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第53話 記録の彼方に立つ少女──名を澪と呼ぶ者


◆プロローグ:記録の扉が開くとき


セレスの森、最奥の神殿にて。

石の門が開き、セレナとユウはそこへ足を踏み入れた。


そこは――“現実でも異世界でもない”、

《記録》そのものが刻まれた不可視の空間だった。


空には光が満ち、あらゆる時の記憶が、

まるでフィルムのように流れている。


 


「ここは……?」


ユウの問いに、セレナが囁く。


「もしかして、記録の断層……澪の“人生”そのものなのかも」


そのとき――光が集まり、ひとつの“人影”が形を成した。


 



◆第一章:彼女は、記録の中にいた


風が吹く。校舎の影のような構図。


そこに立っていたのは――

セーラー服を着たひとりの少女だった。


黒髪が揺れ、瞳は迷いと優しさを湛えている。

白いシャツの胸元に、小さな名札が見えた。


 


《春野 澪》


 


「――え?」


セレナもユウも、言葉を失う。


なぜならその少女は、“歴史の中で命を終えたはずの人物”だったからだ。


 


澪は、制服姿のままゆっくりと振り向いた。


「……あなたたち、王国から来たのね」


「……澪さん……ですか……?」


 


彼女は微笑む。


「うん。記録の中に、残された私。

でも――これは“あの世界”の私じゃないの。

私は、“現実世界に還ったあとの澪”。」


 


ユウが思わず口を開く。


「つまり……あなたは、“死んで終わった”んじゃなくて――?」


「私は、もう一度目を覚ましたの。

制服姿で、教室で。すべて夢だったのかと思った。

でも……そうじゃなかった」


 


澪は空を見上げる。

そこには《魔王グラディウス》の影が、遠い記憶として浮かんでいた。


 


「私にはわかってた。“夢なんかじゃない”って。

だって……私は、あの人と結婚したもの。

魔王、グラディウスと。

世界の運命を背負って、生きたもの」


 



◆第二章:記憶の交差と、真実の起点


記録の中に現れた澪は、語り始める。


──グラディウスとの交際0日婚。

──命懸けの戦い、アリアの誕生、そして別れ。

──死の果てに戻った“現実世界”での目覚め。


 


彼女は、再び日常を生き直した。

だが、心はいつも異世界にあった。


「私はね……誰にも話せなかったの。

“異世界で、魔王と夫婦だった”なんて……信じてもらえるわけないって。

だから私は、全部ノートに記した。

“本当にあった”世界を」


 


その記録こそが、今セレナたちが辿っている“伝承の元”となったものだった。


 


そして澪は告げる。


「この空間に残されているのは、私の“心”。

でも、それだけじゃない。

……グラディウスの“記憶”も、ここにあるの」


 


次の瞬間、空に“黒い風”が流れ始める。

剣と黒翼の幻影、魔王としての威厳と、

ひとりの男として澪を守り抜いた男――グラディウスの記憶が顕現する。


 


「彼は、私の最後の言葉を聞いて、

“私が戻った世界”にまで、追ってきたのよ。

この記録に、彼の意志が残っているのは――

そういうこと」


 



◆終章:継がれる意志と、交わる歴史


澪は微笑んで、セレナとユウに歩み寄る。


「お願い。

この記録の続きを、あなたたちの手で辿って。

私と彼の物語は、ここで終わってもいい。

でも――この国と世界は、まだ続いていくから」


 


ユウが拳を握る。


「……俺たちがやる。あなたが遺した真実を、必ず見届ける」


セレナも頷いた。


「そして私たちの言葉で、次の100年に繋ぐ。必ず」


 


最後に、澪は制服のまま、微笑みながら空へと溶けていく。


彼女の後ろに浮かぶ黒翼と、優しい瞳の魔王の姿――

グラディウスの“記憶”もまた、風の中へと還っていった。


 


 


──記録の奥には、まだ“鍵”がある。

禁域のさらに先、《封印された第四世界》の存在が示唆されていた。


 


物語は、ここからが本番。

新たなる歴史の開示が、彼らを待ち受けている――。


 



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