第3話 ──魔王城の試練と、澪の“奇跡の力”
翌朝。
陽が昇っているのかも分からない、不思議な空模様の中で目を覚ました澪は、見知らぬ世界の朝に、ようやく少しだけ現実味を感じていた。
ここは、魔王の城。自分は“魔王の花嫁”という立場になってしまった。
信じられないけれど、夢じゃない。
「お目覚めですね、奥様」
昨日と同じメイドが、扉の前に丁寧に立っていた。
「……おはようございます」
「本日より、奥様には“適性検査”を受けていただきます。神の加護を宿しているか、それを証明する儀式です」
「適性検査……」
やっぱり、本当に神の加護があるかどうかを見極めるつもりなのだ。
「拒否権は?」
「ありません」
あっさりと言われ、澪は小さくため息をついた。
「ですよね……。やります、分かりました」
いまの自分には、逃げ道なんてない。
けれど――
“証明できたら、私はここにいてもいいんだ”
そう思えたことが、少しだけ前向きにさせていた。
◇ ◇ ◇
連れてこられたのは、魔王城の最深部――神殿のような荘厳な空間だった。
中央には巨大な水晶と、神殿のような柱。そして、見覚えのあるあの男。
魔王グラディウスが、冷ややかな視線で立っていた。
「来たか」
「……うん、来たよ」
昨日よりもほんの少しだけ、澪は彼と目を合わせられた。
怖くないわけじゃない。でも、逃げたくない気持ちの方が強かった。
グラディウスは、水晶の前に立つように手を差し出した。
「水晶に触れよ。お前の中に神の加護があれば、それが目覚める。
もし何も起きなければ――この契約は、ただの偽りとなる」
「……もし、偽りだったら?」
彼の瞳が、ほんの一瞬だけ陰る。
「……そのときは、別の方法を探す。それだけだ」
それが“離縁”を意味すると、澪にも察せられた。
契約だけの結婚。そこに価値がなければ――不要になる。
(……分かってる。だから、見せてみせる)
澪はそっと、水晶に手を伸ばした。
ひんやりとした感触。無機質な石の感触。
でも――次の瞬間。
光が、走った。
「――っ!」
水晶が眩い金色に染まり、天井の魔法陣が一斉に反応する。
澪の身体を包み込むように、神聖な光が彼女の輪郭を縁取った。
「これは……!」
周囲の魔法使いたちが、ざわめき始めた。
「まさか……伝承の“白き契約”……!」
グラディウスも、息を飲んだ。
「まさか、本当に……」
澪の瞳もまた、微かに淡い金に染まり、髪が風に揺れるようにふわりと浮かぶ。
何もしていない。けれど――なぜか“力”を感じる。
これは、確かに澪の中に“神の加護”が宿っている証だった。
「……すごい……私、何かが……」
「その通りだ。お前は、正真正銘の“神に選ばれし花嫁”だ」
グラディウスがそう告げた瞬間、水晶の光が一気におさまり、静寂が広がった。
澪の体は、自然と崩れるように床に膝をついた。
「……っ、力が……抜ける……」
全身から何かを吸い取られたような、強烈な疲労感。
「澪!」
咄嗟に駆け寄ったのは――誰よりも冷たかったはずの、グラディウスだった。
「立てるか?」
「う、うん……ちょっと、くらくらするけど……」
「バカ者。そんな身体で無理をするな」
その声は、どこか焦り混じりで、そして――優しかった。
昨日までの彼とは、明らかに違っていた。
「……魔王様が、そんな顔するなんて、ね」
「……余計なことは言うな」
そう言って顔を逸らしたが、グラディウスの手は確かに澪を抱きとめていた。
「これが……神の加護」
誰よりも信じていなかった自分に、力があるなんて。
でも、それを見て――グラディウスが、少しだけ近づいてきた気がする。
澪は、はじめてこの世界で“居場所”を得たのだと、感じた。
──第4話へ続く。
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