【外伝・高校三年生編】 第4話『過去と未来が重なる場所』
春野澪は、手帳に書いた“記録の断片”をたどり、ついにある資料館にたどり着いた。
地方都市の山あいにひっそりと建つ、小さな民間歴史館──
そこには、世界史や空想文化に関する文献が独自に収集され、一般には公開されていない“寄稿記録”が保管されている。
澪の目にとまったのは、一冊の古びた白革装丁の本。
──『白き記録帳 第一篇:記憶の始まりと継承』──
展示品でありながら、管理人が「君なら読む権利があると思う」と静かに貸し出してくれた。
澪は緊張した手でページをめくる。
文字は王国語に似た流麗な筆記体で綴られ、隣に訳注が添えられていた。
> 「記録の始まりは、一人の“来訪者”によってもたらされた。
> 名は“澪”。彼女は帰還者であり、導き手であり、記憶の礎であった」
胸が締めつけられる。
私の名前が、そこにあった。
あの世界で、自分の存在が記録になっていた。
誰かの手によって、それが未来に受け継がれていた。
> 「彼女の言葉は多くは残されていない。だが、その背中を見て育った者たちは、語り継いできた。
> “守りたいと思える人がいたこと、それが私のすべてだった”と」
澪の目から、自然と涙が落ちた。
私は、覚えてる。
アリアを、リアムを、フィリアを。
たった数ヶ月のことだったかもしれない。
けれど私は、本気であの世界を、生きていた。
ページを進めると、“五十人の王国兵”たちの名前が並んでいた。
その下に──最後の小節。
> 「来訪者が還った後、五十人の王国兵は決して王国を離れず、“未来の礎”となった。
> その魂の一片は今も剣に、盾に、魔法に宿り、この王国を守り続けている」
澪は思い出した。
盾を掲げていた兵士。
炎を操る魔導士。
静かに笑った癒し手。
雷の剣を振るっていた兄のような人。
「……生きてるんだね、みんな。今も、ちゃんと」
過去は、記録として残された。
未来は、記録を読む者によって繋がる。
そして澪は、確かにその記録の“どこか”に、名を刻んでいた。
“もう、迷わない”。
現実の世界にいても、私はあの世界とつながっている。
それは“帰れない”ということではなく──
“生きていく”ということなのだと。
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