【外伝・大学生編】第5話『語られるは、君の声』
春、四年生になった澪は、卒業研究としてあるテーマを提出していた。
『交際0日婚から始まった、もう一つの世界の継承譚』
──王都ルヴィエールに関する非公的記録と、その伝承性について。
この研究に、最初は誰もが首をかしげた。
だが、澪が資料のひとつひとつに丹念な注釈を加え、
“記録されなかった物語”に意味を与え始めると――
いつの間にか、彼女のゼミには毎週、別の学部の学生まで聴講に集まるようになっていた。
「ねえ如月さん。ルヴィエール王国の“魔王”って、どんな人だったの?」
「交際0日婚って……マジですか!? 想像できない……」
澪は笑った。
「うん。でもね、すごく優しい人だったよ。言葉はぶっきらぼうだったけど――
あの人は、世界の命運を背負って戦ってたんだ」
そんな彼女の姿に、天海准教授は一度、こう言ったことがある。
「如月さん。君は“歴史”を学んでるんじゃない。
“人の記憶”を、伝えてるんだよ」
その言葉は、澪の胸に深く刻まれた。
◆
卒業式の日。
澪は式典が終わったあと、大学図書館の奥にある、誰もいない書架の一角へと向かった。
かつて手にした《継承者の書》と、その横にそっと並べた自分の論文。
どこかから、風のように優しい声が聞こえる。
『……よく、継いでくれたな』
その声に、澪は小さく呟いた。
「うん。楽しかったよ、あの世界。
魔王様と交際0日で結婚して……世界を救って。
誰かの人生に、関われたこと。――全部、大切な記録」
そして、静かに閉じられる本。
その背表紙には、こう刻まれていた。
『記録の向こうで、君は生きていた。
これは、澪が紡いだもう一つの世界の物語。』
──《澪の外伝編》完。
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