第18話 ──“魔王の試練”第一夜──肉体戦闘訓練と、愛の宣誓(物理)
――魔王の試練、一日目。
それは、とてもシンプルな名目で始まった。
「初日:肉体訓練。
対象:素手による模擬戦。
内容:魔王直属近衛六将との“連続六番勝負”」
「……殺す気?」
思わずユリウスが口にした呟きは、決して誇張ではなかった。
◇ ◇ ◇
訓練場。王城地下の闘技回廊。
その中央に立つのは、軽装のユリウス。
対するのは、六人の魔族近衛騎士。どの者も一国の将軍クラス。
「剣も魔法も禁止、だと?」
「口答えはするな。これは“魂と拳”の試練だ」
審判席からそう告げたのは――もちろん、グラディウス。
澪は隣でお茶を飲みながら、「父親って面倒よねぇ」と笑っていた。
そして――その視線の先。
観覧席の隅で心配そうに見守る少女がいた。
「がんばって、ユリウス……っ」
魔王の娘としてではなく、ひとりの少女として、彼を応援するアリアの姿だった。
◇ ◇ ◇
――第1戦、開始。
相手は、筋骨隆々の魔族戦士。
巨躯と膂力にものを言わせ、いきなり拳が唸りを上げる。
だが――
ユリウスは避けなかった。
真正面から突き出した拳で、応じる。
刹那、魔力の衝突すらなく、肉体同士の“覚悟”がぶつかる音が響いた。
ゴッ!!
「っ……がはっ……!」
吹き飛ぶユリウス。地面に転がり、血が滲む。
「ここで……倒れるわけには……!」
歯を食いしばり、立ち上がる。
顔を上げると――アリアが叫んでいた。
「立って、ユリウス!! あなたは、こんなところで終わる男じゃない!」
その声は、戦う理由を思い出させてくれる。
(そうだ、俺は……“彼女の隣に立つ”と誓ったんだ)
「――次、行こう。全員まとめてかかってこい」
「言ったな、坊主」
◇ ◇ ◇
夜が更ける頃、ユリウスは地に倒れ伏していた。
全身、痣。骨も数本いっているかもしれない。
だが、彼の顔には、清々しい“誓いの証”があった。
「……第一試練、合格とする」
そう言ったグラディウスの声に、ほんの少しだけ――誇りがにじんでいた。
「お前の拳に、確かに“信念”はあった。
次は、“魔力”を見せろ。……貴様の中に宿る“王たる力”を」
◇ ◇ ◇
その夜、医務室のベッドでユリウスは目を覚ます。
隣には、手を握ったまま眠っているアリアの姿。
「……君の手って、こんなに小さかったんだな」
囁いたその声に、アリアのまつげが揺れる。
「起きてたの……? びっくりした、泣いちゃったじゃん、あたし……」
「泣いてくれたの? それはちょっと嬉しいかも」
「……調子乗ったら、もう一発近衛将にぶつけるよ?」
照れながら怒るアリアに、ユリウスは静かに手を重ねた。
「でも本気で思った。殴られるより、君の涙の方が……よっぽど痛いって」
「……ばか」
それは、戦い抜いた“恋人未満の男”への、最上級の称賛だった。
──第19話へ続く。
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