第22話 ──鼓動、ひとつふたつ──王妃アリア、母になる
アリアが妊娠したお話です。
――ある春の日の朝。
王城の中庭で、アリアは穏やかに空を見上げていた。
陽光はやわらかく、風は花の香りを運んでくる。
けれど、胸の奥では小さな予感が揺れていた。
「最近、少しだけ……体が重い気がする」
王妃としての政務、外交、民との触れ合い。
日々は慌ただしくも、幸せだった。
でも、ここ数日――何かが違っていた。
◇ ◇ ◇
診療室。
王家付きの医師が、そっと頷いた。
「ご懐妊です、アリア様。
王子殿下とのお子で間違いありません」
「……!」
その瞬間、胸に灯ったのは、喜び――だけじゃなかった。
驚き、動揺、責任、そして深い深い幸せ。
“いのち”というものが、自分の内で芽生えているという事実に、言葉を失った。
◇ ◇ ◇
「……ユリウス、聞いてくれる?」
その夜、月下のバルコニーで、そっと彼の袖を引く。
ユリウスは不思議そうに振り返った。
「どうしたの? 急にそんな真剣な顔して」
「……私たち、もうすぐ“ふたり”じゃなくなるの」
「……え?」
「赤ちゃん……できたの。私たちの子」
一瞬、言葉をなくしたユリウス。
けれど次の瞬間――信じられないように、でも確かに、彼はアリアを抱きしめた。
「ありがとう……ありがとう……!」
「こ、こら! しっかりして、王子様……!」
「ごめん……でも、本当に嬉しくて……アリア……」
その声が震えていた。
彼の肩も、微かに震えていた。
戦場で何度も命を懸けた男が、
初めて“父になる”という未来に、心の底から喜びを溢れさせていた。
◇ ◇ ◇
その夜、アリアは彼の胸に寄り添いながら、ぽつりと囁いた。
「ねえ、ユリウス。
私、この子に――あなたみたいな強さと優しさ、どっちも持ってほしいな」
「じゃあ僕は、この子に――君のような光と意志を」
ふたりは、まだ見ぬ命にそっと誓う。
「ようこそ、私たちの未来へ」
「待ってるよ、あなたに会える日を」
──第23話へ続く。
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