第20話 ──第三試練・精神の継承──“王の器”に問われる、未来の選択
――魔王の試練、最終日。
その名は、“継承の間”。
過去と未来を繋ぐ精神魔法空間。
そこで“王の器”に相応しいか――真にアリアの隣に立つ資格があるかが、最後に試される。
「第三の試練、“精神継承”。
これより、お前の魂を“魔王の記憶”へ繋ぐ」
グラディウスの前に跪くユリウス。
「この儀は、ただの幻視ではない。
お前自身が、“王として選ばれなかった者たち”の記憶と痛みを受け止められるか――」
「……それでも、受けます」
ユリウスの声に、一片の迷いはなかった。
「俺は、アリアと共に未来を作ると決めた。
ならば、彼女の隣に立つ人間として、過去のすべてを“継承”する覚悟があります」
澪が静かに呟く。
「……まるで、あのときのあなたみたいね。ね、魔王様?」
「……そうだな。だが、あのときの俺より――こいつはずっとまっすぐだ」
◇ ◇ ◇
精神の中――。
そこは、果てのない“記憶の海”だった。
剣が砕ける音。
血が染みる記憶。
そして、何百年もの孤独。
グラディウスが背負ってきたもの。
魔王として、王として、父として――愛を知った後の責任の重さ。
(これが……父上の……)
ユリウスは、そこに現れた“少年の姿をしたグラディウス”と向き合う。
「貴様に問う。“王”とは何だ?」
「……覚悟、です。
国や民だけでなく、最愛の人さえ守ると決めたとき、逃げないこと。
苦しみも、誤解も、孤独も、すべて背負ってもなお、“隣に立ちたい”と願える心――」
「貴様のその言葉が偽りでないならば……!」
少年グラディウスが剣を振るい、幻影の中で最後の問いをぶつけてくる。
ユリウスはそれを受け、拳を握る。
「……俺は、あの人の涙を、何度も見てきた。
彼女の未来に、苦しみがあるなら、それごと愛したい。
笑ってほしいから。
“彼女が王である前に、ひとりの女の子”なんだって、忘れないために――俺は王になる!」
その瞬間、記憶の空間がまばゆく光り――
意識が現実へと還る。
◇ ◇ ◇
目を開けると、王座の間。
そして目の前には、アリアがいた。
「ユリウス……!」
彼女の瞳が潤む。
そして、魔王グラディウスが――静かに、玉座から立ち上がった。
「ユリウス・エル=ノヴァ」
「……はい」
「我が娘、アリア・グラディウスの婚姻を――正式に許可する」
その瞬間、澪が泣き出し、アリアが口元を押さえて笑う。
「やった……ほんとに、やった……!」
「……ありがとう、父様」
「感謝するな。俺はただ、見届けたかっただけだ。
“世界を救った娘が、自分の未来を救われる姿”を」
グラディウスは小さく呟き、玉座へと静かに戻った。
◇ ◇ ◇
その夜。テラスに出たふたり。
王都の灯りが星のようにきらめく空の下、アリアがぽつりと尋ねた。
「ねえ、ユリウス。もしも、あなたが王になったら……国と私、どっちを選ぶ?」
昔、父が母に聞かれたという質問。
ユリウスは、少しも迷わず答えた。
「君が“国”を背負うなら、俺は“君”を背負う。
どちらも選ばないよ。――“一緒に守る”んだ、アリア」
その答えに、アリアはそっと瞳を閉じ、
静かに――唇を重ねた。
──エピローグへ続く。
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