第11話 ──ようこそ、パパとママの世界へ
これはこの物語の番外編みたいなものです。
深夜の魔王城。
月が高く昇り、静寂が城を包むなか――一室から、かすかに声が漏れていた。
「おぎゃ……おぎゃああ……!」
「……! 泣いた、泣いた! 息してる、大丈夫!」
「落ち着け、澪。……いや、俺も、無理だ……!」
グラディウスの声が裏返る。
冷酷非道とまで恐れられた“魔王”のその姿は、いまや完全に新米パパだった。
◇ ◇ ◇
澪は、疲労困憊のなかで小さく笑った。
「ねえ、グラディウス。……この子、私たちに似てる?」
「似ている……気がする。特に、泣き顔が……お前にそっくりだ」
「ちょっと、それどういう意味?」
「可愛いという意味だ。……ほら、もう少し近くで見てみろ」
グラディウスは、ぎこちない手つきで小さな我が子を澪の腕にそっと抱かせた。
赤子は、目を閉じたまま、かすかに澪の指に触れる。
「……あったかいね。小さいのに、ちゃんと生きてる」
涙が自然と、零れていく。
「ありがとう、生まれてきてくれて。
そして……こんな私を、“ママ”にしてくれて」
その言葉に、グラディウスが沈黙する。
「……俺も、感謝している。
命を守ることから、逃げなかったお前に。
この手で、新しい命を抱けたことに。
そして――こんな俺を、父にしてくれたお前に」
互いに見つめ合い、そして子を見下ろすその視線には、
もう“魔王”も“花嫁”もいない。
ただ、ひと組の両親がいた。
◇ ◇ ◇
祝宴は三日三晩続いた。
魔族も人間も、精霊たちでさえも祝いの歌を贈る。
「“白き加護の姫君”に祝福を――」
人々はそう呼んだ。
だが澪とグラディウスは、それよりももっとシンプルな名を与えた。
「この子の名前は――アリア」
グラディウスがそう宣言したとき、城中に静寂が走った。
それは、三百年前に消えた“最初の白き花嫁・ユリア”の名に由来するものだった。
「ユリアを忘れたわけじゃない。
でも、あなたの未来には、もう私とこの子がいるんだって――刻みたかった」
澪の言葉に、グラディウスは小さく微笑む。
「アリア……俺の世界を、歌のように照らす名だな」
◇ ◇ ◇
夜。
赤子を抱いたまま、グラディウスは澪にそっと尋ねる。
「なあ、澪。もし、また新たな滅びの予言が訪れたら、どうする?」
「んー、そうね。きっとそのときは……“アリア”が世界を救ってくれるよ」
「……頼もしい娘だ」
「当たり前。だって、この子は――“魔王と白き花嫁の娘”なんだから」
ふたりは顔を見合わせ、そっとキスを交わした。
そして静かに、幼い命の眠る音を聞きながら――
未来へと続く扉を、また一つ、開けた。
──その奇跡は、終わらない。
そして、物語は“家族の物語”へと続いていく。
《エピローグ 完》
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