第32話 ──揺らぐ和平──消えた使節と“影の列国”
王都ルヴィエールの夜は深く、静かだった。
だがその静寂の裏で、“予兆”はすでに動き始めていた。
◇ ◇ ◇
「……東の使節団が、国境を越えた地点で“消息を絶った”?」
アリアの執務室に緊張が走る。
報告に来たのは、情報統括官のユーフェミア。
かつての十人の仲間のひとりであり、影の参謀だ。
「はい。護衛の兵も痕跡なし。魔獣の襲撃とも思えません。人為的な“消去”の痕跡があります」
アリアは手を止め、静かに眉を寄せた。
「……この和平交渉の最中に、“消えた”と?」
「まるで、“交渉そのものを壊す意図”があるように」
◇ ◇ ◇
広場では、五十人の王国兵が招集されていた。
その中には、すでに見慣れた顔が並ぶ。
剣士レオン、弓使いエレナ、魔導師カイル、回復士マリア、情報兵ユーフェミア……
アリアと共に戦場を歩いた十人の仲間たちが、再び集結していた。
「“和平”の影には、必ず“それを望まぬ者”がいる」
ユリウスの言葉に、カイルが鼻を鳴らす。
「ふっ、まるで昔話だな。だが、そういう奴らの動きほど手強い」
「警護に就くのはこの十人を軸に、王都兵の第一小隊から第五小隊まで――計五十名」
アリアは隊長のひとり、若き剣士ナディルに目を向けた。
「今回は“生きて戻ること”が任務最優先。絶対に無理はしないこと」
「了解しました、王妃殿下!」
◇ ◇ ◇
その夜、リアムとフィリアは王城の中庭にて風を感じていた。
「ママ、またどこか行くの?」
「うん。少しだけ、ね。でも――帰ってくるよ。絶対に」
「……なら、フィリア、待ってる。お花に、光の魔法をかけてね」
フィリアは小さな手で魔法陣を描き、母に向けて微笑んだ。
「リアムも、ママがいないあいだ、“騎士の訓練”ちゃんとするから!」
ふたりの子どもに背を向けるとき、アリアはそっと胸に手を置いた。
(彼らの未来に、“争い”を遺さないために)
◇ ◇ ◇
アリア率いる王国部隊は、国境線へと向かう。
消えた使節団の捜索と、外交の破綻を防ぐための緊急任務。
途中、かつて敵だったステラ連邦の精鋭部隊と出会う。
「……あんたが“アリア王妃”か。聞いてたより、ずっと綺麗だな」
言ったのは、連邦側の将軍代理・クレイヴ。
かつてグラディウスと刃を交えた宿敵であり、今は“不完全な友”である。
「……皮肉をありがとう。できれば、今日は剣を抜きたくないのだけれど」
「こっちだって同じさ。……ただし、“奴ら”が出てこなければな」
◇ ◇ ◇
そして夜。
王国と連邦の混成部隊が捜索を進める中、
森の奥深くに“灰のような霧”が立ち込める場所を発見する。
「これは……魔族の転位痕……?」
エレナが唇を噛む。
「この場所、何かが隠されてる」
魔力の反応、歪な転移痕、失われた気配。
そこに確かに、“何者かの意図”があった。
その奥、かすかに光る紋章を発見したとき――
グラディウスと澪の姿が、王都の観測塔に現れた。
「始まるか……“あの国”が動いたな」
「……ええ。“影の列国”が、ついに」
──第33話へ続く。
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