第63話 百年越しの契約──再び問われる“あなたは何者か”
◆序章:議場に立つ“伝説”
王都ルヴィエール・王宮第七議場。
その中心に、少女がひとり立っていた。
百年前に召喚され、世界を救い、そして消えた――
“始まりの花嫁”、澪。
けれど今、その名を直接聞いたことのある者は誰ひとりいない。
議席に座る王族も、軍属も、神官も、彼女を“伝承”としてしか知らない。
「……あなたは、本当に“澪”なのか?」
最初に問いを投げたのは、王国軍最高司令官であり、若き王族でもあるアルト=ルヴィエールだった。
澪は静かに頷く。
「名前は澪。私は、グラディウスと契約した“花嫁”だった。
アリアとユリウスの母親でもあり、そしてこの世界の、始まりの記録の中にいた者です」
議場にざわめきが走る。
「ではお訊きします」
次に立ったのは、神殿代表のアマリス教皇補佐官。
「あなたはかつて、神の意志を覆した者。
再び召喚された今、何の使命を以て戻ってこられたのですか?」
澪はその問いに、少しだけ笑った。
「使命……それはまだ、私にも分かりません。
でも――誰かが呼んだから、私は来た。
ならば、私は“もう一度、誰かを助けたい”と思っています」
⸻
◆第一章:揺れる議場と、ひとつの提案
議会内では賛否が大きく割れていた。
「彼女が再び神の秩序を乱す可能性があるなら、拘束すべきだ」
「いや、むしろ今こそ彼女の知識を借りるべきだ」
混乱する中、アルト=ルヴィエールが手を上げる。
「では……提案する。
澪殿には、再度《契約者》としての立場を与え、
王国直属の《記録守護官》として働いていただくことを」
澪は瞬きした。
「……記録守護官?」
「あなたが築いたものを、今度は“守る側”に立ってほしいのです。
百年の間に、いくつもの歪みが生まれました。
澪様でなければ対処できぬ事象が、すでに……動き始めています」
王都で相次ぐ小規模な地震。
空に裂け目のようなものが見えたという報告。
そして、南の遺跡で“召喚陣に似た痕跡”が発見されているという噂。
「あなたを拘束することもできました。
でも、そうしなかったのは……あなたが“人として、ここに立っている”からです」
澪は、深く頷いた。
「分かりました。……私にできることがあるのなら。
もう一度、この世界と向き合います」
⸻
◆第二章:囁く者たちと、もう一つの陰謀
その夜。
議会の地下、誰もいない部屋で、ローブを纏った者たちが集っていた。
「……ついに“彼女”が戻ってきたか」
「記録を破壊した存在。だが、それは同時に《完全なる鍵》でもある」
彼らは《列国連盟の亡霊派》と呼ばれる、
かつて世界を操っていた旧世界の残党。
「計画を早めろ。……“黒き記録”を開示せよ」
「はい、“第七断章”を……」
闇の中で、その名が囁かれる。
『澪を再び中心に据えよ。そして今度こそ、我らの神話を完成させるのだ』
⸻
◆終章:“契約”の向こうに
その夜、澪は迎賓館の一室で、星を見上げていた。
ふと、誰かの声が聞こえた気がした。
『ミオ……また、立ち止まってるのか?』
「……グラディウス?」
返事はなかった。
でも、確かに“あの人の影”が心のどこかにある。
(今度こそ……もう一度、あなたと同じ場所に立ちたい)
そして、澪は覚悟を決める。
王国直属・記録守護官として。
再び、世界の歪みに立ち向かう者として。
物語はまだ、終わっていない。
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