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機嫌が悪い

「ねえ、レオ?いつまでその態度のつもり?」

「…………」


アラン王子にダンスを誘われた日から、2日が経った。あの日からイレオンの機嫌が微妙に、悪い。


「そんな態度取られるなら、私だって気分が悪いわ」


そう言ってルミエラは歩くスピードを上げる。

一切悪いことをしていないのに、気を使って機嫌を取る必要はない。問いかけて何も言わないならば、残るは無視に限る。


そう思って、出来る限り早く足を動かすが、イレオンも同じスピードで合わせて付いてくるのだった。



 ◇

 


「ねえ、酷いと思わない?」

教室に着き、授業が始まる前の時間、ルミエラは口を尖らせて愚痴を漏らす。


「確かにルミエラは、悪くないです」

「そうよね!アイリスも、そう思うよね」


アイリスは眼鏡をくい、と上げて、それからうんうんと頷いた。


「イレオン様は、おそらく嫉妬してらっしゃるのですね。ルミエラが自分以外の殿方と踊るのをよく思っていないのでしょう」

「え、嫉妬?」

「ええ。嫉妬」


ルミエラにとって思いがけない言葉に首を傾げてしまう。自分以外の殿方と――なんて言っているがそもそもレオと踊る約束などしていないし誘われてもいない。

それなのに、嫉妬?あり得ない。ルミエラはアイリスの言葉にピンと来なかった。


「アイリス、それは違うと思うの。

嫉妬というのはね、好きな人や恋人に対して起こるものよ。

レオの私への態度は、どこをどう取っても好きな人への態度じゃないもの。意地悪だし、口は悪いし。それに——」

「……それに?」

「あ、いいえ。なんでもないの」


それからもイレオンの愚痴を溢し続けていると、学園中に予鈴の音が鳴り響いた。

アイリスにお礼を言い、ルミエラは自分の席に着く。


 ——それに……私は、レオが私のことを好きではないと知っているんだもの。


嫌な思い出が頭の中に浮かびそうになり、ふるふると頭を振って思考を散らした。

そして、ふう、と深呼吸をして、ぼんやりと黒板を眺めるのだった。



———……



午前の授業が終わり、丁度ルミエラがいない教室。3人の令嬢はこそこそと話に花を咲かせるのだった。


「側から見ていたら、イレオン様の態度は分かりやすいのになあ」

「まあ、イレオン様は本当に不器用だもの」

「そうですね。でも、ルミエラもかなり鈍感です」



———……

 


ランチタイムが終わり、午後の授業が始まろうとしていた。ルミエラは教室を出て、風が抜ける渡り廊下を通る。


ふと騒がしい声が聞こえ、足を止めて下を覗き込んだ。

そこは学園の中庭があり、今日は金属がぶつかるような、鋭い音が響き渡っている。剣術の練習をしているようだった。


ルミエラは無意識に身を乗り出し、マリーがいないかと真っ赤な髪を探す。しかし目に入ったのは、女性陣に不自然に囲まれている白金の髪をした男だった。


「もしかして、レオ……?」


ちょうど模擬試合が行われており、「イレオン様、頑張って〜!」と甲高い複数名の声が聞こえる。

イレオンはというと、女生徒たちの存在などまるで見えていないかのように、ただ剣を構え相手を見据えていた。


軽やかな踏み込みと同時に、鋭い金属音が響く。

相手の剣が一瞬にして宙を舞い、その男はどさりと尻をついて倒れてしまった。


「素敵!イレオン様〜!!」


勢いよく上がる黄色い声に一切目を向けることなく、髪をかきあげ滴る汗を拭う。

その色気に当てられたのか、何人かの女性が断末魔のような悲鳴をあげて倒れ込む。


「レオったらいけすかない男ね。あの子達は、レオのどこがいいの?」


ルミエラは、ふん、と踵を返し、止めていた足を動かす。するとまだ盛り上がっている最中の女性達の声が耳に入ってきた。


「イレオン様の冷たくて無愛想なところが、本当に最高なのよね〜〜!!」


「……ふうん」

足を止めて小さく呟き、また歩き始めた。

イレオンがモテると言うのは、本当みたいだ。


それよりも、今日はダンスの授業がある。ルミエラは憎たらしいレオの事など思考から消して、気合を入れる。

得意科目だけれど、気を抜いてはいられない。

だって憧れの王子様と、踊れるのだから。



 ◇



「いたた……」


ルミエラは学園のベンチに座り、左足首を擦った。

ズキズキと鈍い痛みが足を襲っているのだ。


調子に乗ってしまった。

足を痛めた原因を振り返り、顔が赤くなった。

恥ずかしい。アラン王子と踊れるようになったからと言って調子に乗ってダンスの練習を張り切りすぎた。いつもより勢いをつけてターンした時に足を挫いてしまった。


「レオにバレたら絶っっ対に馬鹿にされる……」

「俺が何」

「ひっ!」


タイミングが悪いこと、この上ない。

肩に手を置いてこちらを覗き込むイレオンから、ゆっくりと目を逸らして「何でもない……」と答えた。

そのわざとらしく何かを隠す様子に、イレオンは怪訝な顔をして、ルミエラの様子を伺う。

頭からつま先までゆっくりと見下ろす姿に、ルミエラの背筋が勝手に伸びた。


「腫れてる」

イレオンは見事、ルミエらの足を指さしてそう言った。

 

「えっ、嘘、さっきまでは何ともなかったのに」

腫れてる、のだろうか。見た目だけじゃあまり変わらないように思える。

よく気付いたな、と感心し、「でも、歩けるから。」と答えた。


「鈍臭いな。どうせ、”王子様とのダンスの為に、もっと練習しなきゃ〜”って張り切りすぎたんだろ?」

「ち、違……わないけど」


無理やりベンチから立ち上がり、バランスよく立つ。少し痛むけれど、なんとか宿舎までは帰れそうだった。


「馬鹿。痛いんだろ、悪化するぞ」

「な、レオ、!?わっ、」


突然視界が揺れ、気づけば地面から足が離れていた。

腕の中に収まるような横抱きの体勢。少し顔を見上げればイレオンの綺麗な顔がこれでもかというほど、違い。


「これが……お姫様……でも……」

夢にまで見た、横抱きだった。

 

「でも?」

「は、恥ずかしい!恥ずかしいから、あの、下ろして……。せめて、背中におぶってちょうだい……!」


放課後とはいえ学園の中、流石のルミエラでも、イレオンにこの抱き方をされるのは羞恥心が勝った。


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