表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/49

第3話 ──魔王城の試練と、澪の“奇跡の力”


 翌朝。


 陽が昇っているのかも分からない、不思議な空模様の中で目を覚ました澪は、見知らぬ世界の朝に、ようやく少しだけ現実味を感じていた。


 ここは、魔王の城。自分は“魔王の花嫁”という立場になってしまった。

 信じられないけれど、夢じゃない。


「お目覚めですね、奥様」


 昨日と同じメイドが、扉の前に丁寧に立っていた。


「……おはようございます」


「本日より、奥様には“適性検査”を受けていただきます。神の加護を宿しているか、それを証明する儀式です」


「適性検査……」


 やっぱり、本当に神の加護があるかどうかを見極めるつもりなのだ。


「拒否権は?」


「ありません」


 あっさりと言われ、澪は小さくため息をついた。


「ですよね……。やります、分かりました」


 いまの自分には、逃げ道なんてない。


 けれど――

 “証明できたら、私はここにいてもいいんだ”

 そう思えたことが、少しだけ前向きにさせていた。


 


 ◇ ◇ ◇


 


 連れてこられたのは、魔王城の最深部――神殿のような荘厳な空間だった。


 中央には巨大な水晶と、神殿のような柱。そして、見覚えのあるあの男。


 魔王グラディウスが、冷ややかな視線で立っていた。


「来たか」


「……うん、来たよ」


 昨日よりもほんの少しだけ、澪は彼と目を合わせられた。


 怖くないわけじゃない。でも、逃げたくない気持ちの方が強かった。


 グラディウスは、水晶の前に立つように手を差し出した。


「水晶に触れよ。お前の中に神の加護があれば、それが目覚める。

もし何も起きなければ――この契約は、ただの偽りとなる」


「……もし、偽りだったら?」


 彼の瞳が、ほんの一瞬だけ陰る。


「……そのときは、別の方法を探す。それだけだ」


 それが“離縁”を意味すると、澪にも察せられた。


 契約だけの結婚。そこに価値がなければ――不要になる。


(……分かってる。だから、見せてみせる)


 澪はそっと、水晶に手を伸ばした。


 ひんやりとした感触。無機質な石の感触。


 でも――次の瞬間。


 光が、走った。


「――っ!」


 水晶が眩い金色に染まり、天井の魔法陣が一斉に反応する。


 澪の身体を包み込むように、神聖な光が彼女の輪郭を縁取った。


「これは……!」


 周囲の魔法使いたちが、ざわめき始めた。


「まさか……伝承の“白き契約”……!」


 グラディウスも、息を飲んだ。


「まさか、本当に……」


 澪の瞳もまた、微かに淡い金に染まり、髪が風に揺れるようにふわりと浮かぶ。


 何もしていない。けれど――なぜか“力”を感じる。


 これは、確かに澪の中に“神の加護”が宿っている証だった。


「……すごい……私、何かが……」


「その通りだ。お前は、正真正銘の“神に選ばれし花嫁”だ」


 グラディウスがそう告げた瞬間、水晶の光が一気におさまり、静寂が広がった。


 澪の体は、自然と崩れるように床に膝をついた。


「……っ、力が……抜ける……」


 全身から何かを吸い取られたような、強烈な疲労感。


「澪!」


 咄嗟に駆け寄ったのは――誰よりも冷たかったはずの、グラディウスだった。


「立てるか?」


「う、うん……ちょっと、くらくらするけど……」


「バカ者。そんな身体で無理をするな」


 その声は、どこか焦り混じりで、そして――優しかった。


 昨日までの彼とは、明らかに違っていた。


「……魔王様が、そんな顔するなんて、ね」


「……余計なことは言うな」


 そう言って顔を逸らしたが、グラディウスの手は確かに澪を抱きとめていた。


「これが……神の加護」


 誰よりも信じていなかった自分に、力があるなんて。


 でも、それを見て――グラディウスが、少しだけ近づいてきた気がする。


 澪は、はじめてこの世界で“居場所”を得たのだと、感じた。


 


──第4話へ続く。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ