第15話 ──戴冠式と、“魔王の娘”から“王”への道
王城の空が、蒼穹よりも澄みわたる青に染まっていた。
それはかつて“滅びの予言”が語られたこの場所が、いまや希望の空を戴くようになった証でもあった。
――そして今日、王城に集う民すべてが目撃する。
魔王の娘アリア・グラディウスが、“王”として歩み始める、その第一歩を。
◇ ◇ ◇
式典の広場。
天幕のもとに、貴族も魔族も、商人も旅人も並ぶ。
そして王座の左右に立つのは、初代の奇跡の夫婦――
魔王・グラディウスとその妻、白き花嫁・澪。
澪は娘の姿を見つめ、静かに微笑んだ。
「あなたの選んだ姿は、本当に綺麗」
「……ううん、母さんがずっと信じてくれてたから、ここに立てたんだよ」
緊張した声で、アリアは小さく返した。
一方のグラディウスは、娘に“父として”ではなく、“王として”問う。
「アリア・グラディウス。
貴様は、この世界を導く者として立つ覚悟があるか?」
「はい。私は、あなたたちから受け継いだものを守り、そして“自分の道”を拓いていきます」
「ならば――我が血を継ぐ者よ。その名のもとに、戴冠の儀を授ける」
澪がそっと、銀の冠を手渡す。
それをグラディウスが掲げ、娘の頭上に――静かに、慎重に、しかし確かな意志で、戴かせる。
「此処に宣言する。
白と黒を統べる継承者、“双光の王女”アリア・グラディウスを以て、
我が後継とする」
その瞬間、空に祝福の光が放たれた。
拍手。歓声。あたたかな風と、魔力の旋律が響く。
◇ ◇ ◇
式後の静かな控室。
ドレスの裾を持ち上げながら、アリアはそっと鏡の前に立った。
「……これが、王の姿……」
ドレスの色は、白金と黒を基調としたもの。
白は母から受け継いだ“光”。
黒は父から受け継いだ“力”。
どちらかだけじゃない――私は、両方から生まれた。
「君は、似合ってるよ」
ふと、背後から声がかかる。
「ユリウス……」
「もう、誰も“魔王の娘”なんて呼ばなくなるかもね。
これからは、“女王アリア”だ」
「……じゃあ、ユリウスは? 私にどう呼ばれたいの?」
「……さあ、“未来の旦那様”とでも呼んでくれる?」
「な……っ、ば、ばかっ!」
顔を真っ赤にして、アリアは拳を構える――
けれど、その顔は嬉しさに滲んでいた。
「私は王として――でも、誰かの隣に立つ未来も、きっと悪くないって、思えたから」
「……なら、その隣に立てるよう、僕も強くなるよ」
ふたりはそっと手を取り合った。
そしてその手を、未来へと――繋いでいく。
──第16話へ続く。
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