第5話 ──魔王城急襲!黒き使徒と、澪の覚醒
深夜の魔王城に、緊急警報が鳴り響いた。
空間を裂くような重低音。魔力の波動が螺旋のようにうねり、空気が重たく変質していく。
「グラディウス様! 南の塔に正体不明の敵が侵入! 防衛魔導兵の結界が破られました!」
騎士団長の報告を受けながら、魔王グラディウスはすでに戦装束に身を包み、剣を抜いていた。
その背後には、澪の姿もあった。
「……この揺れ、ただの魔物じゃないよね」
「“黒き使徒”の可能性が高い」
「黒き……?」
「この世界の崩壊を促す存在。予言に記された、災厄の尖兵だ。
普通の魔物とは、まったく異なる」
澪の喉が、ごくりと鳴った。
だが、足は止まらなかった。
怖い。それでも、目をそらさない。
「私にできること、あるかな」
「無理をするな。お前の力は未知数だ。だが――」
グラディウスは一度だけ振り返り、低く囁いた。
「……必要になった時は、迷わず解き放て。
お前の中の“光”は、俺たちの最後の切り札だ」
澪は、小さくうなずいた。
◇ ◇ ◇
南塔へ到着したとき、すでに複数の騎士たちが倒れていた。
その中心に立っていたのは――人間のようで、人間ではない存在。
全身を漆黒のローブに包み、顔の下半分を仮面で覆った、異形の男。
だが、その目だけははっきりと見えた。
暗闇の中で、血のような赤が、不気味に輝いていた。
「……来たか、魔王。そして、その“花嫁”も」
「貴様、何者だ。名を名乗れ」
剣を構えるグラディウスに、男はくぐもった声で返す。
「我らは、神の加護を拒む“黒の教団”の使徒。
この世界が滅ぶべきだと信じる者たちだ」
「……!」
「“白き花嫁”の力が目覚めたと聞き、確かめに来た。
本当に、お前が予言の巫女かどうかをな――!」
男は手をかざした。すると、漆黒の魔力が渦を巻き、禍々しい刃となって飛来する。
「澪、下がれ――!」
グラディウスが咄嗟に魔法障壁を展開し、澪の前に立った。
だが、黒い刃は異常な速度で魔力を貫通し、壁を突き破る。
「――っ!」
瞬間、澪の胸に熱が走った。
意識の奥底で、何かが“目覚めろ”と叫ぶ。
そして――
黄金の光が、澪の身体から溢れ出した。
「なっ……!」
黒の使徒が目を見開く。光は暴風のように広がり、周囲の闇を押し返していく。
まるで、夜明けの太陽。
澪の瞳は金色に輝き、髪が宙に舞い上がる。
「この感覚……! 私の中に、誰かが……いる……?」
澪の中で何かが融合する。
記憶。力。祈り。希望。
その全てが、澪という器の中で脈打ち、言葉となって紡がれた。
「浄化せよ――神の名のもとに」
その瞬間、光が一点に収束し、黒き使徒の身体を突き刺す。
「ぐっ……あああああっ!」
悲鳴とともに、黒き使徒は闇の波動と共に消滅した。
直後、光が収まり、澪は力尽きてその場に倒れた。
「澪!」
駆け寄ったグラディウスが、すぐに彼女を抱き留めた。
意識は朦朧としている。だが、彼の腕の中で、澪は小さく微笑んだ。
「……ちゃんと、使えた……」
「馬鹿者、無茶を……」
震える声だった。
グラディウスの表情は、怒りでも恐れでもなかった。
そこには――初めて見せる、哀しみに近い優しさがあった。
「お前を守るはずの俺が……何をしている……」
その手は、彼女の指をそっと握った。
澪の中で眠っていた“奇跡の力”が目覚めた夜。
それは同時に、魔王の“心”もまた動き始めた瞬間だった。
──第6話へ続く。
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