イケメン評論家JKユキ、推し(佐々木小次郎)がバカ武蔵に殺されたので、剣道部に入ってタイムスリップし、彼を救おうと思います
学校の授業中、うっかり居眠りしちゃった私は、机に突っ伏したまま、意識が遠のくのを感じる。ああ、やばい、先生に怒られる……。
──次の瞬間。
なぜか私は『巌流島の戦い』の見届け人に(?)
!!
潮くっさ……。ここ、どこ? って、え、砂浜!?
目の前にいるの……もしかして佐々木小次郎!?
うわ、やば、イケメンだ。しかもデカい。あれ絶対二メートル近いでしょ。
小次郎さん、刀持ってるしガチで戦う雰囲気なんですけど…。
でもさぁ、相手の武蔵って、まだ来てないんだよねー。
(あー、これ知ってる。武蔵って遅れてくるやつだ!)
「遅い!」
”ひぃ!”
小次郎さんが急に叫び声をあげた。
び、びっくりしたなぁ…。
でもイケメンが「遅い!」とか叫んじゃってるし、佐々木さんかっこよすぎ!
(応援してるよォー)
ここでね。思わず、心の声が口から出ちゃったんですよ。
「小次郎さん、小次郎さん……武蔵のアンポンタンはずる賢いやつだから、きっと遅れてきますよ」ってね。
「なにゆえ?」
”ひゃぃ!”
小次郎さんが、ガチ顔で聞き返してくる。
(聞こたんだ…うちら相思相愛かョ!)
私は丁寧に教えてあげた。
「そりゃあ、小次郎さんを動揺させて、頭をかち割るためじゃないっすかね?」
私が日本史の真実を教えてあげると、小次郎さん。
「うぬぅ……なんとずる賢いやつよ!」
だから、さっきから私、言ってんじゃん。(殺気だけに?)
っていうか、根本的な疑問──。
…私、今ここにいるのは、なんで?
たしか、さっきまで教室だったでしょ!?
なんて混乱してるうちに、また変なのが来ちゃいましたァー!!
──視線の先、海から小舟が一隻。
そこに立ってたのは、髪ボッサボサの武蔵っぽい男で。
え、ちょっと待って木刀!? 刀じゃなくて!?
武蔵は、長っがい船のオールを盗んで、船上から勢いよく飛び降りた。
「とぉーーー!」
砂を蹴って、彼は一直線に小次郎さんの前に立った。
……うっわー、マジで始まるんだ、これ。
「小次郎、敗れたり!」
そう言って、武蔵がカッコをつけた。
はあァ!? マジかコイツ。初対面なのにいきなり呼び捨てかよ!
しかも、いきなり勝利宣言とかあり得ないんだけど!?
この人、ほんとにアンポンタンだ……。
小次郎さんは、バカ武蔵の言葉に一瞬だけ、目を細めた。
「なぜ、貴様がそのようなことを言うのか」
『キサマ』とか言っちゃって、小次郎さん、お侍さんみたいじゃん!カッコいいわー。
私をめぐって争う、イケメンと髭のおっさんが睨みあう。
「勝つ心があるならば、刀の鞘を投げ捨てるはずがない。貴様のその鞘は、もう二度と貴様の元には戻らぬ。つまり貴様は、その刀を一振りで決着をつけねばならぬ。だがこの俺は、いつでも刀を納め、次の策を練ることができる。最初から、貴様は俺に勝てぬのだ」
なんだ、このおっさん?
なに屁理屈言ってんだよ。
(小次郎さん、動揺しちゃだめー!!)
なんて思ってたら、時、素手に遅しとか言うやつだった。小次郎さんは少したじろいでいた。
「うぬぅ……」
小次郎さんが悔しそうに唸る。
武蔵は、その一瞬を見逃さなかった。
「勝負!」
(うっせー禿げ!)
小次郎さんは、武蔵のアンポンタンな挑発に、一瞬だけ目を細めた。
バカ武蔵は、その一瞬を見逃さなかった。
「「えいやー、とぉー!!」」
カキン! コキン!
キンコンキーン!!
(え、待って、もう終わり!?)
小次郎さんが必殺の「燕返し」を繰り出すよりも早く、武蔵の木刀が唸りを上げる。
(うわああああああああああ!)
小次郎さんの刀は、武蔵の額をチョロっと触って、あの超ダッサい鉢巻きを断ち切ったけど…。その瞬間、武蔵の木刀が小次郎さんの眉間を、かち割っていた…。
(嘘でしょ……)
「……ま、まけた…」
小次郎さんが、マジで信じられない、という顔で、絶望の言葉を吐き出す。
そのまま、ゆっくりと砂浜に倒れていった……。
勝負一瞬、瞬殺だった。
武蔵のうんこやろーは、倒れた小次郎さんをチラッとカッコつけて見て。それから職員室に入る新入生みたく軽く一礼して──。
またあの汚っったない小舟に乗って、ユラユラ去っていった。
”私、決めた!”
「武蔵、あんたのアンポンタンなやり方、絶対許さないから!」
私は決意を込めてそう叫んだ。でも声にはならず、心の中で叫んだだけだった。
──zzZZ。
「佐々木!」
「はいっ!」
先生に名前を呼ばれ、私はビクッと体を震わせた。
どうやら私は、机に突っ伏したまま、居眠りをしていたらしい。
「佐々木、授業中に寝ない! 今、巌流島の戦いの話をしていただろう?」
先生がチョークを片手に、呆れた顔で私に話しかけてくる。
「は、はい……」
「なぜ武蔵は、遅れてきたんだ?」
先生の言葉に、私は思わず口ごもった。
なぜって……そりゃ、小次郎さんを動揺させてから、頭をかち割るためじゃないですか?
そう言いかけたけど、私はグッと口を閉ざした。
「佐々木、大丈夫か?」
先生が心配そうに私に聞いてくる。
「は、はい!大丈夫です!先生、私、宮本武蔵のアンポンタンなやり方、絶対許さないと決めました!」
先生は、私が何を言っているのか理解できない様子だった。
クラスメイトたちは、私を見て、クスクスと笑い始めた。
「あ、あれ……?」
私は、自分の言ったことが、先生やクラスメイトには理解できないことに気づいた。
そうか、私は夢を見ていたんだ。
でも、この胸の熱さは、いったい何なんだろう。
私は、心の中で再び誓った。
「佐々木小次郎さん、私はあんたを絶対に救ってみせる!」
今度タイムスリップした、その暁には!きっと──イケメン小次郎さんと……。
放課後、私は、剣道部の入部届に「佐々木ユキ」と名前を記入し部室へと向かった──!