「素直じゃないのね」

「帰り道に死んでたら、お前が泣いてうるさそうだからな」


無愛想にそう言うが、イレオンはいつも、ルミエらの優しさに感化されてしまうのだった。


学園に着くといつもの様に、正門前には多くの女生徒たちがひしめき合い、目を輝かせてソワソワと話をしている。

 

「いつまで続くんだ、王子の入り待ち」

イレオンが心底嫌そうな顔をする。

ルミエラはそれを無視して、きらりとした顔でイレオンに言った。

「レオ、じゃあまた放課後ね!」

「……そうだお前もだった」


もちろんルミエラも参加だ。

王子様がこの学園に来てから、欠かしたことはない。

イレオンは、はあ、とため息をついて面白くなさそうにルミエラを見つめるのだった。


 

 ◇

 


そして、平和な1日が終わり、放課後。

正門を出ると、「ルミエラ、あれ….」と言って目を見開いたイレオンが指を刺す。

その先を見ると、白い小鳥がルミエラのハンカチをくわえ、健気に運んでいた。


「まあ!もしかして今朝の小鳥さん??すっかり元気になってる!」


通じたのか通じてないのか、ピィ!と元気よく鳴きながら、ルミエラの手にハンカチを落とす。その姿あまりにも愛らしくて、ルミエラの口角が緩んだ。

 

「賢い子ね。ハンカチなんて気にしなくていいのに。」


満足したようにぱたぱたと小鳥はどこかへとんでいく姿を見ながら、イレオンはうわごとのように呟いた。


「こんなことあるのか……?」

 

ルミエラもたしかに驚いたものの、それよりも本当に物語の出来事の様で胸が弾む。


「もしかしたら、お礼に王子様を連れてきてくれたりして」

「はっ、そんな強欲なお姫様はいないだろ」


ルミエラは揶揄う様に笑うイレオンの顔に手を伸ばして、頬を軽く捻った。


 

 ◇


 

——お礼に王子様を連れてきてくれたりして。


それは本当になってしまった様だ。

冷たい風が吹き荒れる、庭園のベンチ。

ニコニコと笑うアラン王子と、不機嫌そうに顔を顰めるイレオン……。顔を突き合わせる2人をルミエラは青い顔をして交互に見やった。

 

何故こんなことになったのか、話は数十分前に遡る。


――……

 

「そろそろこのベンチで読書するのも寒いわね…」


ルミエラは冷えた指先を擦りながら呟いた。

本格的に冬の訪れを感じさせる強い風が吹いていた。

隣に座っていたイレオンは、ルミエラが本を閉じたのを見て言った。


「その本、もう読み終わったか?」

「いいえ、寒くて冒頭しか読めてない」

 

「そろそろ帰るか、」とイレオンがいい「そうする」と頷く。そこまではいつもと何も変わらなかった。


問題は、その後——…


「僕もその本、好きだよ。」


背後から透き通った声が響いた。

優しく凛とした、聞き覚えのある声。

まさか、と振り返ったルミエラは目を大きく見開く。


「あ、アラン王子、殿下……」

 

そこにいたのは、しっかりと束ねた長い黒髪を風に靡かせたアラン王子だった。

ルミエラが手に持つ本を指さして綺麗な笑顔で笑いかけられる。突然の出来事に心臓がドクンと跳ねて、本を落としかけた。


太陽はまるで王子様のためのスポットライトのよう。

光を受けてキラキラと輝くオーラを身に纏っていた。


喉に詰まる声を、無理やり絞り出す。

「お、お初にお目にかかります。ローレンス子爵家の、ルミエラ・ローレンスと申します……。」


ルミエラは裾を摘まみ、身をかがめた。

手も足もガクガクと震えている気がするが、必死でバランスを保つ。


「綺麗なカーテシーだね。ルミエラ、僕たちは初めましてじゃないよ」

「お褒めいただき光栄です。……えっと、初めてじゃないとは……?」

顔を上げて首を傾げたルミエラに、アラン王子はゆっくりと近付いて紫色の瞳を緩く細めた。

「この前、目が合っただろう?白いガゼボの下」

 

アラン王子の言葉に、ルミエラは衝撃を受けた。

頭の中は真っ白だ。

とにかく今すぐにセオの方へ振り返り、「ほらね!」と言ってやりたい。

それでも、ぐっと堪えて「覚えて頂けているとは……。」と一言を返した。


 殿下は変わらず穏やかな微笑みを浮かべ、「それと——」と言いながらルミエラの隣、少し上の方へ目線を向けた。


「君も目が合ったね。久しぶり、イレオン」


ルミエラは先ほど以上の衝撃を受ける。

久しぶり?イレオンの名前を知っている?と言うことは、殿下とレオは知り合いだったのだろうか。

今までそんな素振りは見せたことがなかった。

首がそのまま飛びそうなほどの勢いでイレオンを見ると、その顔には不機嫌さをこれでもかというほど滲ませていた。


「ちょ、っと、レオ!ご挨拶、しなさいよ!」

慌ててイレオンに言うと、

「……わざわざ挨拶どうも。アラン王子殿下サマ。」

と、なんとも不敬な態度を取った。


ルミエラの顔はサァと血の気が引き、それはもう、快晴の空よりも、広大な海よりも、イレオンの瞳よりも……真っ青だっただろう。

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