第29話 ──小さな足音、大きな世界へ──双子、初めての冒険
王都ルヴィエール。穏やかな春の朝。
魔王城の中庭に、ぽてぽてと小さな足音が響いていた。
◇ ◇ ◇
「リアム様ー!?」「フィリア様ーっ!?」
朝の王宮が、軽くパニックに包まれていた。
「どういうことですか!? 王子と王女が“お散歩中”ってどういう意味ですか!?」
アリアの怒鳴り声が響き、側近たちは揃って頭を抱える。
「す、すみません王妃様……昨晩、ユリウス様が“散歩癖は大事”と仰られたので……」
「いや私そこまで言ってない!!」
「じゃあ誰がリアムに“地図”を渡したの!?」
「それ私です!!!」とグラディウス(祖父)が誇らしげに挙手。
「お義父様アアアァァ!!!!!」
◇ ◇ ◇
一方そのころ。
城門近くの市場に、ふたりの小さな影がいた。
「ここ、外のにおい……する……!」
「フィリア、こっち! 面白いかたちのパンある!」
リアムは冒険心旺盛。
フィリアは好奇心の塊。
この最強兄妹、まだ三歳にして初の王宮脱走を果たしたのである。
◇ ◇ ◇
ふたりが立ち寄ったのは、路地裏のパン屋。
「あらあら……見ない顔のちびちゃんたちねぇ。どこのおうちの子?」
おばあさんの問いに、フィリアはにっこり笑って答えた。
「フィリア・エル・グラディウスです! 王妃アリアの娘!」
「うっそおおおぉぉぉぉぉ!!!!」
パン屋中が騒然。
その頃、王城では。
「……位置が分かりました、パン屋です!」
「すぐ行きます!!!」
アリア、ローブを翻しながら全力ダッシュ。
ユリウスもそれに続く。
「待ってろ、リアム! フィリア!!」
「あとパン屋の皆さん、混乱させてごめんなさい!!」
◇ ◇ ◇
そして数分後。
市場の広場にて、双子は再び両親の腕に戻った。
「もう……本当に、どれだけ心配したと思ってるのよ!」
アリアの声が少し涙混じりになると、
フィリアが小さくハンカチを差し出した。
「……まま、ごめんなさい……でも……たのしかった……」
リアムも、小さな手でアリアの頬をぺしぺし触りながら呟く。
「でも……みんな、フィリアの名前知ってて、いっぱい笑ってくれた」
ユリウスが、ゆっくり膝をつき、ふたりに微笑んだ。
「ねえ。君たちはもう、外に出るってことがどれだけ大事かわかるよね?」
「うん……!」
「でも、また行きたい……!」
アリアは深くため息をつき――
「次からは、ちゃんと一緒に行こうね」
と微笑んだ。
◇ ◇ ◇
その夜。
アリアは育児日誌に、こう記した。
『今日、子どもたちは“世界の外”を見た。
そこに希望も、危険もあると知って。
でも一番知ってほしいのは、“帰る場所がある”ってこと――
それが家族。私たちの手で、守っていく。』
──3回目の最終話・第30話へ続く。
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