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第75話 炎の結末、そして “声なき継承” ──最終防衛線、十人の継承者たち



夜が明ける気配もなく、王都ルヴィエールの地下は、重く、静寂に包まれていた。

だがその闇の奥、気配すら絶った者たちが、確かにそこにいた。


第五小隊《影の狩人》。

王国直属特別戦力部隊の中でも、最も密やかに、最も危険な任務を任された者たち。


「……ここが、敵の中枢だな」


先頭に立つのは、《夜鳥》の異名を持つ男――シアン・ナトワール。

全身を黒衣で包み、気配を空気と一体化させるその技量は、もはや人外の域。

彼の声に、周囲の仲間たちは言葉を発さずとも頷いた。


背後から続く影がひとつ。

「この地脈、歪んでる……召喚陣、展開中だな」


幻術と感知に長けた女性兵士、ユイナ・ラルが壁に手を触れ、低く囁く。

彼女の瞳には、通常では見えぬ《魔導式の気流》が渦巻いていた。


「時間がない。あいつらが“来る”前に止めるぞ」


影を縫う秘術の使い手――アベル・ゼクスが短く言い放つ。

その口元には、かすかな緊張と殺気が滲んでいた。


目的は、王都に潜伏する“十柱の影”の一人――

《列国連盟・幻視者イゼルダ》。

幻術と精神操作の使い手であり、王国兵の誰もが“姿を見たことがない”という。


「接触できるのは一人。私が行く」


名乗りを上げたのは、気配消しの達人――テレサ・コルシュ。

彼女の存在感は、五感のどれでも捉えることができない。


「……了解、だが万が一があった場合は、ミルの感応で動け」


動物との感応を持つ斥候――ミル・ファウリスは頷き、影の中で小さくホイッスルを鳴らす。

それだけで地下通路の壁に張り付いた小型の鳥獣が一斉に振り返った。


潜入、開始。


――──


やがて、第五小隊は敵の根城の最深部へと辿り着く。


そこは、奇妙な“静寂”に支配されていた。

視界が歪む。感覚が曖昧になる。

空間そのものが、幻惑の術中にあると察した瞬間。


「ようこそ、王国の“狩人”たち。お前たちは優秀だ。……だからこそ、試したくなった」


その声が響いた。


空間の中央に、銀のマスクを被った長身の人物が浮かび上がる。

《幻視者イゼルダ》。列国連盟・十柱の影の一角にして、精神と幻の魔導士。


「お前たちの“恐れ”を具現化しよう。生きて帰れるとは、思うなよ」


次の瞬間――

空間が破裂し、第五小隊の全員の脳裏に《幻》が流し込まれた。


かつての敗北、失った者の記憶、自らの死の未来――

幻視は、それぞれの内心をえぐり出し、現実のように襲いかかる。


だが。


「違うな」


一人、シアンが幻影を断ち切りながら進み出た。

「俺たちがここまで生き延びたのは、恐れがないからじゃない。“恐れと共に歩いてきた”からだ」


その言葉に続くように、仲間たちも幻影を破る。

•アベルの影がイゼルダの背後に迫る。

•テレサの気配はすでに敵の隣に在った。

•ユイナの幻術が、敵の幻術を“上書き”する。

•ミルの鳥獣たちが周囲を封じ込める。


そして、イゼルダの“目”がついに揺らいだその刹那。


「今だ!」


全員の動きが、ひとつの点に集束する。


──斬撃、投擲、幻術、封印、狙撃。


一糸乱れぬ連携。

“影の狩人”が、本物の獣を仕留める瞬間だった。


イゼルダの体は爆ぜ、マスクが砕け、空間の歪みが消える。


幻視者、討伐完了。


第五小隊は、誰一人として欠けることなく、闇を突き破った。


その背に、王国の未来を背負って。


――続く。



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