第2話:『矢は空を裂く──第2小隊、砲火と光の中で』
戦場において、矢は「沈黙の死」だ。
姿を晒すことなく、気配すら見せず、ただ空を裂いて命を奪う。
その美しさと冷酷さを知る者たちがいた。
――王国軍・第2小隊。通称《鷹の眼》。
彼らは“後衛支援”を担う遠距離部隊でありながら、最前線の命運を握る影の牙であった。
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広がる草原地帯。
空気は乾き、風が騒ぎ、そして、地平の先には――敵軍の“試験砲台”があった。
「視認確認。敵、新式の“魔導迫撃砲”を3門展開中。支援魔導兵4、重装前衛12……」
報告するのは、偵察士のテオ。若くも冷静な視線が、観測鏡の先を正確に捉えていた。
「予想より多いわね」
リィナ・エルフェリアは、眉を寄せた。
銀髪に紫の瞳、鋭さと気品を併せ持つ第2小隊の小隊長であり、かつて王都の「天弓姫」と称された名射手である。
今回の任務は、敵の新兵器“魔導迫撃砲”の破壊とデータ収集。本来なら斥候隊が担う内容だが、それが叶わぬほど敵は厄介だった。
だからこそ、《鷹の眼》が出る。
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「ラーシャ。準備は?」
「……任せて。外すわけない」
短く答えたのは、青みがかった長髪に黒衣の少女――狙撃魔導士ラーシャ・グリム。
小隊で最年少ながら、魔導と弓術を融合させた新世代の“術式狙撃”の使い手であり、リィナにとっては“最も危うく、最も光る原石”だ。
だが、彼女はこれまで本番で一度も“術式矢”を撃ったことがなかった。
理由はただ一つ――
「撃てば……命を奪う。私の手で」
彼女が“戦場に来た”理由は、力を誇るためではない。守るため、終わらせるため。それでも、矢が向かう先には、命がある。
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風が、草をなでた。
その瞬間――リィナが叫んだ。
「第2小隊、射撃展開! 術式支援はラーシャを中心に!」
「全員、目標照準!」
兵たちが一斉に弓を構え、魔力が矢に宿る。高密度の術式が連動し、全ての矢が“1つの術式構成”となる。
「ラーシャ。あなたが撃つ矢が、全ての起点になる」
リィナは静かに言った。
「今こそ、あなたの矢で“未来を変えて”」
――少女は、迷っていた。
だが、その背後から仲間の声が届く。
「信じてるよ、ラーシャ」
「俺たちの矢は、君の矢を信じてる」
ラーシャは、弓を引いた。
恐れはあった。だが、その先にいるのは“敵”ではない。
――“未来を壊す手”だ。
「……いって」
その刹那、空が“裂けた”。
蒼い矢が風を切り、術式を展開し、空間を歪ませて飛ぶ。
それはまさに、雷のような光。
他の隊員の矢が続く。
次の瞬間――
「敵砲台、爆散確認! 周囲の結界術式、解除!」
観測士の声とともに、爆風が地を揺らす。
敵は混乱し、戦線は瓦解。指揮系統は崩壊し、前線の味方が一気に制圧へと移行した。
⸻
任務終了後、丘の上にて。
ラーシャは静かに、弓を置いた。
「……これが、私の矢」
リィナがそっと隣に立つ。
「違うわよ」
「え?」
リィナは、笑った。
「これは、“あなたがみんなと撃った矢”。一人で背負わなくていいの。これからもずっとね」
ラーシャは、何も言えず、ただ頷いた。
その背には、矢筒が静かに揺れていた。
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