第35話 ──神託と封印──王国に迫る“内通者”の影
王都ルヴィエール、黎明の時。
神殿の最奥、封印の間にて――フィリアは再び“夢の残響”を聞いていた。
『敵は、すでに王国の中にある。
見慣れた顔の裏に、仮面を被る者がいる』
目覚めた少女の手には、うっすらと金色の紋章が浮かんでいた。
◇ ◇ ◇
一方、アリアの執務室では
軍師エレナと情報統括のユーフェミアが密かに報告を上げていた。
「……王都防衛の術式が、何者かによって“内側から”改竄された形跡がありました」
「犯人の目星は?」
アリアの問いに、ユーフェミアはファイルを一冊手に取った。
「……ひとり、気になる人物がいます」
◇ ◇ ◇
その名は――ゼイラス・レイノルド。
王国防衛隊・第四小隊副隊長。
王国兵五十人の中でも信頼厚く、かつてグラディウス直属の警護任務に就いたこともある男。
落ち着いた振る舞いと部下思いの人柄から“沈着冷静な参謀”として親しまれていた。
……だが。
その裏には、
“列国連盟”との密かな接触記録と、“禁忌魔術の一端を操る痕跡”があった。
◇ ◇ ◇
「……ゼイラスをどうするかは、私たちだけで決める必要がある」
ユリウスが言った。
「敵と断定して早計に動けば、兵士たちの士気に関わる。
だが、泳がせれば王都全体に被害が及ぶかもしれない」
アリアは机上に視線を落とし、静かに言った。
「……本当に敵なら、私は――剣を抜くしかない」
◇ ◇ ◇
その夜。王都の裏手、巡回兵が交代する一瞬の隙を突き、
黒装束の影が神殿区画に侵入していた。
そして、光の封印の間へと足を踏み入れる。
「……やはりここか。フィリア王女の力、“神の加護の源”」
そう呟いたのは、ゼイラスその人だった。
彼は仮面を外し、手のひらに紋章を浮かべた。
それは、列国連盟議長と同じ**“灰の紋章”**。
「だがな……“神に縋る時代”はもう終わる。
我ら人が、自らの手で世界を定める。神託などいらん」
彼が手をかざした瞬間――
「そこまでだ」
封印の間にアリアとユリウスが現れた。
◇ ◇ ◇
「ゼイラス……あなたが裏切るなんて、思いたくなかった」
「裏切り? 違うな、アリア王妃。
これは“進化”だ。私たちは、未だ神という幻想に縛られている」
「幻想を否定することで、誰かの未来を奪ってもいいの!?」
剣を構えたアリアに、ゼイラスは刃を抜いた。
「覚悟はある。“神に選ばれし継承者”など、この手で断ち切ってやる」
◇ ◇ ◇
──そして始まる、静寂の中の一騎打ち。
だが戦闘の途中、突如天井から光が降り注ぎ、フィリアの声が響く。
「ゼイラスさん……やめて……っ」
その声に、ゼイラスの剣が止まった。
「……なぜ……私に、そんな目を向ける?」
「だって……ゼイラスさん、いつも優しかった……みんなを守ってくれた……」
「私は……っ」
その言葉に、ゼイラスの瞳から光が消え、呆然と膝をついた。
◇ ◇ ◇
彼は拘束されたが、神殿地下牢でただ一言、こう呟いた。
「“あの男”が動き出す。
本当の地獄は、まだ来ていない――」
──第36話へ続く。
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