第23話 ──はじめての不安、そして“家族”の支え
王国は静かな春を迎えていた。
だがその穏やかさの中で、王妃アリアの心は少しだけ揺れていた。
◇ ◇ ◇
「……ちょっと、動いただけで疲れる……」
執務机の前で、ふぅ、とため息をついたアリアは、無意識にお腹をさする。
まだ目立つほどではないけれど、
そこに確かに“新しい命”がいると感じるたび、嬉しさと共に――不安が込み上げた。
「王妃としての職務もこなせてない気がするし……これで、母親になれるのかな……」
◇ ◇ ◇
そんなある日。
ユリウスが、執務室に菓子皿とハーブティーを持って現れた。
「はい、休憩。君、今日三時間も座りっぱなしだったよ」
「えっ……あ、ありがとう。でもまだ書類が――」
「それより大事なことあるでしょ。
君の“体”と、その中の“小さな命”」
その言葉に、アリアは自然と目を伏せた。
「……ねえ、ユリウス。わたし、ちょっと自信がなくて……。
王妃としても、母親としても、ちゃんとできるかなって……」
「アリア」
彼はそっと、彼女の手を取り――両手で包む。
「“ちゃんとできるかどうか”なんて、最初からわかる人なんていないよ。
でも、君はずっと、迷いながらでも一歩ずつ進んできた。
だからきっと、王妃としても、母としても……君なら、絶対に大丈夫」
「……ユリウス……」
「それに、君は“ひとり”じゃない。僕が隣にいる。ずっと、支えるって決めたから」
そのまっすぐな言葉が、アリアの胸をそっとほどいた。
◇ ◇ ◇
そして、もうひとつの支え。
「はいはーい! 王妃様、おやつのお届けですわよ~ん!」
……それは、アリアの母・澪の明るすぎる声だった。
「母様!? な、なんで急に……」
「心配になって来たのよ~! 初孫だもの、あたしが見守らなきゃ!」
「……父様、まさかまた仕事押しつけられてない……?」
「ふふ、それは内緒。彼、“孫の服は俺が仕立てる”って張り切ってるから平気よ♪」
――魔王グラディウス、現在“ひとり裁縫修行中”。
◇ ◇ ◇
その夜。
ユリウスと並んで寝台に座るアリアは、穏やかな声で囁いた。
「ねえ……不思議だね。
昔は“世界の命運”とか“神託”とか、そんな重いものばかりだったのに……
今は“この子の未来”を考えるだけで、胸がいっぱい」
「それがきっと、“家族になる”ってことなんだと思うよ」
「うん……この子が生まれる世界が、優しい場所になりますように」
アリアはそっと、ユリウスの手を握り返した。
小さな祈りと、大きな愛をこめて――
──第24話へ続く。
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