第65話 もう一人の花嫁──セラフィナの記憶と、交わる約束
◆序章:崩れる遺跡、逃げ場なき空間
黒の召喚陣が消滅した直後。
遺跡の奥部では魔力の反動による振動が始まっていた。
「澪さん、崩れます! 出ましょう!」
カイの叫びにミアが応じる。
だが、澪はまだセラフィナの前から動こうとしない。
「行くなら勝手に行けば?」
セラフィナの声にはまだ敵意がこもっていた。
けれどその奥に、わずかに“ためらい”の色が宿っている。
澪は手を差し出す。
「あなたは、置いて行かれたんじゃない。
選ばれなかったわけじゃない。
……ただ、今まで誰にも“手を伸ばされなかった”だけなんだよ」
セラフィナの瞳が震える。
「……なに、それ」
振動が激しさを増す。
石の天井が落ちかけた瞬間、澪が彼女の手を取り、叫ぶ。
「行こう、セラフィナ!」
⸻
◆第一章:過去の残響
遺跡の外に逃げ延びたあと。
澪たちは森の小高い丘で、焚き火を囲んでいた。
静かな時間のなか、セラフィナがぽつりと語り始める。
「私のいた世界も……あの時、滅びかけてた。
神官たちは“世界を救う花嫁”が必要だと言って……私が選ばれたの。
でも――最終的に“呼ばれた”のは、あなた」
彼女の言葉は淡々としていたが、
その中には押し殺された孤独と怒りが染み込んでいた。
「召喚されなかった私は、“失敗作”として捨てられた。
でも、私は信じてた。“神に選ばれたんだ”って。
だから……どうしても、あなたを憎まずにいられなかったの」
澪は、火の揺らめきを見つめながら呟く。
「それでも、来てくれてありがとう。
あなたがここに来てくれたから、私は……ちゃんと向き合える」
⸻
◆第二章:共に歩むという選択
ミアとカイが寝静まったあと。
澪はそっと立ち上がり、星空を見上げる。
その隣に、いつの間にかセラフィナが立っていた。
「……あんたさ、今でもこの世界を信じてるの?」
「うん。信じてる。
誰かを愛したから。世界が変わる瞬間を見たから。
だから、今度はあなたにもそれを見せたい」
セラフィナは黙って空を見た。
「……バカみたい。でも、少しだけ……羨ましいと思ったよ」
そして、ぽつりと続ける。
「ねえ。私、ここにいてもいい?」
澪は笑った。
「もちろん。ようこそ、“この世界”へ」
その瞬間。
星の光がふたりの足元を照らす。
かつて澪が“花嫁”として契約を結んだ時と、同じ光。
『この契約は、力ではなく、記憶を継ぐものなり』
ふたりの前に浮かび上がったのは、
新たな契約の文――
“双花の契約”──二人の花嫁、並び立つ時、世界は再び揺れる
⸻
◆終章:再び、選ばれし者たち
翌朝。
王都に戻った澪たちは、セラフィナを伴って報告に向かう。
当然、議会は混乱した。
「この者を連れてきたのか? 正気か!」
だが、アルト=ルヴィエールはただ一言で沈黙させた。
「澪が選んだ者ならば、私はそれを信じる。
この国は、百年前に“信じる力”で救われたはずだ」
そしてその横に、澪と並ぶもう一人の少女。
セラフィナ。
神に見捨てられた少女が、自らの意志で“この世界に生きる”と決めた瞬間だった。
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