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【外伝・高校三年生編】 第1話『記録の向こうで、君は生きていた』


 高校三年生になった春野澪はるの・みおは、桜舞う校門をくぐるたびに、ふと空を見上げる癖がついていた。


 穏やかな風、白くほどける雲のかたち。

 そのどこかに、あの“世界の匂い”が混じっていないか、つい探してしまう。


 ──“あの世界”。


 交差点で光に包まれ、病院で目覚めたあの日から、すでに二年が経っていた。


 けれど澪の心の奥では、あの時の記憶の残響が、今もまだ消えずに生きていた。



 「澪、進路どうするの?」


 放課後、友人に訊かれて、澪は少しだけ口ごもった。


 「うーん……まだ、決めてなくて。図書館学もいいなって思ってるんだけど……」


 本当は、“もっと知りたい”という気持ちの方が強かった。


 “あの世界”はどこへ行ったのか。

 リアムとフィリア、アリアや兵士たちは、その後どうなったのか。

 双子の子供たち──その子どもたちのさらに先……今も“あの世界”が続いているなら、彼らは生きているのだろうか?


 高校三年になった今でも、その想いは胸にずっとくすぶっていた。



 ある日、澪は地元の県立図書館を訪れた。


 大きな建物の地下にある、専門書・文献資料室。

 そこは普段、受験生や大学生でもあまり足を踏み入れない静かな空間だった。


 『異世界文化伝承研究』『口承伝説における空白の世紀』『非科学的来訪者記録集』──


 それらしい書籍を丹念に探す。


 そして、ある薄い冊子に目が止まった。


 


 『架空王国ルヴィエールの系譜――伝承から見る“歴史と物語の交差”』


 


 ぱらぱらとページをめくると、そこには見覚えのある名が並んでいた。


 ──リアム王、フィリア王妃。

 ──“白き継承者”アリア。

 ──王国兵たちの五十人の名。

 そしてその末尾に、王子と王女の名の記述。


 


 だが、澪が本当に驚いたのは、その最後の段落だった。


 


 > 「アリアの時代より百年後、記録の中には“王の血を引く者たち”の活躍がいくつか見受けられる。

 > その中でも、“セレナとユウ”と呼ばれる一組の冒険者が記録されており、

 > 彼らは再び“記録の向こう側”へと旅立ったという──」


 


 セレナ、ユウ。

 知らない名前だった。でも、どこか懐かしい響きだった。


 “記録の向こう側”。


 その言葉に、澪の胸がふるえた。


 私がいない間に、彼らの世界は、ちゃんと続いていたんだ。


 私が帰ったあとの時間も、物語も、確かに“生きていた”。



 家に帰った澪は、その夜ずっとノートに記し続けた。


 思い出せる限りの言葉、名前、風景、感覚。


 そしてページの最初に、こう書いた。


 


 『記録の向こうで、君たちは生きていた』


 


 そして、私は今、この世界で──君たちを探している。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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