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第13話  ──はじまりの遺跡と、“彼”の名はユリウス。



 初めて、その名前を聞いたとき。

 アリアの心に走ったのは、どこか切なさに似た衝撃だった。


「ユリウス……それが、あなたの名前?」


「そうだよ。ユリウス・エル=ノヴァ。

北の古都から来た、ただの旅人。……あるいは、“亡国の王子”と呼ばれたこともあるけどね」


 それは、古代ノヴァ王国。

 七年前に滅びた、伝説の魔導国家の名だった。


「亡国の……」


「“君の母が救った世界”のすぐ隣で、僕の国は救われなかったんだ」


 ユリウスの瞳には、どこか諦めと、優しさが混じっていた。


 


 ◇ ◇ ◇


 


 ――それは、アリアが魔王継承の儀式を前にして、“遺跡”へ向かう許可を得た日だった。


 場所は、王都の南。

 父グラディウスの世代ですら立ち入りを禁じていた、“最初の白き花嫁”ユリアの記憶が刻まれた場所。


「そこには、“未来を映す鏡”があるらしい」


 ユリウスはそう言って、笑った。


「君は知りたいんじゃないの? 自分の本当の居場所と――“選ぶべき未来”を」


「……どうして、私にそこまで関わってくるの?」


 アリアは問うた。

 見ず知らずの旅人、けれどどこか自分の内側を見透かしてくるような男。


「そうだな……理由なんて、ひとつで十分だろ?」


「……?」


「君を見たとき、助けたいと思った。

……きっと、それが全部さ」


 言葉よりもずっと、まっすぐな視線だった。


 アリアの心が、ふっと揺れる。


(……父様の言ってた“守りたいという本能”って、こういうこと?)


 


 ◇ ◇ ◇


 


 遺跡の扉が開いた瞬間、空間がねじれた。


 古代魔法の結界。

 ユリウスが魔法剣で切り裂き、ふたりは内部へと進む。


 そこにあったのは――半球状の水晶の装置。

 まるで空の星々を閉じ込めたような、淡く瞬く球体だった。


「これが、“未来の鏡”……?」


 アリアが手をかざした瞬間、水晶が反応した。


 光がはじけ、映し出されたのは――


 燃え落ちる王都。崩れ落ちる魔王城。

 そして、瓦礫のなかにひとり立ち尽くすアリアの姿。


「……なに、これ……これが、未来……!?」


「いや――これは“未来候補の一つ”。君が選ばなければ、このまま起きるかもしれない可能性、だ」


 ユリウスの声も、かすかに震えていた。


「どうして……どうして、私が選ばなきゃいけないの?

誰かが決めた運命に、従うしかないの……?」


「違う」


 その時、ユリウスが強くアリアの手を握った。


「君がその目で見たこと、選んだことだけが――“この世界の明日”になる。

だから、目を逸らさないで。アリア」


「ユリウス……」


 少女の瞳に、静かな決意が宿る。


「私、逃げない。世界がどんな未来を突きつけてきても、私は……私自身の答えを出す!」


 水晶の輝きが、アリアの意思に呼応して変化する。


 そのときだった。


 遺跡の奥に、漆黒の魔力が渦を巻いた。


「く……黒の教団の残党か……!」


 ユリウスが剣を抜き、アリアが初めて自身の魔力を解き放つ。


 少女の瞳は、父譲りの“赤”ではなく、母譲りの“金色”に揺れていた。


 


 ──選ばれるのではない。


 自ら選ぶ、運命を。


 


──第14話へ続く。



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