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新章 第1話『継承者①:図書館で出会った少女』


澪の外伝編に続く新章へ


 その日、雨が降っていた。


 静かな午後、薄曇りの空。

 春野澪が勤務する図書館の閲覧室には、まだ幼さの残る少女が一人、そっと入ってきた。


 彼女は澪の机に視線も寄せず、まるで迷い込んだ猫のように書棚の影を歩き、

 やがて一冊の文庫本にそっと指先を伸ばした。


 


 ──『王都ルヴィエール物語』


 


 背伸びするように取り出したその本を、大切そうに胸に抱きしめた瞬間。

 少女の表情が、一瞬ふっと和らいだのを、澪は見逃さなかった。


「……いらっしゃい」


 澪が声をかけると、少女は小さく頷いてからぺこりと頭を下げ、貸出カウンターへと向かった。


「この本、借りてもいいですか」


 まっすぐに差し出された声は、わずかに緊張を帯びていた。


 ──その瞳に、かつての“自分”を見たような気がした。



 それからというもの、少女は毎週図書館に通ってくるようになった。


 彼女の名前は「柚月ゆづき」、中学一年生。


 初めはあまり話さなかったが、読み終えた本の感想をぽつぽつと話すようになり、

 ある日、澪にこんな質問を投げかけた。


「この“ミオ”って、本当にいた人なんですか?」


「……どうして、そう思ったの?」


「だって、誰かのことをこんなに“好き”って思って書いた物語、ウソに思えなくて……」


 澪は、その言葉に心がふるえた。


 この少女は、物語の“真実”に触れようとしている。

 そのことが、ただ嬉しかった。


「ねぇ……記録って、誰でも残していいの? こんな普通の中学生でも」


「もちろんよ。記録は“偉い人”のものじゃない。

 たった一行でも、自分の言葉で綴れば、それは“あなたの物語”になるの」


 柚月は、少し照れたようにうなずいた。



 それから数ヶ月。


 柚月は“自分のノート”を持って図書館に通うようになった。


 最初は学校の愚痴や、友達との些細な出来事。

 けれど少しずつ、空想の人物、異世界の舞台、自分だけの“ルヴィエール”が綴られていった。


 澪はそれを読むことはなかった。

 でも、柚月が机に向かってペンを走らせる姿を見るたびに、心のどこかがあたたかくなった。


 ある日、澪は柚月にそっと一冊の小さなノートを手渡した。


 


 ──表紙には、銀色の文字でこう書かれていた。


 《記録者ノート・継承用》


 


「……これは?」


「私が使っていたノートと同じものよ。

 あなたに、託してもいいかな。“記録”の続きを」


 柚月は、ぎゅっとそのノートを抱きしめた。


「……はい。私、書いてみます。私の世界の“記録”を」


 


 その瞬間、澪は確かに感じた。


 自分の綴ってきた記録が、今、たしかに“次の誰か”に手渡されたのだと。


 風が吹いた。


 図書館の窓の向こう。雨はやんで、光が差し込んでいた。



 夜。


 澪は机の上に、封のされた自作の初版本を一冊だけ残した。


 ページの見返しに、手書きでこう添えた。


 


 “綴ってくれて、ありがとう。

 君が記録を継いでくれたから、私はもう大丈夫”


 


 そのページを閉じ、灯りを落とす。


 “記録を渡した者”としての澪の物語は、ひとまず終わりを告げた。


 けれど、新たな“継承者たち”の物語は、これから始まっていく。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

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