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第1話:『重鋼の誓い──第1小隊、最前線へ』


◆【五十人の王国兵編──未来を守る者たちの記録】

 深緑の密林が、雨に濡れて不気味なほど静まり返っていた。


 その静寂を割るのは、獣の咆哮でも風のざわめきでもない。足音だ。重く、確かな意思を宿した十の足取りが、ぬかるむ土を踏みしめて進んでいく。


「目標地点まであと二キロ。全員、気を緩めるな」


 斧を肩に担ぎながら、先頭を歩く男が言った。短く刈られた赤髪に鋼の眼光、肩から腰にかけて走る傷跡が、その戦歴を物語る。


 ――レン・カーディアス。第1小隊、小隊長。


「了解、小隊長!」


 続く者たちもまた、並みの兵ではなかった。剣を携えた双子の兄妹、弓と短剣を巧みに操る二刀の若者、重装の槍兵。全員が、かつて王都ルヴィエールを護り、幾度も戦場を潜り抜けてきた歴戦の兵士たちだ。


 だが――。


 今回の任務は、その中でも群を抜いて異質だった。


 「“深層密林〈アンヴィリス〉”……一度入ったら、地図が役に立たないって話、マジだったな」


 隣を歩く青年、双剣使いのヒューガが呟く。


 密林の奥、敵性勢力が不穏な動きを見せている。情報の少なさ、地形の複雑さ、そして未知の“存在”の影。


 それでも、彼らが先陣を任されたのは――


 《第1小隊》が、“突撃と突破”の象徴であるからだ。



 やがて、木々の奥から異様な匂いが漂ってきた。血と鉄、そして焦げた魔力の残滓。


「前方に“死域”だ」


 レンが静かに呟いた。


 その場にいた全員が、緊張で口をつぐむ。


 “死域”――かつて戦闘が行われ、多数の命が絶たれた地。それは怨念と魔力の澱みを孕み、時に死者すら動かすという。


「マユリ。前方斥候」


「了解」


 応じたのは、俊敏な身のこなしを持つ短剣使いの少女。彼女は音もなく木々の間へと消えていった。


 数分後、戻ってきた彼女は小声で告げる。


「三百メートル先に、敵拠点……いえ、なにか召喚陣のようなものが。しかも……“動いてる”」


 全員の顔が引き締まった。


 敵は既に“儀式”に入っている――つまり、止めねばならない。


 いや、“止めなければ、終わる”。



「突入する。目標は召喚陣の破壊と、敵の掃討」


 レンの指示に、一同は無言で頷いた。


 言葉など要らない。この場にいる者たち全員が、“守るために”剣を取った。


 仲間、民、そして――王国の未来を。



 突撃は、まさに電撃だった。


 マユリとヒューガが左右から敵陣を斬り裂き、アーネスとブロッドが重装の盾で敵の防御を打ち砕く。エイダの弓が、儀式の詠唱者を正確に射抜く。


 そして――


 「この国に、貴様らの“邪なる願い”は通させん!」


 レン・カーディアスが、雷鳴のような咆哮とともに斧を振り抜いた。


 召喚陣を守っていた魔導兵が、驚愕とともに吹き飛ぶ。


 しかし――


 その時、遅れて発動しかけていた陣が、虚空に裂け目を生んだ。


 異形の腕が、そこから現れようとしている。


「間に合わなかったか!?」


 だが――レンは、動じなかった。


 彼は仲間たちに叫んだ。


「全員、陣形“オロス”! 俺が囮になる。三秒でいい、射線を作れ!」


 即座に理解した仲間たちが、完璧な連携で動く。


 三秒後。


「エイダ、今だ!」


「……撃ち抜く!」


 高密度の魔力を圧縮した矢が、正確無比に“裂け目の中心”を貫いた。


 瞬間、爆風とともに闇が崩壊する。


 地面が揺れ、魔力の残響が空へ消えていった。



 静寂。


 そして――


「……終わった、な」


 ヒューガの言葉に、誰もが頷いた。


 敵陣は壊滅。召喚は阻止。


 任務、完了。



 帰路、レンはふと足を止め、部下たちを振り返った。


「……よくやった。だが、これは始まりだ」


 その目は、先を見据えていた。


「“未来を守る”とは、今日を乗り越え続けることだ。俺たち《第1小隊》は、その先陣を切り続ける」


 仲間たちは、静かに拳を掲げた。


 それは――戦士としての、そして“未来の礎”たる者たちの、無言の誓いだった。



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